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実直勇者のその後の伝説  作者: 柏木サトシ
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実直勇者と蒼い光

「はあああああぁぁ、燕砕牙!」


 二本同時に迫って来た巨大な拳を、ロイはシュヴァルベ式剣技、燕砕牙で同時に屠る。

 この攻撃で、レギオンは生やした手の全てを失った。


「よしっ!」


 ここが最大のチャンスだと感じたロイは、一気に攻勢に出る為に前へ出る。

 しかし、


「やばっ……」


 レギオンの変化に気付いたロイが顔を青くさせる。

 手を失ったレギオンの胴体に、いつの間にか巨大なイリスの顔が現れ、大きな口を開けてとてつもないエネルギーを収束させているのが見えたからだ。

 あれがどれほどの威力を秘めているのかはわからないが、発射されれば街へ甚大な被害が出るのは間違いないだろう。


 ロイは血が滲むほど唇を噛み締めると、苦しげに吐露する


「……クソッ、やるしかないのか」

 ――それは中に取り込まれた娘毎斬るという意味か?


 デュランダルからの質問に、ロイは頷きながら答える。


「どう見ても、あれを撃たれるわけにはいかないだろう?」

 ――然り。我としてはもう少し魔力を溜め込みたかったが、致し方あるまい。

「ああ、あれを撃たれる前に必ず止めるぞ!」


 決意の言葉を口にしたロイは、レギオンの正面に立つと、デュランダルを両手に持ち、自分の背中に刀身を隠すように身を捻って構える。

 足を踏ん張り、全身に力を込めると、途端に体の至る所から血が噴出するが、ロイはそれでも構わず体中に力を込めて集中する。


 今から放つ技がレギオンを打ち破れなければ、ロイは当然死ぬだろうし、後ろに控えるエーデルやリリィ、そしてフィナンシェの街に住む人たちに甚大な被害をもたらすからだ。


 ――主、そのままでいいから我の言葉を聞いてもらえぬか?


 技に集中していると、デュランダルから声がかかる。


「……何だ?」

 ――余計な事かもしれぬが、一つ情報を与えよう。


 そう前置きをすると、デュランダルがこれまでの戦いで気付いたことについて語り出す。


 ――あの魔物……レギオンと言ったか? どうやら彼奴は非常に脆い存在のようだ。

「脆い……あれが?」

 ――然り。彼奴は数多の魔物を、無理矢理一つに繋げただけの存在だ。存在そのものが非常に不安定で、本来なら動くだけでも困難なはずだ……おそらく、大きな齟齬が発生すれば、それだけで存在そのものが掻き消えてしまうだろう。

「つまり、存在を脅かすような大きな傷を負わせれば?」

 ――後は勝手に自戒するようだ。

「なるほど……」


 レギオンの討伐方法を聞いたロイは、姿勢を維持したまま顎を引く。


 デュランダルの見立てが確かならば、レギオンを消滅させるのは、奴に致命的なダメージを与えるだけでいいようだ。

 それはつまり、狙いを違わなければイリスを助け出せる可能性がある、ということだ。

 しかし、その見立てが間違っていたなら、最悪の結末を迎えることになる。


(全てはデュランダルの言葉を信じるか、否か、ということか)


 ロイは心の中で自問するが、


(……そんなの、考えるまでもないだろ)


 すぐさま結論を出すと、大きく息を吸う。


「イリスさん。今、助け出します!」


 レギオンに向かって叫んだロイは、自分の身を更に捻って、限界まで引き絞る。


「シュヴァルベ式、秘伝至殺技(ひでんしさつぎ)!」


 ロイが技名を叫ぶと、デュランダルの刀身が蒼く眩い光を放ち始める。


「オノレ……オノレ…………コロシテヤル! コロシテヤルゾ!」


 デュランダルの光を見て危機を察したレギオンは、限界まで口を大きく開くと、呪詛の言葉と共に溜め込んでいたエネルギーを解放した。


天地断乖斬(てんちだんかいざん)!!」


 同時に、ロイも必殺の名を叫びながら、手にしたデュランダルを閃かせた。


 次の瞬間、突風が吹いて世界を蒼に染めた。


 染まったのは一瞬だったが、次の瞬間には全てが終わっていた。


「…………」


 技を放った後の姿勢のロイも、エネルギーを解放したレギオンも、まるで時間が止まったかのようにピクリとも動かない。


「…………」

「…………」


 事の顛末を見ていたエーデルとリリィも、勝負の結果を案じて呼吸すら忘れて見守っていた。

 ただ一つ言えるのは、レギオンの攻撃は、ロイを……街を焼かなかったということだ。


 すると、変化は唐突に訪れた。


 レギオンの巨体に青白い光が横一線に入ったかと思うと、そこから世界が分断されたかのように斜めにズレ始めたのだ。

 更にその被害はレギオンだけに止まらず、その後ろの闘技場、更には空に浮かぶ雲にまで及び、その全てを二つに分断しようとしていた。

 体を真っ二つされたレギオンは、斬られた場所から氷が溶けるように崩壊を始める。

 どうやらデュランダルの見立ては間違っていなかったようだ。


「これで……終わりだ」


 ゆっくりと崩れていくレギオンを見ながら、ロイは愛用の剣を背中に戻した。

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