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実直勇者のその後の伝説  作者: 柏木サトシ
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実直勇者の勇者たる所以

「もう嫌っ! ロイ、辞めてよ!」


 全身は血まみれ、両腕からは血を吹き出しながらレギオンと戦うロイに、耐え切れないといった様子でリリィが叫び声を上げる。


「エーデルさんもロイを止めてよ。このままじゃ、ロイが死んじゃう!」

「…………」


 リリィが縋るように助けを求めてくるが、それでもエーデルはロイを見据えたまま微動だにしない。


「……もういいです。ボク一人だけでもどうにかしてみせます」


 動こうとしないエーデルに、業を煮やしたリリィはダガーを取り出して前へ出ようとする。


「ねえ、あなた。リリィ……だっけ?」

「な、なんですか……」


 突然声をかけられ、リリィが困惑した様子でエーデルに向き直る。


「どうしてロイが、勇者と呼ばれているか知ってる?」

「え? どうしてって……そんなの今、関係あるんですか?」

「いいから! どうしてだと思う?」


 エーデルに強く言い含められ、リリィは困惑しながらも必死に答えを探す。


「えっと……そりゃ、教会から託宣を受けたからじゃ……」

「違うわ。そんなの、協会が作ったプロパガンダよ」


 リリィの模範的な回答を、エーデルが瞬時に否定する。


「あなたは知らないかもしれないけど、ロイが生まれた年に、勇者になると託宣を受けた子供は、世界中で十七人もいたのよ」

「え、ええっ!?」


 驚愕の事実を告げられ、リリィが思わず声を上げる。


「そ、それじゃあ、他の勇者の託宣を受けた子供たちはどうなったのですか?」

「……そりゃ、散々たるものだわ」


 エーデルは大きな胸を持ち上げるように腕を組むと、大きく嘆息しながら勇者たちの末路について語る。


「道半ばで諦めた。旅の道中で魔物に襲われて命を落としたのはまだマシ……酷くなると勇者を語って善良な村人を騙したり、教会とグルになって金を巻き上げたりと平然と悪事を働く。最悪はデュランダルを手に入れたロイに襲い掛かって来た奴もいたわ……勿論、ロイが返り討ちにしてやったけどね」

「ど、どうしてそんな事が……」

「簡単よ。勇者という看板はとても魅力的なの。勇者を名乗れば誰もが協力的になるし、何処の国へも簡単に入国出来る。王の謁見も簡単に行えれば、貴族に対しても多少の無茶な要求も通る。勇者と名乗るだけでこれだけ優遇されるのだもの。どう、あなたも勇者を名乗りたくなったんじゃない?」


 エーデルの挑むような視線に、リリィは首を激しく振って否定する。


「そ、そんなことありません! それに、ボクなんかが勇者を名乗っても、笑われるだけで誰も信用してくれませんよ!」

「そう……ね」


 必死になって否定するリリィの姿を見て、エーデルは素直で可愛らしいと思った。

 ロイの周りに魅力的な女性が集まるのは不愉快だが、これもロイの人望が

成せる業なのだろう。

 ここはロイに魅せられた一人として、きっちりとロイの魅力を伝えねば、とエーデルは決意する。


「話を戻すけど、ロイは巷で噂されるほど強くはないの。魔法は全く使えないし、剣の腕も……弱くはないけど、ロイより強い人は世界中にゴロゴロいるわ」

「嘘……」

「嘘じゃないわ。ロイが竜王を倒せたのは、妖精王がくれたあのデュランダルと、地下に住むドワーフが種族の威信をかけて作ってくれた鎧、ラピス・ラズリがあったから。そして、ロイを補佐する優秀な仲間がいたからなのよ」


 その何か一つでも欠けていたならば、ロイは竜王を倒せなかっただろうと、エーデルは断ずる。


「でもね、ロイがそれだけの装備と人材を揃えられたのは、ロイに誰にも負けないような魅力があったからよ」


 エーデルはそう告げると、リリィにロイを見るように指示する。


 そこには、体中傷だらけなりながらも、レギオンと真っ向から戦うロイの姿があった。

 かなりの数の魔法を受けたのか、デュランダルの刀身は、蒼穹を思わせる見事な蒼に染まっていた。更に、切れ味も元に戻ったようで、迫り来る巨大な拳や、触手のような蛇をいとも容易く切り裂いていた。


「す、凄い、さっきまではあんなに絶望的な状況だったのに……」


 明らかにロイに有利な展開になっているのを見て、リリィが驚きに舌を巻く。


「もしかしたら、本当にあの魔物を倒しちゃうかも……」

「かも、じゃなくて絶対に倒すわ。どれだけ傷ついても、何度壁にぶつかっても決して諦めない。そして、最後にはどんな強敵をも打ち倒し、自分の信じる道を成し遂げる。そんな姿に憧れるからこそ、ロイの周りには人が集まるし、誰もが彼を勇者と認めるのよ」

「じゃ、じゃあ……取り込まれた人も助けられるのでしょうか?」

「それは……どうでしょうね」


 ロイの事を信じていても自分の考えを曲げるつもりはないのか、エーデルは小さく肩を竦めた。

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