EX STAGE18:憤怒、圧倒的勝利
突如飛来した人物……それは、かつて俺と共に戦って、そしてこの世界では行方不明とされていた時空間魔法を使える太古の大魔導士の1人……のはずだ。
世界を守るべき時間の監視者と呼ばれ、常に平等でいなければならない彼女がなぜ……。
「邪悪様、危なかったわね」
「おお、すまんな……助かった」
「な、な……なぜ、ディルが……‼」
「ん?あら、翔琉。久しぶり。なんでこの世界なんかに来ちゃったの?あの世界にいたら、楽に死ねたのに……」
冷徹な一言に俺は驚いていた。
こんなに冷ややかな口調のディルは初めて見た。
というか、こいつ本当にディルなのか?
「なぜ、邪悪を庇う……」
「……あなたには関係のないことよ」
「ディル‼」
「うるさいわね……異世界で私のこと殺したくせに……」
殺したくせに……その言葉は俺にとって辛い一言だ。
俺自身が手を下したわけではない……でも、俺自身が殺したようなものだ。
「あれは……だって……」
「もういい、翔琉。ご託はたくさん……邪悪様……こいつ、殺していいわよね?」
「ああ、殺せ。始まりの神の生まれ変わり天野翔琉をな……【憤怒】の時の監視者ディルよ……」
憤怒?
憤怒だって!!
「ディル……お前まさか……悪の因子を……」
「ええ。私はディル……【憤怒】のディル……よろしくね、始まりの神ファーストの生まれ変わり天野翔琉……」
そう言って、ディルは時空間を歪ませ始めた。
同時に、上空にある太陽光が歪み始め、濃縮されていく。
「時空間魔法:陰陽解放」
そして、太陽光は拳のような形に変わり、俺に振り下ろされたのだった。
「光魔法:無限の光‼」
俺は無数に出現させた光で迎撃する。
だが、濃縮させた光に対してこちらは一つ一つが弱い……どこまで耐えられるか……。
「さすがは翔琉……でも、無駄よ」
「ディル!なぜ、なぜなんだ!!」
「……あなたに言っても分からないでしょうね。私は時の監視者……平等でいなければならない。あなたはあまりにも巨大な力を手にしてしまっている。故に、世界のバランスを取るために、あなたを消す」
「俺の知ってるディルは、そんな事言わない‼世界のバランスを取るために、生物の命を奪おうとするだなんて、そんなのディルじゃない!」
「いいえ、これが私よ……さようなら天野翔琉……太陽光最大出力」
「や、やばい……押しきられ……うわぁぁぁぁ‼」
こうして灼熱と輝き世界を照らす光が俺を飲み込んだのだった。
「やったか?」
邪悪は、俺がいた場所をくまなく探していた。
一方ディルは、虚空を見つめていた。
彼女はなにか思うところがあったのか、少しだけうつむいていた。
でも、拳を握りしめ、ぐっと堪えていた。
「お、これは……」
邪悪は俺の立っていた場所を魔法で調べると生命反応が消えた痕跡が残っている事に気がついた。
つまりは、天野翔琉という人間が死んだということになる。
「はっはっはっ……これで、危険な生物はもういない……」
「邪悪様。そろそろ、宮へとお戻りになられないと……」
「おう、そうだな……新たな悪の因子の子らを生まねばならぬゆえ……な」
「後始末は私がやっておきます……消された者たちを元へ……」
「はっはっはっ……便利なやつだ……」
パチン、と邪悪が指を弾くと、邪悪は消え、戦場から消されていた反乱軍のメンバー、そしてヨルヤやリュウたちが戻ってきた。
「くそ……ん?戻れた?」
「あれ?翔琉ちゃんは?」
「翔琉なら死んだよ……リュウ」
ゾッとするような声の主を見たリュウや他の大魔導士たちは思わず目を見開いた。
「「ディル‼」」
「いいえ、私は憤怒のディル。悪の因子の一員にして、邪悪様の……」
「ディル、どうしちゃったんだよ‼」
息子であるジンライは涙ながらに母の変わり果てた姿を見ていた。
ディルはジンライを見るとすぐに目をそらした。
彼を見る資格など最早彼女には無いのだ。
自分の息子を抱き締めることも、愛でることも……全ては時の監視者としての役割を果たすため。
そのために……。
「天野翔琉は殺した……私の手でね。あと、あなたたちにも消えてもらわないと」
そう言ってディルは、手を振り上げ、時空間魔法を放とうとする。
だが、よもや彼女にはその気力はなかった。
息子のあんな悲しそうな顔を見てしまっては、母としてのディルは動けないのだ。
「まあいいか。邪悪様には無気力になった反乱軍を殺すことなど無意味と報告するか……じゃあね、みんな」
そう言ってディルは姿を消したのだった。
ヨルヤたちはその後、必死の捜索をした。
しかしながら、天野翔琉の存在は見つけることが出来なかった。
唯一残っていたのは、ディルの使った攻撃魔法の跡と、その攻撃を受けた場所で生命体が消えたという痕だけだったのだった。




