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実直勇者のその後の伝説  作者: 柏木サトシ
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実直勇者と魔物の群

「やああああっ、クロス・スラッシュ!」


 両手に装備した二本のダガーが閃くと、二体のリザードナイトの首から上が胴と乖離して一瞬にして絶命させる。


「次っ!」


 死んだ事に気付かず歩き続けるリザードナイトには目もくれず、リリィは左のダガーを手首のスナップを利かせて投擲する。ダガーは詠唱中のエーデルに襲いかかろうとしたデーモンの目に刺さり、勢いのまま頭部を貫く。ダガーには糸が結び付けられており、デーモンの動きが止まったのを確認したリリィは、手を引いてダガーを回収した。


 その間、リリィを標的にしようとした魔物はロイに次々と切り伏せられていた。


「……感謝するわ。エクスプローズ!」


 リリィの活躍により魔法の詠唱を終えたエーデルが爆裂魔法、エクスプローズを発動させる。


 エーデルの杖から一メートルを越える巨大な光の玉が生まれ、魔法の詠唱をしているバンシーとガーゴイルの群れへと飛び込んだ。

 次の瞬間、建物全体を揺るがすほどの衝撃が生まれ、三十匹以上いた魔物たちを一瞬にして蒸発させた。


「ったく、キリがないわね」


 大きな魔法を撃った余韻に浸る間もなく、エーデルは小さな魔法を詠唱無しで発動させながら小さく愚痴る。

 戦いが始まってからに十分近い時間が経ち、ロイたちが倒した魔物の数も優に百を超えていたが、一向に魔物の数が減る気配はなかった。


「…………」


 遠距離攻撃が主体のエーデルはまだまだ余裕だが、接敵する必要があるロイとリリィ、とりわけリリィの方は、実戦経験が少ない所為か集中力が低下し、何度か危険な目に遭っていた。

 このままでは取り返しのつかない事故が起きる可能性がある。そう判断したエーデルは、


「ロイッ!」

「わかってる! 時間はこっちで稼ぐから一発デカイやつを頼む!」


 名前を呼ばれただけで、エーデルが話したい内容を察したロイが大きく頷く。

 それを見てエーデルも頷き返すと、リリィへ声をかける。


「いい? この状況をひっくり返してあげるから、あと少しだけ頑張りなさい!」


 エーデルは一方的に告げると、杖を構えて次の魔法を撃つ準備に入る。


 魔法の詠唱を開始する……と思われたが、


「さて……と」


 エーデルは愛用の杖を地面に突き立てると、杖で地面に大きな円を描く。次に、その円より一回り小さな円を描き、更にもう一つ小さい円を描く。それが終わると、直線で円を切るように何本か線を引き、続いて何やら文字の様なものを綴っていく。


「フフフ~ン」


 数え切れないほどの魔物に囲まれるという状況にも関わらず、エーデルは呑気に鼻歌を歌いながら地面へ次々と幾何学模様を描いていく。

 見たこともない謎の文字が一つ、また一つと地面へと描かれると、それが黒い光を放ち、そこから辺りに背筋が凍るような風が漂い始める。


「な、何? お前たち、早くあの詠唱を止めるのよ!」


 エーデルが地面に何かを描きはじめてから、部屋の温度が体感で五度以上も下がるという異常事態に、慌てた様子のイリスが魔物たちにエーデルを止めるように指示を出す。

 その言葉に、魔物たちが一斉にエーデルへと意識を向けるが、


「烈風斬・乱!」


 ロイが得意とするシュヴァルベ式刀剣術の剣技、烈風斬を連続で次々と放ち、エーデルへと意識を向けていた魔物たちを十匹以上まとめて屠る。


「このっ、ボクから目を逸らすなんて生意気だよ!」


 続いてリリィは腰のポーチから二つの瓶を取り出すと、集団で動く魔物たちの頭上目掛けて放り、同時に二本の投げナイフ抜いて投げる。

 ナイフはリリィの狙い通り投げた瓶を貫くと、中の粉が魔物たちへと降り注ぐ。


「催涙効果のあるルイの花の実をすり潰した粉だよ。魔物だってタダじゃすまないはずだよ」


 リリィの言葉通り、粉を浴びた魔物は目を押さえて苦しそうにのた打ち回る。

 それを見て、リリィは粉を浴びないように気をつけながら、苦しむ魔物に向けてダガーを投げて一匹ずつ確実に仕留めていく。


「ええい、たかが二人に何をやってるのよ! こうなったら……」


 数で圧倒しながら、ロイたちを全く追い詰められない事に憤ったイリスは、自分の脇で絶命しているバンシーの首元からナイフを抜くと、もう一匹の歌い続けていたバンシーの首元へナイフを突き立てた。


「――――――――っ!!」


 闘技場内に、再びバンシーの断末魔が響き渡る。


「くぅ……」

「あうぅぅ……」


 ロイとリリィは、その叫び声に顔をしかめて耳を塞ぐ。

 魔法の準備しているエーデルも、バンシーの叫び声に集中を乱されると思いきや、


「えっ……と、ここがこうだから……」


 余程集中しているのか、バンシーの叫び声など聞こえなかったかのように黙々と模様を描き続けていた。

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