EX STAGE16:邪悪の誤算
過去の俺は圧倒的だった。
手も足もでないとは、まさにこの事だと、強欲のやられ方を見て俺は悟った。
「くっ……‼ここまでとは……」
「俺に勝とうだなんて、甘いね。甘ちゃんだね。じぇじぇじぇだね」
あー、昔そんなドラマ流行ったな……。
「まだだ‼まだ俺様は……」
地にうち伏せられていた強欲は、身体を起こそうとするが、圧倒的光の魔法によって打ちのめされていたあいつにはそんな気力は既に無いようだった。
そんな中でも必死に身体を動かそうと、身をよじるが彼はその直後、上空より飛来した闇の槍によってその身を貫かれる。
「見苦しいですよ、強欲……」
その言葉と共に上空から飛来したのは、見たことのない人だった。
真っ黒い長い髪に、真っ黒い服、そして闇のような笑みを浮かべるあの顔……。
「じ……邪悪様……」
そう言ったのは瀕死の強欲だった。
その直後、強欲は闇の槍の中へと飲み込まれていったのだった。
「ふぅ……回収完了っと」
「お前が邪悪……‼」
「おっと、これはこれは……天野翔琉に天野翔琉?あー、なるほど。過去から召喚したんだね」
そう言って、邪悪は上空の魔法陣目掛けて闇の槍を放つ。
槍は魔法陣をぶち壊し、邪悪の掌へ戻る。
「そ、そんな……ばか……な……」
過去の俺は召喚終了となって、元の時代へと戻っていった。
否、戻されてしまったのだ。
「拒否っと……さてさて、更には他の人も邪魔だから消えてて貰おうかな」
パチン、と邪悪が指を鳴らすと、戦場に居たはずの俺の仲間たちと、反乱軍は消えていた。
「そ、そんな……みんな、どこに……」
「さてさて、天野翔琉。こうして、二人きりで出会うのは初めてだねぇ……とはいっても、私は君の事は知っているんだけどね」
「みんなをどこへやったんだ!!」
そういう俺に対して、邪悪は笑みをこぼす。
不敵に笑うその笑みは、悪魔以上に恐ろしかった。
「まあ、邪魔だったから……一時的に消えてもらってるだけ。しかし、対したものだよ。君の仲間たちを拘束できるのはもって数分と言うところであるのだから」
「……で?二人きりにしてまで、何が目的だ?」
「流石は天野翔琉。割りきってくれて助かるよ。単刀直入に言うと……君の身体が欲しいんだ……」
「……は?」
何を言い出したんだこの邪悪野郎は。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
「え?ちょっと待って、大分待って……もう一度言ってくれるかな?」
「だから、君のその身体が欲しいんだって」
「気持ち悪い……」
「誤解しないでくれ。別に私は君に恋してるから肉体関係を結びたいとか、肉欲にまみれたいとかそう言うことを言っているんじゃないんだ」
「いや‼触ろうとしないで‼穢らわしい‼」
なんだこの展開は。
ぶっ飛びすぎてて、思考が追い付かない。
「まあ、言うより見せた方がいいのか……」
そう言って、邪悪は上半身をはだけさせる。
すると、まるで発泡スチロールのように、肉体がボロボロと崩れ始めていた。
「エンドと融合しているとはいえ、身体がもう限界でね……肉体の時間を完全に停止させていたのだけど、もう限界なんだ……」
「……なぜ、俺なんだ……」
「ん??なにがだい??」
「なぜ、俺の肉体なんだ」
「そりゃあ、あの始まりの神ファーストが生まれ変わった姿……すなわち、ファーストが転生として認めた姿がお前、天野翔琉なのだから。世界で最強レベルの力を宿してるその肉体を欲するのは、当然だろぉ?」
そう言って邪悪は、俺の顔に手を触れる。
ゾッとするような寒さのする手だった。
俺はその手をはねのけ、逃げようとした。
だが、身体が既に動かなかった。
「く、くそ……」
「さあ、天野翔琉……私とエンドと3人で……1つになるのだ……」
そう言って邪悪は俺の身体に指を突き刺して液体のようにそこから侵入してきたのだった。
とまあ、ここまでが邪悪の想定したシナリオだったらしいが、ひとつ誤算があった。
まず1つ目……邪悪は俺の身体にファーストが宿っていることを知らなかった。
ちょうど、彼女が出ているときは邪悪は居なかったからな。
2つ目……俺の身体は邪悪の因子……つまりは、邪悪自身の作った呪いによって侵されていたこと。
このことは、何を言うのかと言えば、邪悪の因子は云わば邪悪そのもの。
よって、磁石のように邪悪の元へ帰る性質があったことだ。
すなわち、何が起きたといえば……俺の身体の邪悪の因子は消え、そして始まりの神ファーストによって邪悪は俺の身体から追い出されたのだった。




