EX STAGE27:消失の光
神の理を破りし神外者に堕ちた天野翔琉。
神の証である羽と、悪魔の尻尾を携え、魔を支配した男。
だが、天野翔琉はひとつ見落としていた。
唯一と言ってもいいほどに。
彼は一度、あるものの侵入を許してしまった。
それは彼の唯一の慢心だった。
故に……彼は、今こうして……その者に乗っ取られているのだ。
「あははは。 良くわかったね、ファースト……それから、ヨルヤ」
天野翔琉の肉体を奪った邪悪は、不気味に笑う。
天野翔琉=邪悪とでも呼ぶべきか。
そして、天野翔琉=邪悪は異空間に繋がる扉を開き、そこから5人の悪の因子を召喚した。
暴食。
嫉妬。
傲慢。
強欲
憤怒のディル。
ディル以外は、いずれも天野翔琉しか対抗できなかった猛者である。
そんな者たちの登場に一同が驚く中、一人だけこの空間を掌握していたクロノスだけが様子が違ったのだ。
「ば、バカな……ここには、私が認めた者以外は来られぬはず……」
そう言ってクロノスは狼狽していた。
それもそうだろう……自身が支配している空間を容易く相手が干渉してきているのだから。
「残念でしたねクロノス。 天野翔琉を取り込んだ主にとっては、これくらい容易なものですよ」
「そうそう。じゃなきゃ、ここに悪の因子がこんなにも揃うわけ無いってな」
「おい、色欲と怠惰は?」
「彼らはエンド様の護衛に就いております」
「へぇ~」
そんなこんなで、彼らは他愛もない会話を楽しんでいる……が、ヨルヤたちは違う。
正直言って、ここまで絶望的な状況は久しぶりだと、おいらは感じている。
翔琉お兄ちゃん……こんなところでやられちゃっていいの?
「翔琉お兄ちゃん‼ 目を覚ませ‼」
「無駄だよ、天野翔琉の義理の弟天野狼牙。 お前の兄、天野翔琉の肉体はもう俺様のものなんだよ……だからほら」
そう言って、天野翔琉=邪悪は尻尾でおいらの首を締め上げた。
「グッグ……苦しい……」
「狼牙‼」
そう言って蘚琉は、おいらを助けに来ようとしたが、悪の因子がそれを拒む。
「貴様ら‼どけろぉぉぉぉ‼」
「ダメだよ、蘚琉ちゃん……」
パチン、とディルが指をならすと蘚琉は翔琉が閉じ込められていた結晶に封じられてしまった。
「ディル‼あんた‼何してるのか分かってるの‼」
そうクロノスはディルに向かって怒鳴るが、ディルは全く聞く耳を持っていなかった。
「さて、狼牙くん。 最愛の天野翔琉に一言……遺言をよろしく頼むよ」
「か、翔琉……お、お兄ちゃん……」
「ん?聞こえないな~」
ギリギリっと、天野翔琉=邪悪の尻尾は次第に強く縛ってくる。
必死にほどこうとしても、剥がれてくれない。
かきむしりすぎて、血が首からポタポタと流れ落ちる。
「が、がげる……おにいぢゃん……」
「あははは、いい顔してきたねぇ……」
「が、がげ……」
「うんうん。 素晴らしき死に顔が出来上がりそうだ♪」
「が……」
「あははは……あは?あは……あ、あ、あ、あああああああ」
ドサッ……と、おいらは尻尾から解放されその場に倒れこんだ。
急に尻尾が取れた。
「ゲホッゲホッ……はぁ……はぁ……翔琉お兄ちゃん……‼」
おいらが翔琉を見ると、そこには光の姿で現出した天野翔琉が、自身の肉体を光の鎖で封じている姿だった。
「俺の弟に、なにするんだぁぁぁ‼」
そう言って、光の天野翔琉は自身の肉体を拘束している。
「え、嘘……あれは、天野翔琉?」
「邪悪様‼天野翔琉まだ生きてますよ?」
「確かに殺したはずなのに……」
「お、俺様も……確かに、こいつの肉体は魂ごと奪ったはずなのに……」
そう、天野翔琉=邪悪は胸元の黄金に輝く水晶を握る。
しかし、光の鎖は消えない。
「みんな、俺がこいつを抑えている間に逃げろ‼」
「で、でも……」
「いいから‼そして、あの世界に戻ったら……フィリ王女に頼んで、俺を……」
「させるかぁぁぁぁぁぁぁ‼」
悪の因子たちと邪悪は、光の天野翔琉を封じに動く……が、彼らが全力で挑んでも天野翔琉は消せなかった。
「みんな‼早くしろ‼」
天野翔琉は叫ぶ。
叫ぶ、叫ぶ………。
「翔琉お兄ちゃん……必ず、助けるからね‼」
そう言っておいらは、蘚琉お姉ちゃんたちを連れて、クロノスの元へと走った。
「クロノスさん……頼む‼」
「で、でも……」
「いいから、早く……」
涙を流しながら、おいらはクロノスに懇願した。
クロノスは、心情を察してくれてか、おいらたちと共にあの世界へと行くことを決意し、時空間魔法を発動させようとする。
その時、ディルがそれに気づきこちらに向かって魔法を放とうとするが、光になった天野翔琉によってそれは阻まれ、更には結晶に閉じ込められていた蘚琉お姉ちゃんを解放し、こちらへと転移させた。
「あとは……頼んだよ……みん……な……」
そう言って消える光の天野翔琉を見ながら、おいらたちはあの世界へと逃げ帰ったのだった。




