EX STAGE36:残虐なる色欲
"精霊族の住まうこの地には、太陽の光なくとも明るく常に照らされている。
それは、私たちの神木である「時年樹」が放つ発光体が、彼の子供たちである森の木々に宿っているため、夜になると自然に街灯のように、淡い光となって木々は輝く。
そのため、この国には光の恩恵があったのだ。
だが、色欲の放った黒々しいオーラは、その光すら遮断し、闇の空間を構築したのだ。
真っ暗闇……しかしながら、私たちも天野翔琉より光属性の恩恵を授かっている。
故に、この漆黒の中でも視界は常に照らされている状態だった。
「暗黒魔法:異空間ってね~」
闇に溶け込んだ色欲の声は、空間内にこだまする。
「やれやれ、君たち~俺ちんを本気にさせたからには、もうただでは済まさないよ~」
やる気の無さそうな台詞だが、明らかに怒りのこもった声だった。
「くっ‼なんだこの空間は……」
「主!無事か?」
と、ドラグルとウェルは私とウラヌスの存在と無事を確認し、少しだけ安堵する。
「主……この空間は?」
「かつて、パラノイアと言われた生命体であった天野蘚琉が、水の大魔導士リュウ、そして天野翔琉との戦闘において使ったとされる魔法ね……この空間内では、あらゆる状態異常が発動してしまい、防ぐ手だてはないというけど……」
「あはっ♪さすがは、かつて異世界で天野翔琉と共にした者の一人……よくご存じで……」
その声がする場所に向かって、ドラグルとウェルは攻撃をする。
だが、そこにはなにもなかった。
「くっ……どこだ?」
「匂いも分散していて、分からねぇし……」
「主、この魔法を解く方法はないのですか?」
「……確か、空間を破壊できる程の光属性の攻撃か……魔法を受けている対象者が一定の力を失えば解けるはず」
「うん、そうだよ♪ 王女様の言うとおり♪ 確かに、この空間は光属性の攻撃で破壊できるよ♪ ためしに、やってみれば♪」
色欲はそう楽しげに言った。
おかしい……なにかおかしい。
「じゃあ、さくっとやるか」
「だな……」
そう言ってドラグルとウェルが光属性の魔法を使おうとしていた。
「ま、待って二人とも!」
私の静止の声は遅かった。
光属性の魔法を使った二人は、黒い霧のようなものに包まれ始めた。
「ぐぅぅぅ……な、なんだこれは……」
「なにかが……ぐぅぅぅ……がぁぁぁぁぁ‼」
二人は地面に転がり回るほどに苦しんでいる。
バタバタと足をばたつかせ、唾液を溢れんばかりに口から漏洩させながら。
「ドラグル‼ ウェル‼」
と、私はウラヌスから離れ、ふらつく身体で二人のもとへ駆け寄る。
「ぐぅぅぅ……あ、主……」
「い、いやだぁぁ……あ、主」
「気をしっかりと‼ く……こんな時、異常状態回復系の魔法さえあれば……」
「ぐぅぅぅ……」
「ぐぅぅぅ……」
バタバタと暴れていた二人は、落ち着きスッと立ち上がった。
「ふ、二人とも?」
そういう私に二人は向かい合い、次の瞬間私に噛みついてきたのだ。
「いやぁぁぁぁ‼」
「あ、主!」
ウラヌスは急ぎ、駆け寄ろうとするが謎の壁に阻まれ、私に近づけなかった。
「くそ!くそ!邪魔をするなぁぁぁぁ‼」
と、ウラヌスは壁に向かって攻撃するも、びくともしない。
「あ、主……主の肉ウマイ」
「あ、主……主の血ウマイ」
「ふ、二人とも、やめて……」
腕も足も腹も、二人は夢中で噛みつく。
幸い、食いちぎることはしてないのだが、鋭い牙と彼らの唾液が傷口に食い込む度に激痛が走る。
更には、毒の進行も進んできており、私の身体は痺れ始めた。
「あはは♪主をむさぼる獣たち……最高に素晴らしい光景だね……」
色欲は、暗闇からスッとその姿を表し、私が噛みつかれている光景をまじまじと眺め微笑んでいた。
「おのれ……色欲‼ドラグルたちに、何をしたのよ!」
「なにって、彼らの欲を発散させたのさ……獰猛な肉食獣が本来持つ食に対する【欲】をね……いや、別に性欲強くして強姦される姿を見ても良かったんだけどさ~ほら、なんかそれだけじゃ面白くねぇじゃん?」
「どこまで、人をばかに……あ、ああああ……‼」
ドラグルとウェルは、私の胸に噛みついた。
噛んでは、その傷口から出る血をなめ回し、噛んでは、その傷口から出る血を舐め回す……。
「どう?感じてきた?」
「ふざけるな!二人を戻せ!」
「あは♪君こそ、二人を強制送還すればいいじゃないか……召喚魔導士さん」
「やってるわよ、さっきから‼でも、できないのよ!!」
「そりゃそうでしょ‼だって、二人の支配権は今俺ちんが握ってるんだから」
色欲はそう言うと、高笑いする。
知っていてわざと聞く……どこまで私を絶望させたいんだこいつは。
「主!主を返せ‼」
ウラヌスは、壁に向かって吠える。
何度も何度も攻撃をするが、決してその壁は破れない。
最後には魔法を使わずに、壁を殴り始める……その手が自身の血で滲んでも、何度も何度も。
「さて、王女……そろそろ、とどめといこうか……」
パチン、と色欲が指をならすと、ドラグルとウェルは各々の爪を尖らせ、私の首もとへ凶器を走らせる。
「さようなら、王女様……」
あー、私は終わったんだ……。
そう諦めかけたその時、私の身体から強烈な光が放たれ、ドラグルとウェル、そして色欲は吹き飛ばされる。
そして、ウラヌスを足止めしていた壁は跡形もなく消え去る。
「主!」
と、ウラヌスは駆け寄り、私を抱き寄せた。
「……くっ!一体、何事だ!」
憤る色欲とは裏腹に、私から発せられた光は球体の姿になり暗黒魔法:異空間を撃ち破る。
闇の空間は消え去り、元いた王国の大広場に戻っていた。
「な、なんだ……‼あの光は‼」
色欲は驚いていた。
が、次の瞬間光の球体は人の形を形成していき、その真の姿を表す。
私はその姿を見て、安堵した。
そして、同時にイラッともした。
「もう……助けるなら早く助けてよ……天野翔琉」
そう、それは先程消え去ったはずの天野翔琉だったのだ。
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