表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/49

EX STAGE36:残虐なる色欲


 "精霊族の住まうこの地には、太陽の光なくとも明るく常に照らされている。

 それは、私たちの神木である「時年樹」が放つ発光体が、彼の子供たちである森の木々に宿っているため、夜になると自然に街灯のように、淡い光となって木々は輝く。

 そのため、この国には光の恩恵があったのだ。

 だが、色欲の放った黒々しいオーラは、その光すら遮断し、闇の空間を構築したのだ。

 真っ暗闇……しかしながら、私たちも天野翔琉より光属性の恩恵を授かっている。

 故に、この漆黒の中でも視界は常に照らされている状態だった。

 「暗黒魔法(あんこくまほう):異空間(ブラックワールド)ってね~」

 闇に溶け込んだ色欲の声は、空間内にこだまする。

 「やれやれ、君たち~俺ちんを本気にさせたからには、もうただでは済まさないよ~」

 やる気の無さそうな台詞だが、明らかに怒りのこもった声だった。

 「くっ‼なんだこの空間は……」

 「主!無事か?」

 と、ドラグルとウェルは私とウラヌスの存在と無事を確認し、少しだけ安堵する。

 「主……この空間は?」

 「かつて、パラノイアと言われた生命体であった天野蘚琉が、水の大魔導士リュウ、そして天野翔琉との戦闘において使ったとされる魔法ね……この空間内では、あらゆる状態異常が発動してしまい、防ぐ手だてはないというけど……」

 「あはっ♪さすがは、かつて異世界で天野翔琉と共にした者の一人……よくご存じで……」

 その声がする場所に向かって、ドラグルとウェルは攻撃をする。

 だが、そこにはなにもなかった。

 「くっ……どこだ?」

 「匂いも分散していて、分からねぇし……」

 「主、この魔法を解く方法はないのですか?」

 「……確か、空間を破壊できる程の光属性の攻撃か……魔法を受けている対象者が一定の力を失えば解けるはず」

 「うん、そうだよ♪ 王女様の言うとおり♪ 確かに、この空間は光属性の攻撃で破壊できるよ♪ ためしに、やってみれば♪」

 色欲はそう楽しげに言った。

 おかしい……なにかおかしい。

 「じゃあ、さくっとやるか」

 「だな……」

 そう言ってドラグルとウェルが光属性の魔法を使おうとしていた。

 「ま、待って二人とも!」

 私の静止の声は遅かった。

 光属性の魔法を使った二人は、黒い霧のようなものに包まれ始めた。

 「ぐぅぅぅ……な、なんだこれは……」

 「なにかが……ぐぅぅぅ……がぁぁぁぁぁ‼」

 二人は地面に転がり回るほどに苦しんでいる。

 バタバタと足をばたつかせ、唾液を溢れんばかりに口から漏洩させながら。

 「ドラグル‼ ウェル‼」

 と、私はウラヌスから離れ、ふらつく身体で二人のもとへ駆け寄る。

 「ぐぅぅぅ……あ、主……」

 「い、いやだぁぁ……あ、主」

 「気をしっかりと‼ く……こんな時、異常状態回復系の魔法さえあれば……」

 「ぐぅぅぅ……」

 「ぐぅぅぅ……」

 バタバタと暴れていた二人は、落ち着きスッと立ち上がった。

 「ふ、二人とも?」

 そういう私に二人は向かい合い、次の瞬間私に噛みついてきたのだ。

 「いやぁぁぁぁ‼」

 「あ、主!」

 ウラヌスは急ぎ、駆け寄ろうとするが謎の壁に阻まれ、私に近づけなかった。

 「くそ!くそ!邪魔をするなぁぁぁぁ‼」

 と、ウラヌスは壁に向かって攻撃するも、びくともしない。

 「あ、主……主の肉ウマイ」

 「あ、主……主の血ウマイ」

 「ふ、二人とも、やめて……」

 腕も足も腹も、二人は夢中で噛みつく。

 幸い、食いちぎることはしてないのだが、鋭い牙と彼らの唾液が傷口に食い込む度に激痛が走る。

 更には、毒の進行も進んできており、私の身体は痺れ始めた。

 「あはは♪主をむさぼる獣たち……最高に素晴らしい光景だね……」

 色欲は、暗闇からスッとその姿を表し、私が噛みつかれている光景をまじまじと眺め微笑んでいた。

 「おのれ……色欲‼ドラグルたちに、何をしたのよ!」

 「なにって、彼らの欲を発散させたのさ……獰猛な肉食獣が本来持つ食に対する【欲】をね……いや、別に性欲強くして強姦される姿を見ても良かったんだけどさ~ほら、なんかそれだけじゃ面白くねぇじゃん?」

 「どこまで、人をばかに……あ、ああああ……‼」

 ドラグルとウェルは、私の胸に噛みついた。

 噛んでは、その傷口から出る血をなめ回し、噛んでは、その傷口から出る血を舐め回す……。

 「どう?感じてきた?」

 「ふざけるな!二人を戻せ!」

 「あは♪君こそ、二人を強制送還すればいいじゃないか……召喚魔導士さん」

 「やってるわよ、さっきから‼でも、できないのよ!!」

 「そりゃそうでしょ‼だって、二人の支配権は今俺ちんが握ってるんだから」

 色欲はそう言うと、高笑いする。

 知っていてわざと聞く……どこまで私を絶望させたいんだこいつは。

 「主!主を返せ‼」

 ウラヌスは、壁に向かって吠える。

 何度も何度も攻撃をするが、決してその壁は破れない。

 最後には魔法を使わずに、壁を殴り始める……その手が自身の血で滲んでも、何度も何度も。

 「さて、王女……そろそろ、とどめといこうか……」

 パチン、と色欲が指をならすと、ドラグルとウェルは各々の爪を尖らせ、私の首もとへ凶器を走らせる。

 「さようなら、王女様……」

 あー、私は終わったんだ……。

 そう諦めかけたその時、私の身体から強烈な光が放たれ、ドラグルとウェル、そして色欲は吹き飛ばされる。

 そして、ウラヌスを足止めしていた壁は跡形もなく消え去る。

 「主!」

 と、ウラヌスは駆け寄り、私を抱き寄せた。

 「……くっ!一体、何事だ!」

 憤る色欲とは裏腹に、私から発せられた光は球体の姿になり暗黒魔法:異空間を撃ち破る。

 闇の空間は消え去り、元いた王国の大広場に戻っていた。

 「な、なんだ……‼あの光は‼」

 色欲は驚いていた。

 が、次の瞬間光の球体は人の形を形成していき、その真の姿を表す。

 私はその姿を見て、安堵した。

 そして、同時にイラッともした。

 「もう……助けるなら早く助けてよ……天野翔琉」

 そう、それは先程消え去ったはずの天野翔琉だったのだ。

 

 "

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ