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EX STAGE21:光、封印

 衝撃的すぎる事実は、意外とさらりと時空間の主の口から放たれた。

 その事実に対して、悪魔の神ヨルヤでさえ処理が追い付いてはいなかった。

 というか、ヨルヤは逆に何故自分はこの事実を知らなかったのか……と言うことに疑問を持っていっていた。

 始まりの神ファーストとこの世界を作り上げたはずのヨルヤ=ノクターン。

 確かに、悪の因子や邪悪、エンドの事は知っていた。

 だが、一番肝心である、始まりの力と終わりの力についてはほぼほぼ記憶になかったのだ。

 それは何故なのだろうか……意図的に記憶を消されたのか、それとも。

 自分はその力についてなにか知ってはいけない事を知ってしまっていたのではないか……だから、他者に頼んで記憶をなくしたのではないか……と。

 そうでも思わなければ、一番いけない想像をしてしまいそうだったヨルヤなのだ。

 「さてさて、センチメンタリズムに踊らされている若人たち。 話の続き、していいかしら? というか、するけどね」

 そう言って彼女は、天野翔琉が眠る結晶体を彼らの前に突きだした。

 「さて……そこの結晶体に入っている天野翔琉くん……実は、とても危険な存在でね。 流石は、始まりの神ファーストの生まれ変わり……これほどにないレベルで色んな意味でイカれている」

 「な……‼ なんて、暴言を……。 翔琉がそんな存在な訳ないだろ‼」

 「うむ……ヨルヤくん。 残念ながら天野翔琉は、君が思っている以上に異常なんだよ……ほら」

 そう言う時空間の主が結晶体を指差すと、少しながら亀裂が入り始めていた。

 「か、翔琉?」

 「時空間の力で無理矢理抑えていたのに……もう、破ってこようとしてるのね」

 「なあ、時空間の主。 教えてくれ。 何故翔琉なんだ? 何故人間である翔琉がここまでの力を?」

 「それはね……」

 『翔琉が主人公だからだよ……皆さん』

 突如、結晶体の亀裂から出てきた光はそう言って、始まりの神ファーストの姿に変化した。

 いやいや、唐突すぎ。

 『やあ、時空間の主……いや、クロノス』

 始まりの神ファーストは時空間の主の事を名で呼び始めた。

 その名を聞いて、ライたちは驚いていた。

 何故なら、クロノスというのはディルの母親の名だったからだ。

 そして同時に……世界魔法連合元総帥でもあるのだ。

 フルート政権成立の前、それは王権を酷使する5人の儀長によって握られていた云わば堕落した組織だったのに対して、クロノス政権の時代は恐ろしく統率された組織だったという。

 それで尚且つ、全生命の平等を約束した連合の全盛期……と、呼ぶべき時代だったという。

 しかし、何故クロノスは総帥を止めなければならなかったのか。

 それは、ディルを身籠ってしまったからだ。

 ディルを健全に育て上げるため、多くの人に惜しまれながらも、クロノスは総帥の座から降りた。

 しかしながら、それは……全て、儀長の策略だった。

 後に、儀長によって送られた刺客は実に3000人……だが、彼女は無傷で無血で勝利をしている。

 時に怪物だろうが、時に天候だろうが……彼女には多くの攻撃が利かなかった。

 だが、彼女は唐突にディルの前から姿を消した。

 彼女にはある使命があったからだ。

 それこそが……。

 「約束通り、この時のために身を隠していたわよ……ファースト」

 そうクロノスは微笑んだのだった。

 

 

 『クロノスが与えられた使命とはなんなのか……それは、私……始まりの神ファーストと時空間の主クロノスの間にだけ約束された絶対的な制約。

 『生まれ変わった神を保護し、それが神以外なら神外化(じんがいか)を防ぐこと』であった。

 神外化とは、神が生まれ変わった姿から再び神に戻ろうとする症状の事なんだよね。

 でも……私も今回の件で始めて知ったのは、神外化の影響は神でおさまるレベルではなかった……。

 神外化の影響は、確実に翔琉に異常として出ていた。

 それは例えば、魔法の異常レベルまでの耐性……そして、神魔法の化身無しでの神魔法の使用……異世界の構成などなど。

 正直いって、翔琉くんは最早人間と言えるかどうか怪しい存在になり始めている。

 つまり、天野翔琉は神になろうとしている……というより、神を越えた存在に"成り代わり"かけているんだ。

 天野翔琉という人間は……いや、天野翔琉という生命体は、最早悪の因子よりも脅威になってしまっている。

 故に、時の監視者ディルは翔琉くんを殺そうとしたんだよね。

 そうすれば、時間干渉や空間干渉や諸々が解決できちゃうからね。

 でも、私はそれをされると非常に困るんだよ。

 何せ、翔琉くんが死ぬということは、悪の因子を倒せる存在が消え、邪悪が世界をリセットしてしまう可能性があるからね。

 だからこそ、クロノスに頼んでおいたのさ。

 天野翔琉の保護と、天野翔琉の神外化を防ぐことを依頼したのよ。

 なにせ、神外化を防ぐには、翔琉の動きを止める必要があったから、こうして今拘束して貰ってたんだけど……そろそろ限界のようね』

 そう言うファーストは結晶の亀裂へと目をやる。

 次第に亀裂は増えていく。

 まるで、卵の殻が割れるように……。

 「いけない‼ 時空間魔法【時限結界(じげんけっかい)】」

 クロノスは天野翔琉の周囲に結界を出現させ、結晶の亀裂を遅くさせようと試みた。

 この力を使うことはかなりの体力を使うようで、クロノスは先程の余裕顔とはうって代わり、今にも倒れてしまいそうな顔をしていた。

 「この私がこんなに力を使うなんて……」

 『クロノス‼ 仕方がないな……魔力強化(まりょくきょうか)魔力消費零(まりょくしょうひぜろ)付加(エンチャント)

 ファーストは、自分自身は概念だと前に言っていた。

 しかし、その概念たるファーストが干渉を行うということは、自分自身の消滅をも厭わないということだ。

 それまでに、今の天野翔琉は危険で、最悪で、人外(じんがい)にして神外(じんがい)なのだ。

 ヨルヤたちは、眺めることしかできない。

 始まりの神と時空間の主が本気で天野翔琉を封じにかかっている以上、これ以上ないほどに手出しが出来ないのだった。

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