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EX STAGE32:悪夢の始まり


 " 今からほんの数日前の出来事だった。

 森の外れにある、王家御用達の修行場で私はいつものように鍛練をしていた。

 「召喚魔法:異人伝臣(いしんでんしん)‼」

 私が得意とするのは、召喚魔法。

 俗に言う、召喚魔導士(サモナー)と呼ばれる類いの魔法使いで、異界や過去未来現代から私の力になってくれる者を呼び出し使役することができるのだ。

 故に私は、常に周りに召喚した者たちで固めていた。

 口先だけの愚かな父の配下のバカ大臣たちに媚びへつらわれるのが嫌いだから、護衛や身の回りの世話はいつも召喚で呼び出した者たちにやってもらっている。

 「フィリ王女……本日も鍛練お疲れ様です」

 ウラヌスは、魔法鍛練後に、いつも冷やしたタオルと水を運んでくれる。

 「王女様~僕ちんがお手製のおやつを作ってきたよ~動いたあとには甘いもの食べなきゃ♪」

 龍族の護衛兼料理人のドラグルは、いつも美味しいものを作ってくれる。

 「さて、王女様……休憩が終わったら、続きを始めますよ」

 狼族のウェルは、近接戦闘のプロ。厳しいけど優しく私にいつも鍛練をしてくれる。

 彼らはみんな、私が呼んだ召喚獣。

 みんな、とても優しくて、楽しくて……素敵な仲間たち。

 「みんな、いつもありがとうね」

 そう言って私が彼らを撫でると、彼らはとても嬉しそうに、尻尾を振ってくれる。

 こんな日が続いていたら……と、あの日の出来事以降……私はますます思うようになった。

 そして、その日の出来事について、いよいよ話す事にしよう。

 私のいる王国に、とある放浪者が現れた。

 のちに分かったのだが、この者は悪の因子の1人である色欲(ラースト)であったのだ。

 「すみません……道に迷ってしまって……宿屋などはありませぬか?」

 ボロボロの布を被さり、あからさまに追い剥ぎにあったようなみすぼらしさを演出したそいつに、純粋な私の国民たちは騙された。

 当然だろう……困っている人を見かけたら助けようというのが、この国での本来の礼儀なのだから。

 「ありがとうございます……ありがとうございます……」

 そう色欲は何度も何度も頭を下げ、それはそれは喜んだ。

 誰もこの時、この者の心を読まなかったことが後に、惨劇を産み出すだなんて思わなかったことだろうしね。

 その者が宿泊した翌日……王国内で数人が失踪する行方不明事件が発生し始めたのだ。

 いや、行方不明といっても、半日もすれば戻ってくるのだが……どうにも、かくにも……行方不明になったものたちの心は黒く濁っていて、精霊族の固有能力でも読めなかった。

 最初は、何らかの影響下であるのか……そのために読めないのだろう。

 そう思っていた。

 否、みんなそう思うようにしていたのだ。

 こうして、着々と世間で言う【成り代わり現象】は進行していった。

 そして、行方不明事件発生の次の日……王国は戦火に覆われたのだった。

 

 

 「こ、これはいったい……」

 城から国王である父と、王妃である母と共に、私は戦火に覆われた城下町を見ていた。

 「国王陛下‼大変です、暴徒化した者たちが……」

 「ええい、大臣たちを呼べ! 今すぐ対策をするのだ……って、え……」

 だが、国王が目にしたのは、暴徒たちの中に、その大臣たちが紛れていたのだ。

 「「殺セ、奪エ、成リ代ワレ」」

 暴徒たちは、そう叫び城へ通じる門を叩く。

 ガンガンと、地響きに近しい音が業火の音と共に響き渡る。

 国王は血がにじむまで握りしめた拳を壁に叩きつける。

 「……やむなし……城内にいる兵士たちに撤退命令を……」

 「父上、なぜ戦わぬのですか!」

 「フィリ……お前は、私に愛すべき国民に武器を向けろと言うのか……」

 「そうではありません‼明らかに暴徒となっている者たちは魔法による洗脳の可能性があります。急ぎ、回復魔法を……」

 「おっと、そんなことされちゃあ困るな~」

 そんな間の抜けるように軽々しく話す者……色欲は突如として私たちの前に現れた。

 「き、貴様は……どこから入ってきた‼」

 「いやぁ~入れてもらったのよ~。俺ちん、こう見えてモテるんでね」

 「ふざけたことを……」

 「まて、フィリ……」

 父は、攻撃しようとした私の前に立ちはだかった。

 父が、母に目で合図し、母は私を押さえつけた。

 「この状況を作り出したのは君の仕業かね?」

 「そうだといったら……?どうするのかな?」

 「どうすれば、止めてくれる?」

 「おお!あなたはまさか、話し合いで解決しようとしてますか?」

 「……?そうだが?」

 「アンビリーバボ!さすがは知の国王と呼ばれる精霊族の現王‼ 素晴らしい考えだと思うよ。 いや、実はこの他にもいくつか国を滅ぼしてきたけど、みんな武力で解決しようとする野蛮なやつらでね。 ムカついたから殺してやったけどな♪」

 にこりと楽しそうに、殺したことについて語るこいつに私は恐怖を禁じえなかった。

 話し合いで解決できるなんて、レベルなら始めからこんなことはしないはず。

 「いやいや……でもね、うーん……そうだな……この騒ぎを止めちゃうと邪悪様やエンド様にどやされるし……うーん……」

 「頼む……私のできることならなんでもする……だから、我が家族、そして家族のように思う国民たちの命だけは……」

 「……♪ いいよ♪」

 色欲は考えたような素振りをして、すぐにそういった。

 楽しそうに、嬉しそうに。

 「んじゃあ、国王様……それから、王妃と姫君たちには、あることをしてもらいますね。 それがうまくいったら、いいよ……この国は諦めるよ」

 「……絶対だな?」

 「もちろん、この色欲(ラースト)……約束は必ず守るよ……必ずね」

 不気味に笑う色欲が、指を弾くと、暴徒化したものたちや、業火に覆われていた城下町の火は止まった。

 「さてさて、んじゃあ今から俺ちんが出す条件をクリアできたら……時を動かして、暴徒たちの洗脳を解いて、おとなしく出ていくとしよう。 もちろん、町の修理なんかも全部やるよ~。でも、もしも俺ちんの条件をクリアできなかったら……この国は予定通り滅ぶことになるだろうね~」

 「わ、わかった……で、ではその条件と言うのは……」

 「あー、そうだね。 いや、まずは条件をフェアにしなきゃだね。 この条件に挑めるのは1人だけ……なんだよね」

 そう言って色欲が、手のひらを返すと、父と母はばたりと倒れてしまった。

 「え、父上‼母上‼ 貴様……二人に何を……」

 「あー、いやいや。眠ってるだけだよ。これはたまたま今俺ちんがやった選別に君が残ってしまったってだけの話だよ~で?どうする?挑戦する?挑戦しない?」

 「……挑戦してやる……だが、約束を果たせよ」

 「おっけ~♪んじゃあ、わくわくのドキドキの王女凌辱タイム、始まるよ~」

 楽しそうに色欲が言った。

 ここからが、私の地獄の始まりだった。

 "

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