EX STAGE20:滅びの事象
「はい。皆様初めまして」
先程会ったディルとは裏腹に、こちらのディルの顔をした女は優しい笑顔をした。
普通ならば、デレッとしてしまいそうに可愛らしい笑顔であるのだが、ヨルヤたちにとってはそうはいかなかった。
彼らにとって、今一番疑問に思っている事が解決していないからだろう。
「……あなたが、時空間の主なんてますか?」
そうリュウは彼女に対して尋ねた。
ふう……っと、何故か軽くため息をついた彼女は笑顔が崩れ、キリッとした顔つきになると、こくりと頷いた。
「やれやれ。せっかく和ませようと笑顔を作ってもみんなそんな警戒してるんじゃ、笑顔の意味ねぇーっつーの」
先程の優しい口調が崩れ、どうやら彼女本来の喋り方に戻ったようだ。
「あ、いえ……そんな……」
「んで?私がお前らをここに呼んだ理由……何だと思う?」
「さぁ……というか、あなたは何故ディルと同じ顔を?」
ヨルヤはズバリ結論を求めた。
だが、時空間の主はそれを拒否したのだった。
「やだやだ。教えない。そう簡単に種明かしするのは私のスタイルじゃないのでね……強いて言うなら、血とだけ言っておくかしらね」
「血……」
「あらやだ。私ったらほぼ答え言っちゃったじゃない」
一人であたふたしている時空間の主をよそに、ヨルヤたちは時空間を見渡していた。
というのも、この時空間には時折色んな世界の映像のようなものが見えるときがある。
彼らはそちらの方に目がいってしまっていたのだった。
その結果、時空間の主は拗ねた。
「ふん、いいもん。私の話をちゃんと聞いてくれないなら、いいもん」
「あ、申し訳ない……時空間の主。 では用件を聞かせてくれ。何故俺たちをここに呼んだんですか?」
ボルがそう尋ねると、時空間の主は拗ね顔をやめ、コホンと軽く咳払いをして表情をキリッとしたものに戻した。
やれやれ……。
「んじゃあ、私の正体を教えるのはやめるけど、私が鳳凰くんに頼んでまで君たちに来てもらった理由を話すとしよう。 だが、まずその前に……」
パチン、と彼女が指をならすと時空間に狭間が出現し、その中から光を帯びた結晶体が出現した。
辺り一面を黄金色に染め上げるほどの絶対的な光。
そんな光を放つ結晶体の中央になにかいた。
いや、何かだなんて表現は喜びに安堵したヨルヤたちに失礼であろうな。
その人物は、天野翔琉。
先程消滅したはずの、始まりの神の生まれ変わりである男であった。
「翔琉!!」
動揺したヨルヤは結晶体に触れようとする。
だが、それは時空間の主は許さなかった。触れようとしたヨルヤを、結界のようなものではね除けたのだ。
「あのヨルヤ様を意図も簡単に……」
リュウは驚きを隠せなかった。
そしてそれはヨルヤを含めた一同がそう思ったのだ。
「だめだめ。まだ触れちゃあ。翔琉くんが死んでもいいの?」
「貴様‼翔琉をどうする気なのだ‼」
「別に殺す気はないよ。親友の生まれ変わりを殺すほど、そこまで感情は狂っていないさ」
「親友……? しかも、生まれ変わりといったな‼ っということは、お前はファーストの……」
「はいそうですよ。友達ですよ。というか、始まりの神ファーストが私の存在域に到達できたのはつい数百年前の話なんだけどね」
「始まりの神ファーストでさえ、時空間に侵入できたのは数百年前……そんなチートな神様でさえも侵入を拒んでいたあなたが、何故今回あたしたちをここへ?」
「ん~まあ、お願いされちゃったからね。天野翔琉と仲間たちを助けてくれって、現時の監視者であるディルちゃんにね」
「あの裏切り者にか」
ヨルヤがそう言うと、ジンライはギロリとヨルヤを睨み付けたがすぐにまた下に目線を落とした。
だが、彼のかわりに時空間の主が微笑みながらもヨルヤを睨み付けていた。
「まあいい……話を戻すね」と言って、時空間の主は空虚な空間に図を出した。
なんらかの相関図のようなもの?だろう。
「今、君たちが相手をしているのは、邪悪と呼ばれる存在、そして邪悪が従えている悪の因子と呼ばれている邪悪の分身体……そして、君たちが成り代わり現象と呼んでいるものを引き起こしている『邪ナモノ』であるよね」
「あの黒い液体は、邪ナモノと言うのか……」
「そうだよ。ちなみにあれは、邪悪の唾液からできた存在なんだよ」
うぇぇぇぇぇぇ。
どんだけあいつ、唾液を放ってるんだよ。
「さてさて、そんな彼らの目的というのは知っての通り、全世界を自分達の思想で支配し、そして始まりの神ファーストの生まれ変わりである天野翔琉を入手して彼らは始まりに"成り代わろう"としているんだよね。正確には、始まりの力を手にするためだけどね」
「始まりの力を?」
「そうだよ。彼らは今、終わりの力である終わりの神エンドを手中に納めているからね。始まりの力と終わりの力……これを手にすると言うことは、『世界の改変』を執り行えることなんだよね。そんで、世界の改変を行われちゃうと今後、この世界では2度と生命体は生まれなくなっちゃうんだよね~あはは」
こうしてものすごく重要なことを、さらっと言ってしまう時空間の主に対して、ヨルヤたちは聞いてしまった事象に対して戦慄していたのだった。




