EX STAGE28:反撃の準備
……。
やあ、読者の皆さん。
こんにちは。
おいらの名前は、天野狼牙。
世界最強と言われた男の、異世界の義理の弟にして、かつて世界を支配しようとした女の弟でもある。
本当ならば、こんな場所に居るべきはずではなかった……というより、この世界には居る必要が無かったんだ。
本当ならば、ここまで登場せずに、お姉ちゃんと一緒にひっそり仲良く二人で暮らしているはずだった。
でも、それは叶わなかったんだよね。
あの日……【魔がさす楽園】は、完全に邪悪に支配された。
あの、天野翔琉の肉体を完全に捕らえ、融合してしまった邪悪と、彼の力を持つ悪の因子と呼ばれるものたちによってな。
その結果、どうなってしまったのか……というのが、これから語られる物語になるんだ。
結論から述べさせて貰うならば、【魔がさす楽園】は、悪の因子の手に落ちた。
みんな、悪の因子の邪悪なる液体によって【成り代わり現象】は促進され、今や世界のほぼ全員が成り代わられている。
こちら側で無事だったのは、おいらと蘚琉お姉ちゃん、ジンライ、リュウ、クロノス、そしてヨルヤとファーストの7人だけだったりするのだ。
そして、おいらたち5人は指名手配され、世界を放浪しながら逃げ回っているところだ。
とはいっても、人里は避けなければならないので、洞窟の中や森の奥に隠れたり……などなど、無様な逃げ腰姿勢である。
毎日毎日、逃げて逃げて……天野翔琉が最後の最期に抗ったあの光の姿で言っていた言葉……。
「……フィリ王女に頼んで、俺を……」
あの言葉の意味を知るために、おいらたちはあの世界から逃げ帰った直後に、精霊族の王都へと向かったが、時既に遅く、精霊族の住む森は焼き払われ、王都には焼けた血生臭い臭いが立ち込めていた。
既にそこには何者も居ず、あるのは何かと争った跡だけだった。
幸いにも、死人の反応は無かったため、きっとどこかに彼女たちは逃げたんだと思う。
ということで、おいらたちはフィリ王女を探しつつ逃亡生活をしているのが、これまでの流れってやつなんだよね。
「おい、狼牙。 飯、できたぞ」
「はーい、ジンライ。 今行くよ」
夜空を眺めながら、これまでの回想をしていたおいらは、早々に夕食へとありつきに行った。
一刻も早く、翔琉お兄ちゃんを助けるために……フィリ王女を探すために、今は体力を回復しなければな。
翌朝、水の大魔導士リュウと天野蘚琉は広範囲の探査魔法を発動させフィリ王女の魔力を探る。
それと同時刻、おいらとジンライは洞窟の奥でヨルヤとクロノス、そしてファーストによる魔法の修業を受けていた。
悪の因子、邪悪=天野翔琉、まだ見ぬ終わりの神エンド……そして、成り代わられた者たちを相手取る上で、おいらたちはあまりにも弱すぎた。
仮にも相手は、世界最強と言われた天野翔琉を手玉にとる程の実力者たち。
そんなやつら相手に、このままではいけないと言うことで、時間の許す限り毎日毎日、こうして稽古をつけてもらっている。
「光魔法:神之憤怒‼」
「だめ、発動までが遅い‼」
「捕食‼」
「能力が弱い‼やり直し‼」
「神魔法:光天神、発ど……」
「舐めてるの?あなたたち……」
ファーストたちはイラつきをぶつけるように、おいらたちの本気を軽くあしらった。
世界を作った天使と悪魔、そして時空間の主……世界でも類を見ないほどのVIPたちによる強力な修業は、短期間ではあるが確実においらたちに戦闘経験と魔法の力、能力の効率さを与えていった。
「ほら、まだまだ‼」
「は、はい‼」
「ジンライ、回避速度が遅い‼」
「ご、ごめんなさい‼」
「謝る暇があったら、避けろ」
ファースト、ヨルヤ、クロノスの連携攻撃をかわす訓練。
世界最強レベルの3人の攻撃は正直かわしきることができない。
紙一重で直撃を避けているのに、かなりのダメージを受けてしまっている程に強力だ。
「くっ……‼」
「狼牙、耐えるんだ‼」
「勿論だ‼」
互いに励まし、互いに魔法や能力を磨き、おいらとジンライは前よりだいぶいいコンビネーションができるようになった。
「狼牙に、神魔法を付加‼」
「神捕食‼」
「おお、いいね」
「だいぶ様になってきたよ」
「だが、まだ天野翔琉の足先にも及ばない……まだまだこれからだ‼」
「「はい‼」」
ちなみに、この修業場はクロノスによって作られた異空間で、外と中の時間はかけ離れており、外での1秒がこちらの空間では1年に相当する。
「ほら‼休まない‼」
「ふ、ふぁぁぁぁい‼」
おいらとジンライはひたすらがむしゃらに修業に明け暮れた。
もうなにも失うわけにはいかないからだし、なによりこれから奪い返しに行かなければならないからだ。
邪悪に奪われた天野翔琉と仲間たちを……。
そして、外の世界で10秒経過……この異空間では10年の月日が流れたころ、ようやくおいらとジンライは天野翔琉レベルの強さを身に付けることに成功したのだった。




