EX STAGE29:忘れさられた森
俺たちが空間から出るのは、外の時間からすればほんの数秒にも近しい出来事だった。
だが、実際は空間の中で10年もの歳月を使って修業をしていた。
そのせいもあってか、おいらとジンライの姿は若干成長していた。
20代後半って感じの雰囲気を醸し出す大人姿に。
「見違えたわね、狼牙。 それから、ジンライ」
外で人探しをしていたリュウと蘚琉は酷くやつれたような顔をしていた。
彼女たちがやっていたのはお互いにお互いの力を増幅することによって、魔法本来の力を増幅させる【魔力増加術】。
付加より、上位の魔法技術であるがゆえ、使えるものも限られてくる。
そんな限られた使い手の中に、たまたま彼女も入っていたのだ。
すべての運命に偶然などと言う言葉の定義は無意味で、すべてが必然となるべく集った定めなのだ。
「それで、王女は見つかったかい?」
「ええ。一応、見つけたには見つけた……んだけど……」
そう言ってリュウは言葉を濁し、うつむいてしまったのだ。
同様に蘚琉も、ため息混じりにやれやれと手をふる。
「問題は、彼女がいる場所なのよ」
「場所?」
「【忘れさられた森】って聞いたことある?」
そう、リュウは言ったのだ。
忘れさられた森……それは、かつて謎の文明が栄えた古代都市が自然に飲まれ、人々からその都市さえも忘れさせた場所の名称である。
正式名は確か【古代都市オーディン】。
文明の名は【ノース文明】。
未だに解読不能なノース文字を作った魔法文明。
ノース文字とは、始まりの神ファーストが干渉できない魔法を越えた魔法である【魔術】を使う際に用いる文字で、その昔完全にノース文字を扱った者は【魔王】と呼ばれ、多くの文明から恐れられた存在だったという。
そんな彼らがなぜ滅んだのか……それは、魔術を使役するには自らの命を代償にしなければならず、更にそれは子々孫々までにも影響するためだからと考えられている。
言い換えるなら、一族の平均寿命を減らす魔法と言える。
いや、魔法ではなく魔術か。
「ノース文明の跡地……あそこは、魔術による結界で侵入できないはずでは?」
ジンライの言うとおり、忘れさられた森全域には強力な結界が張られており、並大抵の魔法では打ち破ることができない。
仮に打ち破ったとしても、すぐに回復してしまうため、侵入、脱出の度に多くの魔導士が駆り出されたと言う。
「だが、逆に……確かにそこなら、邪悪たちから逃げるには好都合なのかもしれないな」
「ええ。 ノース文字の魔術は【光属性】だから、邪なものをはね除ける力を持った力だからね」
そうなのだ。
ノース文字の魔術は、光属性……故に、魔王と恐れられた存在は別段恐怖を与えたから恐れられたと言うわけではなく、光属性を保有していたから恐れられただけなのだ。
光属性の魔法は、当時まだ珍しいものだったらしく、故に物珍しさ故に恐れられただけなのだ。
そんなノース文明の跡地に、天野翔琉が探せと言っていた女性……精霊族王女フィリは居るのだ。
という事で、おいらたちは忘れさられた森へと向かうのだった。
忘れさられた森は、その名の通り、地図からも忘れさられる。
というのも、この森は一定周期で移動する森なのだ。
まるで、砂漠に移る蜃気楼の湖のように、近づくと無くなってしまう……ということもあるらしい。
「ほら、あたしたちが見つけた森の場所は正しかったでしょ?」
そう言って、砂漠地帯に唯一栄える忘れさられた森の前で、リュウは得意気に言うのだった。
「流石だな……」
「それはそうと……着替える必要あったのか?」
と、ジンライは自身の服装を見て言う。
おいらたちは、この場にくる前にリュウと蘚琉に着替えをさせられたのだ。
ジンライは黒生地に黄色のラインが入ったロングパーカー。
おいらは、白生地に緑色のラインが入ったロングパーカー。
勿論、この素材は魔術衣と同様のものなので、魔法耐性を備えた鎧になってくれるのだが。
色違いの同じ服を着せられると、なんというか……。
「双子みたいだね~ヨルヤ」
始まりの神ファーストは、お腹をかかえて笑っていた。
確かにそうなんだけどさ……。
「おいおい、ファースト。これからノース文明の遺跡に行くってのに……そんなブフッ」
ヨルヤも俺たちの姿を見て笑っていた。
なんなんだ、コンチクショーめ。




