EX STAGE13:襲撃された本部
俺たちは、ジンライたちに現状をすべて教えた。
なぜ俺がこの世界にいるのか、そして成り代わり現象や、悪の因子……そして、俺の呪いについて。
彼らは納得したように聞いてくれた。
他の世界から来た俺のことや、悪魔神の存在、そして悪の因子の1人【傲慢】を倒したことをリュウが見ていてくれたお陰で、一部補足してもらったりしてよかったと思う。
「……ってなわけなんだよね」
「ふむ……じゃあ、翔琉が命を狙われてるのは、始まりの神ファースト様の生まれ変わりだからって事なんだね」
「そう言うことなんだよね……まったくやれやれって感じだけどね」
「それで、ヨルヤ様は翔琉を守るために異世界からこちらへと連れてきたわけなんですね……」
「おう。まあ、友達だし。困ってるときは守るって約束したからな……例えそれが、偽りの世界での事だったとしても。俺は約束は違えないのさ」
そう言うヨルヤに、ジンライたちは後ろめたい気持ちはなかったけど、少しだけ落ち込んだように見えた。
あの偽物の世界での終わり方は、彼らの記憶に鮮明に与えられている。
故に、あの終わり方をしたあの世界での自分達が嫌になってしまったのかもしれない。
「……そうだ、翔琉。その格好だと危ないから、これ着とけよ」
そういってライから渡されたのは、黒いロングコートだった。
でも背中の部分に翼のような模様が入っている。
「それは、世界魔法連合が作った戦闘服【魔術衣】。頑丈にできている上に、着た本人の魔法耐性に応じて防御力が変化する魔法道具だぜ」
「ほほう。なるほど。ありがとう、んじゃさっそく……」
と、俺は白衣を脱ぎ捨てて、魔術衣に着替えようとすると、上着で着ていたシャツがビリビリに破けてることに気がついた。
「あらら。戦闘で破けちゃったのかな……んじゃ、これも脱ぐか」
そういってするすると、服を脱ぎ捨てて魔術衣を着る。
「お、すごいねこれ。なんか、暖かいけど蒸れないし、動きやすい……ありがとうライ……‼」
ライの方を振り向くと、俺が脱ぎ捨てた白衣とシャツをそそくさと、ライは自身の懐に隠しているところだった。
「ん?あー、礼には及ばないよ」
「ちょっと、俺の服どうするんだよ」
「あー、いや。その……久々に翔琉の匂い嗅いだら、一種の禁断症状出そうになってしまったから、記念に……」
「記念にって……やめろよ。前に俺の血を勝手に採取して、血之誓を発動させたの忘れたのか?悪用されたくないから、ほら。返して」
「嫌だ‼」
「返して‼」
「……嫌だ‼」
何で一瞬考えたんだよ。
「ほら、お父さん。返さないとダメだよ」
「そうだぞ、ライ。翔琉に嫌われるぞ」
ジンライとボルに諭されるが、ライは嫌がってしまっていてどうにもならない。
ちっ……仕方がないな。
「ライ~」
「なんだよ翔琉。絶対に返さな……あ……♥」
俺はライの首筋をこちょこちょっと撫でる。
そして、髭の付け根の部分もすっと指を撫でらせる。
「か、翔琉……そ、そこは……♥」
「ほらほら、返さないと続けるよ~」
俺は今度は耳の付け根の部分をこちょこちょっとさわる。
猫は耳の付け根部分に神経が集中しているとかで、その部分を触られると気持ちいいらしいのだ。
「あ……あふぅ……♥」
ライは立ち続けることが出来ずに、その場でガクッと膝を落として気持ち良さそうな声をあげる。
「ねぇねぇ、ボル伯父さん……なんで、俺の目を塞ぐの?」
「これは見ちゃいけない……」
そして、崩れ落ちて悶絶してピクピクと、身体を痺れさせてよだれを垂らしてる虎から俺は自身の服を取り戻したのだった。
「か、翔琉……て、テクニシャン……♥」
ポンっと、ライは幼児姿に変身してしまった。
そして、そのまま倒れたまま笑っている。
怖いな。
「ふう……んじゃ、この服はとりあえずボル、預かっててくれないかな?」
「え?何で俺?」
「んー、なんか偽物の世界とはいえ、ボルは一番気があった友達だからなんとなーく、ボルになら任せられるかなーって思っただけだけど、やっぱり迷惑かな?」
「あ、いや……なんか、そうやって頼られるの久しぶりだったからちょっと驚いただけだよ」
「んじゃ、よろしくねボル♪」
そういって俺はボルに服を預けた。
俺が反対側に振り向いた瞬間にボルは服を鼻に当ててすーっと匂いを嗅いでいるような音が聞こえたんだけど……まあ、聞かなかったことにした。
「さてさて、ヒョウ。今の戦況を教えてくれないかな?」
「そうですわね、リュウ。現在、成り代わり軍と反乱軍の争いは硬直状態。向こう側には、強力な拒否系の魔導士がいるようで、こちらの遠距離魔法攻撃は無力化されます。さらに、近距離魔法部隊は、炎の大魔導士エンを筆頭に攻め込んでいるため、現状は厳しいですね……なにせ、先程聞くまで彼らは本物だと思っていたので、手加減して攻撃しなければならなかったようで……」
「なるほどね……んじゃあ、翔琉ちゃんに戦場を軽く歩いてもらえれば、成り代わっている黒い液体は全て一掃できると思う。問題は、翔琉ちゃんに気づいた向こう側とこちら側の反応よね……」
「ええ。敵味方、両方から【災厄の使徒】という名称を与えられている以上は、こちら陣営も素直に味方として受け入れられなくて系統が乱れる恐れがあるのよね……」
「それならば、天野翔琉を死体として運べばいいんじゃないか? 」
「「え??」」
ばっと俺たちが振り向くと、そいつは壁際に立っていた。
そして、にこりと微笑みこう言う。
「我の名は悪の因子【強欲】。だが、この名は覚える必要ない……さようなら」
そう奴が言うのと同時に、俺たちのいたテントは爆発したのだった。




