EX STAGE10:発病
胸騒ぎがした。
だからこそ、俺はヨルヤにお願いして、急いでこの地【癒しの泉】へとやって来た。
どうやら、この予感は見事に的中したようだ。
だからこそ、こうしてリュウを救えているのだから。
「貴様……何者?」
と、傲慢と呼ばれるそれは俺に向かって殺意を向けている。
今すぐにでも殺せるんだよ……そう言ってるように思える。
俺は平然とにこりと笑った。
そして、こう言った。
「災厄の使者……だよ」
もうこの際、相手を脅せればいい。
隙を見つけて、最悪逃げればいい。
戦う必要は今はない。
今必要なのは、リュウに俺の中のウイルスを除去する方法、作業をしてもらうのが優先だ。
「災厄の使者……ふーん。じゃあ、貴様が天野翔琉。始まりの神ファーストの生まれ変わりね……」
傲慢は、どや顔と共にこちらを見下したような目で見ている。
相変わらず殺気はおさまっていない。
むしろ、殺気が高まっている。
「翔琉、まさか実験したいだなんていわねーよな?」
そうヨルヤは念を押す。
流石に俺もそこまでばかではない。
「大丈夫。ヨルヤ、今すぐ戦線離脱するよ」
「はぁ?逃がすと思ってるの?この私様が?」
「ヨルヤ、急いで‼」
と、俺はヨルヤに言う。
だが、ヨルヤが呪文詠唱しようとしたその時、傲慢が光の鎖を放ち、ヨルヤとリュウを捕縛した。
「しまった‼」
「翔琉ちゃん‼」
鎖に繋がれた二人は、そのまま引きずられるように傲慢の足元へと引き寄せられ、二人の頭をぐりぐりと傲慢は足を捻る。
「あらあら、こんないいところに泥拭きパッドが……便利ね。それにしても、無様ねヨルヤ。あなたほどの神が、地上のためにわざわざ力を抑えているだなんて……」
「ふん……ファーストが作ったこの世界を任されてる以上、好きには……」
「誰が喋っていいっていった?」
ドガッと、思い切りヨルヤの頭を傲慢は踏み潰した。
思わずヨルヤは、グッと言う風に声が漏れてしまう。
痛そう……。
「さて……天野翔琉。暴食と嫉妬から話はすでに聞いてるわよ。あなた、邪悪の因子に感染してるそうね」
「話がお早いようで……」
「でも、凄いわね。ファーストでさえ、とっさに対応できなかったことを、あなたはすぐに対応している。そのスキル……いいわね」
「……とりあえず、リュウとヨルヤを返してくれ」
「おまけに、容姿もそこそこ……かっこいいというより、かわいい系なのねあなた……好みだわ」
「……とりあえず、リュウとヨルヤを返してくれ」
「……あなたが、私様の奴隷になるならいいわよ」
気持ち悪い……そう思った俺は、思わずいってしまった。
「黙れブス」
暴言を……。
その瞬間、傲慢は醜く笑いハッキリと「殺す」と俺にいったのだった。
傲慢は、光の鎖を操って、俺の身体を捕縛しようとした。
だがしかしながら、俺に向けて光属性の攻撃をすると言うのはいささか失笑の極みである。
俺には、光を自由に操れる魔法である神魔法が使えると言うのに。
だが、この程度ならその魔法を使わなくてもひらりとかわせるのだった。
「やるわね、天野翔琉」
「ふむ……早くヨルヤたちを返してくれ」
「まだまだ、これからよ♪」
かわした鎖が起動を変えて、こちらへと再び襲ってくる。
しかも、鎖は先端から数本におよぶ鎖に分裂して、確実に捕らえようと別々の軌道でこちらへ向かってくる。
「鎖魔法:鎖縛……さてさて、逃げれないわよ天野翔琉‼」
「……めんどうだな。やむ終えまい。神魔法光天神、発動……‼」
あれ?
どうしたんだろうか?
急に動悸が……。
「ゴホッ……ゴホッ……」
光天神は発動している。
そして、鎖は防いだ。
攻撃は喰らっていない。
けど、苦しい……熱い、寒い、楽しい、おかしい、虚しい。
「……光天神解除」
神魔法を強制停止させたら、この動悸も変な感情も消えた。
「なるほど……そういうことか」
と、俺は理解した。
俺の体内にあるウイルスは、神の力に反応して病気を促進させる力があるようだ。
始まりの神ファーストは、存在が神様であるので、この病気に抗えなかった。
なぜなら、病気を促進させる要因である神様自身だからだ。
でも俺は人間……だから、病気は思った以上に侵食してはいない。
けど、その代わり、神魔法を発動させると病気が悪化する。
ウイルスが餌をもらった魚のように体内を蠢き、病状を促進させるのだ。
「おや?天野翔琉……ずいぶんと、辛そうだね……いい様」
傲慢は完全に嬉しそうな顔をしている。
神魔法を解いた事がそんなに嬉しいのかな?
別に神魔法を使わなくても、普通に光属性の魔法は使えるよ。
まあ、流石に威力は落ちるけど……。
「ふう……さてと、傲慢。どうやら、邪悪の因子が邪魔して神魔法を使えない状態にあるようだから、おいとましていいかな?」
「あらあら、かわいそう……じゃあ蟻のように潰してあげるから、そのまま大人しく死ね」
「やれやれ……んじゃ、仕方がないね。いっちょう、あの魔法を使いますか……」
そう言って俺は、スッと傲慢の方へと手を向けて淡い光を灯した。
これから始まるのは、光の嵐……最後までご観覧くださいな。
「光魔法:無限の光」




