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実直勇者のその後の伝説  作者: 柏木サトシ
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実直勇者の奮闘

 何十本もある足を器用に動かし、あっという間にロイとの距離を詰めたレギオンは、数多の腕を振るってロイを捕まえようとする。


「ちょまっ……それは卑怯だろ!?」


 十本以上の腕に全方位から一度に襲い掛かられ、逃げ場を失ったロイは、どうにかしなければと視線を彷徨わせる。


 だが、


「……あれ?」


 一瞬、やられるのを覚悟したロイだったが、その攻撃が届くことはなかった。


 よく見れば、レギオンの腕同士が互いにぶつかり、他の腕を阻害した所為でロイへと攻撃が届かなかったようだ。


「…なるほど、これがエーデルの言っていた事か」


 レギオンは、取り込んだ魔物が多過ぎて上手く意思疎通が出来ないというのは本当のようだ。


「……なら、何とかなるかもな」


 ロイはいつの間にかカラカラに乾いていた唇を一舐めすると、剣を握り直して走り出した。


 その動きに反応してレギオンが再び無数の腕を振るうが、またしても互いの腕同士がぶつかり、時には絡まってしまってロイへ攻撃が届かない。

 その隙をついて、ロイは一本の足へと斬りかかる。


「はああああああああっ!」


 裂帛の気合いと共に腕を素早く振るうと、剣閃と共にレギオンの巨大な足が両断される。


「よしっ、いける!」


 たった一本斬り倒しただけでは、倒す事すら出来ないが、このまま何度か攻撃を繰り返せば、状況をひっくり返すことも不可能ではないだろう。

 手応えを感じたロイは、一気呵成に攻撃を仕掛けようとするが、


「んなっ!?」


 今しがた斬ったレギオンの足の切り口から、魔物の顔、ライオン顔が現れて炎のブレスを吐き出したのだ。


「――っ、そんな攻撃もあるのかよ!」


 ロイは悪態を尽きながらブレスを回避し、更に迫って来た腕を紙一重で回避しながらレギオンから距離を取る。


 どうやらレギオンの足元で戦うのは、得策ではないようだ。


 当初の作戦を早々に諦めたロイは、何か有効打に成り得る場所はないかと、レギオンの周りを駆けながら観察する。


(……わからん)


 だが、球体に無数の手足が生えただけという非常に単純な構造で、何処が前なのかもわからないレギオンの体には、これといった弱点は見つからなかった。

 ならば、どうするべきか?


(まあ、こういう時はあれだろ)


 ロイは多くの巨大な魔物と戦った時のセオリーを思い浮かべると、それを成す為に行動を開始する。


 唸りを上げながら迫る腕をロイは華麗なステップで回避しながら移動を繰り返し、レギオンの裏へと回る。

 無数ある足を足場にしながら胴体へと飛び移ると、頭頂部目掛けて疾駆する。


(一見して弱点が見つからないなら、弱点は大概見えないところにあるもんだ)


 レギオンの弱点は頭部にある。そう推察したロイは、危険も顧みず、一気に決着をつける為に駆ける。


 途中、キマイラの尻尾の蛇が背中から次々と生えてロイへと襲い掛かかり、魔物の顔が次々と現れ、口から炎、氷、雷といった様々な種類のブレスを吐き、更には魔法攻撃をも仕掛けてくる。


「よっ、はっ……このっ!」


 それらの猛攻を、ロイは一本の剣だけで全てを切り伏せながら前へ進む。

 しかし、全ての攻撃を防ぐ事は出来ず、頭頂部に到達した時には蛇の牙で体を切り裂かれ、ブレス攻撃と魔法でその身にいくつもの火傷を負っていた。


 それでもしっかりとした足取りで頭頂部に立ったロイは、剣を逆さにして頭上に掲げる。


「イリスさん、すみませんっ!」


 一言断りを入れてから、ロイは渾身の力を込めて剣を振り下ろした。


 真っ直ぐ振り下ろされた剣は、レギオンの体に深々と突き刺さると思われたが、


「なっ!?」


 剣が刺さる直前で足元に突然巨大な口が現れ、ロイの剣を歯で受け止めて見せた。

 攻撃を受け止められた事にロイが驚愕していると、更に二つの口が足元に現れ、ロイの足へと噛み付く。


「あぐぅ……このっ!」


 痛みに顔をしかめながら、ロイは剣を引き抜いて噛み付く口に攻撃しようとするが、ロイの剣を止めた歯はがっちりと噛み付き、どれだけ力を入れて引っ張ってもビクともしない。

 その間にもロイの足に噛み付いた歯が食い込み、ロイの足元から血が噴出し続けていた。


「ロイ、前を見て!!」


 エーデルの泣き叫ぶような声にロイが顔を上げると、ロイの体より遥かに大きくて太い、トカゲの鱗に覆われた巨大な腕が目の前まで迫っていた。


「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 ロイは雄叫びを上げながら、必死に拘束から逃れようともがくが、健闘空しくレギオンの豪腕をまともに喰らってしまう。


 信じられない速度で吹き飛ばされたロイは、轟音と共に闘技場の観客席へ叩きつけられた。


「ロイッ、いやああああああああああああああああああああ!!」


 観客席から上がる土煙を見て、エーデルが顔を真っ青にして悲鳴を上げる。


「このっ! よくも、ロイを!」


 ロイの仇をとるべく、エーデルが杖を構えて詠唱を唱えようとするが、


「――――――――っ!!」


 レギオンの体から無数のバンシーの顔が現れ、エーデルの詠唱を阻害させる大絶叫を響かせる。


「うくぅ……」


 闘技場の壁にヒビが入るほどの大音量に、エーデルは耳を押さえて詠唱を中断してしまう。

 すると、新たな敵を認識したレギオンが無数の手をエーデルへと伸ばす。


「くぅ……あぅ……」


 エーデルは何とか立ち上がろうとするものの、大音響で聴覚障害を起こした影響か、足取りが覚束ない。


「エーデルさん、危ない!」


 迫る豪腕を前に、エーデルは成す術なく立ち尽くす事しか出来なかったが、間一髪でリリィが体ごとぶつかるようにしてエーデルを救出する。


「ここは危険です。一度逃げましょう!」

「いや、放して! ロイが、あたしのロイが!」

「ロイはきっと大丈夫です。それより今は、ボクたち自身の身を守る方が先決です!」


 リリィは暴れるエーデルを抱え上げると、迫り来るレギオンに背を向けて逃げ出した。

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