39.5話 勇者ハヤテの決意
この話は、「邪魔です!勇者様」http://ncode.syosetu.com/n6332de/の39話と40話の間に当たる閑話です。
本編と違い、下ネタ満載になった為、隔離しました。
単品で読んでも意味不明なので、気になって頂けた方は、本編から読んでみてください。
勇者ハヤテ視点です。
注! オタク(ヒガン)の妄想的野望と、腐女子の冷め気味な会話が大半を占めてます。
閑話なので、抜かしても39話と40話はある程度繋がります。
40話から地上世界編終了に向かいます。
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「うんうん。予想外の事が起きたけど、天使なゼーたん見れたから良し!」
オレは、断じて認めない。いや、認めたくない。
こんな超デレデレな顔してるヤツが、あの二.五枚目風・長身穏やか系イケメンな宰相と同一人物だなんて!!
オレと二人きりになったとたん顔崩すとか、猫被り過ぎだろ!?
オレは、心の中で叫んだ。
そう。口には出さない。
何せオレ自身が、外見は美少年☆中身は腐女子、な存在だからだ。人の事は言えない。
ただ、魔王版シキ様との戦闘中、抱えられてる時にヒガンに聞かされて判明した事があった。
ヒガンは転生者だった。しかも、オレと同じ日本から来てて、「太陽の救世主」は八周ほどプレイしたらしい。
って、それはあんまし重要じゃねーな。
ゼーレはモブじゃなかった。
モブじゃなかった!!
これ超重要。そりゃ強いハズだし、ストーリーに関わってくるハズだよ!
曰く、偶数の周回の時だけ仲間になるキャラらしい。
ただ、奇数の周にいないわけじゃなくて、しっかりモブ達を巡って情報を集めると、ごく僅かに金髪の天使を見たと言うヤツが、フレア共和国の国内まではいるらしい。………ただし、それ以降の目撃情報は無いとか。
どう考えても、ユーリ誘拐の件で陸津神に殺されてるよな?
ちなみに今、オレとヒガンは、大木が消失して夜空が見えるようになった、明かりが少ない夜の王都を、正門に向かって歩いている。
本当はヒガンだけがシキ様から命令された事なんだけど、オレの魔術訓練も兼ねたいから来いと、無理矢理連れて来られた。避難してる都民と兵を、治療してから王都まで運べ、だとさ。
ゲームではサブイベントレベルであった訓練を、まさか本気でやるとは…。んや、違った。ゲームじゃないからこそ本気でやんないと、絶対オレできねーや。
ちなみにそのサブイベント、ヒガンに誘われた時に断ったら、その周では二度と発生せず、転移魔術も習得できないままストーリーが進む事になって、移動が面倒という…。
「ところでヒガン、この聖剣の光、どーやって消すか知らね?」
ヒガンの話には正直あんまし付き合いたくない予感がしてきたけど、実のところ二人で出かけるって事には賛成だった。二周目以降のゲーム知識が得られるかもだし。
アイが何故か心配してたけど、シキ様のお父さん代わりやってたかもしれない件を持ち出すと、しぶしぶ送り出してもらえたから、後は大して問題無いはずだ。
「ゲームでは光ってませんでしたよ?松明代わりになって良いんじゃないですか」
何となくヒガンの話を一方的に聞くのもどうかと思って話題を振れば、このありさま。
まじめな話になるとそのキャラっぽい話し方になるとか、マジ変わり身早いな…。
「あ、でも聖剣無双は止めといた方が身のためです。ボッチエンド目指すなら止めませんが」
「何それ。二周目以降の特殊エンディング?一周目では、ラスボス倒したら二週間後に太陽が姿を現しましたって感じだったけど」
「一周目でもできますよ。簡単にまとめると、聖剣に肉体改造されて太陽の守護神をさせられて、知り合いが誰もいない天上世界で一人寂しく生涯を閉じる感じですね。勇者以外はハッピーエンド。勇者一人にとってはバッドエンドってとこでしょうか。ゲームでやる分には十分な感じですが、実際自分が勇者だったらやりたくないですね」
「おい、オレ勇者なんだけど」
マジか!……ってか、あの体が焼け付く感じとか、目の色変わったのとか、まさか改造され途中な状態だったとか…。
怖っ!!―――…って、ん?
「…ヒガン、つかぬ事をオキキしますが、俺の体、まさか既に人間じゃなくなってる………?」
だってオレは思い出してしまったのだ。目が見えない状態のシキ様が、オレの方見て半魔族とか、魔族に変わったとか言ってた事を。
ゲームの二周目をしようとしてたら、いつの間にか腐女子からショタにジョブチェンジしてて、さらには人間から別の存在にチェンジって、オレの体、何回変化する気だよ!?
「処置が早かったので、多分まだ半魔族くらいだと思いますよ?大丈夫、大丈夫。天津神系の体になるまでには、間に魔族系と陸津神系の進化過程がありますからね。聖剣無双さえしなかったら、の注釈付きですが」
「まじかー。既に半分人外…。アイに知られないようにしないとヤバそうだな」
「え、何々、ハヤテの中身君はアイのファン?強気な眼鏡っ娘を眼鏡ごと汚したい系?」
ヒガンのせいで半壊した、街の外への門の手前で、オレ達二人の足は止まった。
別にオレのせいじゃない。オレは、ヒガンが止まってこっちを振り返ったから、それに合わせて立ち止まっただけだ。
つか、さっさとシラツメ村?シロツメ村?とかに行かなくて良いのかよ。今晩中に終わらせろって話だったんじゃ…。
「汚したいって……。言っとくけどオレ、日本では女だったんだぜ?」
「え、マジか!って事は百合か!……いや、見た目はノーマル…合法的にする為に男になったんだな!?」
「アホか!こんなとこで誤解されそうな事叫ぶなよ!大体オレが好きなのはシキハヤなの。BLなの!」
どうやらヒガンは百合ップルが好きらしい。なんか興奮し始めた元穏やか系イケメンに鳥肌が立って(もちろんキモイという意味で)、オレはヤツを殴って門の外へ出た。
うん。自分が許容範囲外のカップリングの片割れとして設定されてたら、全力で引くな。
BLなカップリングは、絶対シキ様にはバレないようにしなければ。
「くっ、殴る事無いだろ…。つまりハヤテの中身ちゃんは腐女子って事で、陛下をホモの道に引きずり込もうと企んでるんだな…?」
少し遅れて、オレが殴った腹を抑えたヒガンが、半壊した門から出て来つつも、あんまりな濡れ衣を口にする。「そんな事させるか」って、おい。もう一回殴ってやろうか?
「ヒガンの中身って大概失礼だな。オレが好きなのはシキ様×ハヤテで、見るの専門。つまり、シキ様とハヤテが揃ってて、オレがそれを眺められる状態じゃないとダメなわけ。オレがハヤテな以上、シキハヤ見るのは無理だろ?そんな状態でシキ様をホモさせるとか、マジ無いから」
………オレがハヤテじゃなかったら頑張って二人をホモップルにしようとしてた気がすんごくするが、そこは口に出さない。ある程度猫被るのも、腐女子の嗜みだし。
そしてヒガン、お前オレの言葉であからさまにホッとした顔するとか、………シキ様の育て親っての、シキ様に確認しなくても本当っぽい気がしてきたな。
「良かったー…。これでゼーたんをいつでもウチに引っ張れるな」
「…は?」
いやいやいや、意味分かんねーよ?何でお前がゼーレと結婚しようと頑張るって内容に、シキ様関係あるんだよ。
…ってか、「ウチ」ってヒガンとこの家庭って事で合ってるよな?
え、まさかゼーレってホモ無理って設定あんの?シキ様の育ての親って事だから、その「家庭」内に含まれるシキ様一人がホモになった時点で、ヒガンとすら付き合う確率ゼロになるレベルなわけ?
「だって、ゼーたんを近くで拝む為には、この国に留まって貰う必要あるだろ?…で、仕事熱心な彼女を引き抜くなら、結婚レベルじゃないと無理―――…ってなったら、相手はやっぱ陛下以外ありえないし」
オレの頭の中に、疑問が増殖していく中、ヒガンは終わったはずの話を持ち出した。
「ヒガン、オレ、お前の考えにサッパリついて行けねーんだけど…。ヒガンはゼーレの事好きなんだろ?んじゃ、何で自分が結婚できるよう頑張るんじゃなくて、シキ様に押し付けてんだよ」
「そんなの決まってるだろ!陛下なら、ゼーたんを男で汚す事無くぐちゃぐちゃに溶ろけさせる事ができるからだ!!」
「………」
オレは、ゲームの一周目で見たシキ様を思い出して、こっちの世界で仲間になってからのシキ様を、思い出してみた。
男としての色気は…まああるけど、誰も口説いてないよな。オレ達のフォローによくまわってくれるから、その分しゃべるけどタラシとかじゃ、絶対ない。
女の子に興味は…無いんじゃね?温泉でオレが覗きに挑戦しようとした時、ちらっと見えたあの顔は、絶対呆れた顔だった。ほぼ無表情だったけど。
だからって男に興味とかも無さそうだよな。ってか、人間型の生き物自体に興味無いんじゃ………。
「ヒガン、本気でそんな事思ってんのか?あのシキ様だぜ?性欲とかどこにも無さそうなんだけど」
「あったら絶対ゼーたんとくっつけない!!」
無い事前提って、余計に酷いな。もちろんオレは、二人に同情した。
あの二人がヒガンの言いなりになるとは思えないけど、百万分の一くらいの確率で弱みを握られてって場合、恋愛感情ゼロでそこそこ信頼できる仲間とそんな関係にって………悲惨過ぎる。
うん。妄想は、やっぱり紙とかネットの上だけで止めとくべきだな。
「つか、何でシキ様だったら汚されないって話になるんだ?シキ様普通に男だろ?」
「え、もしかしてBLって触手のジャンルない訳?」
「………ああ、そーゆー事か」
つまりヒガンは、あの魔王版シキ様が背中に漂わせてる、花の蕾が着いた触手を使ってゼーレを攻め立てさせる、と言いたいワケだ。しかも、「男で汚す事無く」と言っているという事は、触手攻めで最初から最後までさせる気だ。
「腐女子でもやっと気付いたな…!そう!あの表面が滑らかな花の蕾でひたすら攻めるとか、天使と桜色の花でエロスとか、まさに夢!ロマンだろ!!俺はその光景を眺められれば満足だ!!ついでに人妻というスパイスまで手に入る!」
「あーハイハイ、せいぜい、シキ様とゼーレにドン引かれないよう、妄想は頭の中までで止めとけよ」
ヒガンの好みは、オレには理解できない世界だった。腐女子とはいえ、オレは純愛派。パートナーがいるヤツに手を出すキャラとか、かなり無理だ。そーゆーヤツは、当て馬として登場して、未遂でヒーローにぶっ飛ばされれば良いと思ってる。
「それにしても最初から眺める事希望とか、お前未だに画面の前で眺めてる感覚なのかよ。いつからこの世界にいるのか知んねーけど、もう少し世界に馴染んだ方が良いんじゃね?」
とりあえずヒガンの妄想を終わらす為にも、オレは少~しだけアドバイスしてやったつもりだった。
けどそれは、何故かヒガンが纏う空気を一瞬にして氷らせるものだったらしい。
さっきまでの婦女子には見せられない崩れた顔が消え、星空の下に整いまくったイケメンの彫像ができる。
皆の前で見せていた、柔らかな微笑みも無く、彼は口を開いた。
「………馴染めないモノがあるんですよ。これに気付いた時の衝撃が、貴方に解りますか?」
声にも感情が乗ってなくて、さっきまで騒がしかったヒガンが、幻のように思えてくる。
光源は、空に浮かぶ細い月とオレの腰にある聖剣だけ。
もちろん聖剣の方が光りも強く、ヒガンの姿は下から光に照らされ、まるでお化け屋敷の幽霊役だ。
「大樹族はトレントから進化した魔族なんです」
「それで?」
「普通は杉とかの木が元になっていますが、俺…ヒガンの家系は世界樹なんです」
へー。かなり強そうな家系だな。
「その影響で、どっちの性別にもなれるんです」
「…で?」
「男性型と女性型、どっちにもなれるんですよ!!」
必死な顔でヒガンが言い募ってくるけど、あいにくオレには必死さが理解できなかった。
少し前までの興奮状態のヒガンを見てるだけに、女体化して楽しんだりしてるんじゃないかという疑惑しかない。
楽しんでるなら別に慣れる必要も無いハズだし、余計に必死になる理由が解んなくなるけど。
「毎年健康診断の時に、女性体でも受けないといけないとか、何なんですか!医者の手つきを思い出すだけで寒気がするっ!」
オレに怒鳴っても意味無い上に、お前、その寒気がする事をシキ様とゼーレに強要するのが夢だって語ってるんだぜ?
つーか、一年に一度程度、我慢しろよ。
「ヒガン。お前、どう見ても女性な花の女子大生だったのに、テレビが光ったと思ったら五歳な男児になってたオレに、どんなリアクション期待してるワケ?」
「…くっ……そうだ、こいつ腐女子だった………!!」
「で?村まで行くのにも修行すんだろ。何すれば良いんだ?」
俺の修行を兼ねたヒガンの仕事は、オレが優位な状態で始まった。
けど、オレはこの時気付けなかった。
仕事の鬼なシキ様の育ての親は、同じく仕事の鬼だという事に。
おかげでオレの睡眠時間は、綺麗に消滅した。