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EX STAGE31:主愛の獣


 狐は、光の中から飛び出ると、どこからか取り出した白旗を振り敗けを認めた。

 「お、御見逸れいたしました……我が主フィリ様が探していたのは、どうやらあなた方のようですね」

 「それで、フィリは?」

 「私ならここですよ……」

 聞き覚えのある声が、遺跡の奥の暗闇から聞こえてきた。

 そして、暗闇からゆらりゆらりと影が現れた。

 それは、みすぼらしいまでに窶れ、包帯を巻き付けて現れた女……フィリだだった。

 「うっ……」と、苦しそうな顔をして、地に向かって落ち行くフィリを狐は慌てて抱き抱える。

 「あんたたち、お願いだ!主を!主を助けてくれ!」

 そう狐は、先程までの敵意など微塵もなく、素直に頭を下げるのだ。

 「あたしが看るわ‼あたしはリュウ……医者よ」

 そう言ってリュウはフィリを狐から預かると、早速治療に取りかかった。

 「ひどい怪我……それに、なんというか……これは……」

 「拷問の痕?」

 始まりの神ファーストは、フィリの手足や怪我の様子から思わずそう呟いた。

 だが、リュウの見立てもその意見に同意だった。

 「殴られ、切り刻まれ、噛まれ、そして毒を盛られた……ってところね」

 「そんなことまでわかるのか!?」

 狐は目を丸くしていた。

 リュウの診察が的を得ていたようで、驚いているようだった。

 「んじゃあ、狼牙くん。 ちょっと、手伝って貰っていい?」

 「おう‼何を付加させるんだ?」

 「あたしに耐毒(たいどく)だけをかけてくれる? なにせ、水魔法の治癒は身体に毒が溜まってしまうからね」

 「わかった。 リュウに耐毒を付加‼」

 リュウの周りに緑色の水晶が現れる。

 そして、彼女はフィリの身体に触れ治癒魔法を使う。

 「完全回復魔法(かんぜんかいふくまほう):浄化泉(ヒーリングオーヴ)

 魔法を発動させた途端、フィリの身体についた生々しい傷痕、そして彼女を蝕んでいた毒は彼女の身体から溶け出し、リュウの身体に流れていく。

 ものの数分で、フィリの身体はすっかり綺麗に治っており、顔色も良くなっていた。

 「あ、ありがとう……主……治って良かった……」

 狐は、フィリに寄り添い、もふもふの尻尾で彼女を優しく包んだ。

 「さてと……えっと、狐くんの名前はなんというのかな?」

 「え?あー、我の名はウラヌス。フィリ王女の召喚魔法によって召喚され続けている執事だ」

 「執事? フィリは王女なのだから、そんなのいっぱいいそうな気がするのに……」

 「否……フィリ王女は幼少の頃より、召喚魔法を扱えたがゆえ、友と呼べるものや信頼できうる部下に恵まれなかったのだ。自分でなんでも出来てしまうが故に……寂しければ召喚すればいい、悲しければ召喚すればいい、楽しければ召喚すればいい、怒れるときは召喚すればいい……そんな考えになっていたのだ」

 ウラヌスは、そう悲しげに語った。

 主を憂いているのか……それとも、彼には主に対する慈愛があるがゆえにおいらたちに遠回しに懇願しているのかもしれない。

 主を一人にしないでくれと……。

 「しかし、ウラヌス。 なぜ、このような場所……ノース文明の遺跡のある忘れさられた森にお前や、フィリは居たのだ? 時年樹(タイムウッド)が守る精霊族の里は血生臭く、そして焼き払われていたのだが……」

 そうジンライが聞くと、ウラヌスは下を俯いて黙ってしまう。

 彼はなにもいってはいない……だが、伝わってくるのは、後悔と怒りの感情だった。

 下唇を自身の鋭い牙で噛み、赤い結露はしたたかに地へとこぼれ落ちる。

 「……それについては、私が説明するわ」

 「……‼ フィリ‼ 気がついたのね」

 リュウの膝枕で寝ていたフィリは、ゆっくりと起き上がった。

 そして、ウラヌスの頭を撫で、ぎゅっと後ろから抱き締める。

 「あ、主……良かった……本当に良かった……」

 「ウラヌス……ありがとう……みんなが来るまで私を守ってくれて」

 もふもふっと、尻尾を軽くなで、フィリはおいらたちの方へくるりと振り向く。

 そして王女は語り始める。

 なぜ自分がここにいて、なぜ精霊族の王国があんなことになっていたのかを……。


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