EX STAGE3:正体
目が覚めると、そこはある酒樽の臭いがする倉庫の中だった。
手足は縛られておらず、足もしっかりと治療が施されている。
「どこだ?ここは……」
辺りを見回すが、特に酒樽以外はなかった。
「……脱出しなきゃ」
そう思って、俺は扉に手をかけてるが、うんともすんとも言わない。
「ちっ……どーするかな……」
こんな時、あの世界だったら……魔法で一発なのにな。
「光の魔法:解錠、なーんて……」
といって、俺は再び扉に手をかける。
すると、扉が開いていた。
「え、嘘でしょ……」
思わず声に出してしまって言っていた。
こんな、魔法みたいなことが……。
うん。
そうだよ。
偶然だよ、きっと……。
「おや、お目覚めかね。天野翔琉博士」
そう言って、テロリストが現れた。
「……あなたは、誰?ここはどこ?」
「ん?まだ気づかないのかい?天野翔琉博士。ここは、『魔がさす楽園』だぜ」
「はぁ??」
『魔がさす楽園』……それは、俺が前に行った異世界の名前……そして、妄想の世界の名前だった。
もちろん、俺はその世界に行った事など、誰にも語ったことはない。
何故、テロリストが知っている?
「貴様ら……何者だ」
「そうですね……我々は『こういう』者ですよ……」
と、テロリストはその辺にいそうなモブそうな顔に手をやり、べりっと引き剥がした。
すると、そこにあったのは、魔がさす楽園の冥界で見た『悪魔』の顔だった。
「あ、あ……」
「ようやくご理解いただけましたか?私どもは、ヨルヤ=ノクターン様の名により、本物の『魔がさす楽園』へとお連れするためにやって参りました」
「本物の……だと?」
「はい。翔琉様が以前、居られた場所は、作られた『魔がさす楽園』。それは、あなたの前世が由来してそんな世界を御自身の中に生み出したのでしょうね……」
「俺の前世……??」
「おや、あの世界では御自身の前世については、聞かされていなかったんですね」
前世……いや、生まれる直前にレネンとアマデウスが宿っていたことは知っていた。
それは、前に教えてくれたから……まあ、彼らの言うところの『作られた』世界での彼らに。
では、俺は……俺の前世とはなんだ?
「あなたの前世……それは、すべての世界を創造した神にして、始まりの天使と呼ばれたお方……ファースト様でございます」
始まりの天使……魔がさす楽園に残されていたおとぎ話の世界よりも更に昔々の物語。
宇宙が生まれる前、概念が生まれる前の何もなかった時代から生きていた女。
その女によって、概念は作られ、その女によって宇宙は作られ、世界は作られたのだ。
「教えてくれ……あの作られた方の『魔がさす楽園』は、俺の前世なのか?」
始まりの天使ファーストの、生まれ変わりが俺、天野翔琉である。
故に、あの作られた世界で似たような力を持っていたというわけだし、あの魔がさす楽園の存在を知っていたわけだ。
だが……。
「あの時の彼らは……ディルたちは、すべて前世の記憶だったのか?」
という疑問に辿り着いてしまうのだ。
あれが、前世の記憶なら……ディルたちは、もう……すでに……。
「そのご心配には及びませんよ、翔琉様」
と、悪魔はにこやかにさわやかに笑う。
「あの作られた世界の記憶は現在の魔がさす楽園とほぼ同じです。そして、あの世界であなたが出会った方々にはきちんとその世界での記憶が反映されています。もちろん、あなたの御子様であるジンライ様も御存命ですよ」
「え?でも、ジンライはライと俺の血をあわせて、血之誓の儀式で生み出さなきゃいけないんじゃ……」
「ええ。そうですよ。ご安心ください。それは、ライ様とディル様によって執り行われております。ただ、あなたに関係したという事で、ジンライ様にはあなたの記憶があるというだけですよ」
ホッとしたけど、なんだか悲しい。
あんなに我が子のように可愛がっていたジンライは、もう……。
でも、違う形でも生きていてくれて、嬉しい。
「さて、そろそろつきますよ……」
「あ、これ移動中なんですね……」
この酒場的な倉庫は、どうやら乗り物らしい。
「全世界へと繋がる扉『オールドア』の改良によって生み出された『全扉船』によって、多世界移動はだいぶ楽になりましたからね……」
そう悪魔が言ったところで、辿り着いたのは本物の『魔がさす楽園』。
そして、本物の『冥界』である。
上空らもハッキリと分かる、あの禍々しい気配が出ている、日本の城のような屋敷が、『十戒社』。
悪魔神ヨルヤ=ノクターンが眠るとされる場所だ。
始まりの天使と共に生み出された悪魔……それが、ヨルヤ=ノクターン。
簡単に言ってしまえば、前世で付き合ってた元旦那さんと言うことである。
なんか、怖いな……。
前世での旦那と再会する男子高校生って……シュールすぎだろ。