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EX STAGE38:蘇る光


 フィリはその後、次の日になるまで目覚めることはなかった。

 ウラヌスの話によれば、フィリは毒と身体の激痛のため、ここ数日まともに眠れなかったという。

 更には眠っても、あの時の出来事を思い出してしまうらしく、酷くうなされ、すぐに目覚めてしまっていたとのことだ。

 ウラヌスはそんな主を憂い、そしてそんな主を救うべく……天野翔琉の言葉を信じておいらたちが来るのを待っていたのだ。

 もちろん、この辺りに自生している薬草などをかき集め、必死にフィリの看病はしていた。

 だが、色欲に盛られた毒を完全に解毒することはできず、毒の動きを一時的に鎮静化させるだけのもの……それと、痛みをごまかすための薬だけしか主には与えられなかった。

 このことは、ウラヌスにとっては最大最悪なまでに悔しかったらしい。

 せめて、自分が回復魔法を覚えていたら……そう思わない日はあれからなかったらしい。

 だから、彼はフィリが眠っている数時間の間……ファーストとヨルヤの作った異空間の中、回復魔法の達人であるリュウより指南を受けていた。

 回復魔法に必要なのは、相手を助けたいと思う【慈愛】……それと、繊細なまでの魔法の【コントロール】である。

 針の穴に糸を通すレベルの緻密で、複雑な魔法の式を並べ、構築、発動から相手の現在の身体状況の把握と、干渉を全て同時に行う必要がある。

 ちなみに、天野翔琉はその式を初回で習得し、リュウ以上の回復能力を手にいれている。

 これは、天野翔琉が彼のいた世界での出来事が由来しているのだろうとおいらは思う。

 翔琉は魔法ではなく、机上で理論と実験を繰り返す化学を専攻している男。

 故に、彼はその難解も方程式に置き換え、鮮やかに解いていただけなのだろう。

 化学が得意なものほど、魔法は強くなる。

 これは、おいらのお姉ちゃん……天野蘚琉で実証されている。

 化学で産み出された化け物となっていたお姉ちゃん……不老不死にさせられ、精神を狂わせた化学は彼女に強大な魔法と力を与えたのだから。

 「ほら、もう一度……」

 「は、はい!!」

 ウラヌスはリュウとの特訓を続ける。

 本人は気づいていないかもしれないけど、少しずつ上達はしていっている。

 だが、所詮は初歩の初歩。

 回復魔法と異常状態解除魔法では、会得難易度が違う。

 傷を癒す程度の回復魔法ならば、魔法の才があるものが行えば、3日もあれば会得できるだろう。

 だが、異常状態解除魔法となってくると……普通の魔導士で数年、才のある魔導士で半年、大魔導士以上の才能で数ヶ月……そして、天野翔琉レベルで数時間と言ったところだ。

 だから、本当に天野翔琉の魔法に対する才能は末恐ろしいんだよね。

 そしてウラヌスは、回復魔法と異常状態解除魔法を覚えた。

 かかった時間……現実世界2秒。

 かかった時間……異空間内2年と18日。

 充分に早い方だ。

 彼は喜びにうち震え、疲れはて眠ってしまった。

 主に寄り添い、くるまるように眠る彼はどこか幸せそうな顔をしていた。

 フィリも、ウラヌスが近くにいることを眠っていても分かるのか……自然と顔が微笑んでいた。

 今日は悪夢は見なくて済んでいそうだ……。

 

 

 翌日……フィリはスッキリしたような顔で目覚めた。

 おいらたちが簡単な朝食を作ると、王女とは思えないほどにがっつく。

 ここ数日、まともに食事が取れていなかったせいなのかもしれないな。

 いい食べっぷりだと、蘚琉も感心していた。

 ウラヌスはその横で、静かにご飯を食べつつ、時折フィリの口元を拭いたり、水をあげるなど、まさに執事のような行動を取っていた。

 いや、執事というより、過保護な親にしか見えないけどな。

 朝食を終え、おいらたちはノース文明の遺跡の最奥部にある、謎の石碑の前へとやってきた。

 この石碑は、【ノースクリフ】と呼ばれるもので、ノース文字といくつかの言語を織り混ぜてかかれた文脈が刻まれた石碑である。

 未だに解明されていない石碑で、一説によるとノース文明が滅んだ原因ともされている。

 だが、それは未だに謎である。

 「さて……じゃあ、ここで天野翔琉を召喚するわよ」

 フィリは魔法の錫杖を別空間から取り出し、魔力を込め始める。

 彼女の手にある錫杖には、集約された魔力が集まり、黄緑色の発光体へと変化させる。

 さらには、それに呼応するかのようにいくつもの魔方陣が現出する。

 「召喚魔法奥義(しょうかんまほうおうぎ):異世界(ワールド)からの来訪者(イレギュラー)

 魔方陣は1つへと集まり、おびただしい光を放つ。

 それは、まるで太陽のような光レベルに……。

 その光が収まると、魔方陣のあったところには人が立っていた。

 そう……それは、まさしく天野翔琉だったのだった。

 「やあ、みんな……普通で普通すぎる天野翔琉だよ」

 そう翔琉は微笑みながら言った。

 なんだか、いつもと変わらなさすぎて拍子抜けしてしまったおいらたちなのだった。

 

 

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