EX STAGE30:襲撃の獣
そしておいらたちは、ノース文明の遺跡のある忘れさられた森へと入ったのだった。
ん?
ここまでの経緯?
いや、経緯もなにもホントに歩いてそのまま森に入っただけだよ。
ただいつもと、というか聞いていた話とは違って驚いただけさ。
聞いていた話だと、蜃気楼のように消えてしまう森なわけだけど、おいらたちはすんなりと入れた。
自然公園にでも気軽に入るように、あっさりとだ。
「な、なんか……簡単ね」
思わずファーストさえ、そんな事を言ってしまうように、普通に入れたのだから。
ん、いやそういえば……。
「というか、ファースト……お前は、この文明についてなにか知らないのか?」
ヨルヤは、みんなが疑問に思ってくれていたことを聞いてくれた。
「知らないよー」
こんな感じであっさりとファーストは答えた。
いやいや、知っておけよ……と、みんなの心の声は揃ったような気がする。
「しっかし、ノース文明の魔術と言えば、失われた魔法技術……フルートがいたらさぞ喜ぶことだろうに」
「まあ、あの人は歴史が好きな歴女だからね……今は行方不明だけど」
「フルート……アニオン……ディル以外の3人の太古魔導士は依然として行方が知れないからね……逃げ延びててくれるといいんだけど」
リュウはそう言って、悲しげに空を見上げた。
空はどこまでも続いてる。
今、彼女たちが何をしていようとも……きっとこの空の下で無事にやってくれてることを祈ろう。
「んじゃ、行くか……いや、待て!」
ヨルヤは険しい顔になり、戦闘体勢に入った。
そして、おいらたちも……。
なぜそんな事をしたのか、それは目の前に殺意を持った獣が現れたからだ。
通常のものより、遥かに大きな尾が九つある狐に。
「我が主が鎮座せし遺跡内部には潜入させぬ」
狐は、鋭い牙を光らせ、魔法のオーラを身に纏う。
単なる魔法生物では、ここまでのオーラは出せまい。
それに、我が主と確かに言った。
主とは、誰だ?
「聞け、狐よ……我々は、精霊の姫君を探しにこの地に来ただけだ……だから……」
「精霊の姫君‼……お前ら……フィリを……フィリをどうする気だぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
「待て!お前、フィリを知っているのか?」
「だぁぁぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁぁぁぁぁれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼」
激昂した狐にもはや、おいらたちの声は届かなかった。
話し合いが通じればと思っていたけど、仕方がない……。
「頭を冷やしてもらうぞ」
そう言っておいらとジンライはスッと前に出て、戦闘体勢になった。
ちょうどいい……コンビネーションを鍛えるにはちょうどいい練習相手だ。
狐は魔法の火を操ることができる。
奴の周りには、狐火が漂っており、忘れさられた森はその火によって内部から焼かれていた。
……と思ったのだが、奴がまとっている火は自然に害するものではなく、辺りの木々や花に触れても燃えたりすることはなかった。
「業火に焼かれ、果てろ‼」
狐が放った火は、強烈な熱を帯びて、おいらたちに向かって放たれる。
どうやら、対象のものだけを焼ける特殊な魔法の火のようだ。
「火ならここは、あたしが……」
と、リュウが魔法を放とうとするが、おいらとジンライはそれを遮る。
そして、二人揃ってにこりと彼女に微笑む。
その顔を見たリュウは、こくりと頷き一歩後ろへと下がった。
「さて、ジンライ」
「おう、狼牙」
「「やるか‼」」
そう言っておいらとジンライは、魔法の光を帯びるのだった。
「ふん、それしきの光では、我が火は破れぬわ!」
狐は慢心していた。
まさか、自分の火が破られるなんてことはあり得ないと。
「……絶対滅亡操作」
おいらが、火に向かって拒否魔法を放つと火は鎮火した。
「な……なんだと?!」
「次は俺だ……光魔法:無限の光」
始まりの神ファースト、異世界最強の天野翔琉が得意とする光属性の超高難易度の魔法。
自身の周りに光の結晶を出現させ、その結晶から相手に向かって無数の光の攻撃を浴びせることができる魔法だ。
それをジンライはどうにか戦闘レベルに使えるまでにものにすることを成功した。
普通ならば、発動さえできない魔法だ。
が、なにせ初めての使い手である始まりの神ファーストによって地獄と言う表現すら生易しい特訓をしたのだから、今こうして使えているのだ。
「くっ‼狐尾防御‼」
狐は魔法を纏った尻尾で、自身の身体を覆い、魔法攻撃を凌ごうとしている。
しかしながら、おいらから言わせてもらえばそれは不可能だ。
「ジンライに、神魔法の力と対魔獣を付加‼」
ジンライの身体の周りに、黄金に輝く球体と、紫色に光る結晶が浮遊する。
その瞬間、狐は魔法攻撃を防御しきれなくなり、光に飲み込まれるのだった。
そう……おいらたちのコンビネーションとは、ジンライが前衛、おいらが後衛という役割を設けるだけのものだ。
だが、この方法を使えば……今では始まりの神ファーストや悪魔神ヨルヤ=ノクターンと同等以上で戦うことができるのだ。




