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実直勇者のその後の伝説  作者: 柏木サトシ
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実直勇者と救援者たち

 強がって見せるロイだったが、これといって何か打開策があるわけではなかった。


 だが、追い詰められても強気の姿勢を崩さないロイを見て、人狼はまだ何か隠しているのではないかと危惧しているのか、中々動こうとしない。


 結果として、その人狼の逡巡がロイを救うことになる。


「ガ、ガオオオオオオオオオン!!」


 突然、人狼はくぐもった悲鳴を上げ、苦しげにのた打ち回る。

 その背中には、三本の巨大な氷柱が突き刺さっていた。


「ロイ、大丈夫!?」


 ロイが苦しむ人狼を呆然と見ていると、部屋の入り口から懐かしい声が聞こえた。

 目を向けると、杖を構えたエーデルが駆け寄ってくるのが見えた。

 人狼の背中の氷柱は、エーデルの唱えた魔法が原因のようだった。


 しかも、現れたのはエーデルだけではなかった。

 エーデルの後ろから二つの影が颯爽と現れ、牢屋の鍵を開けると、一人は人狼に立ちはだかる様に武器を構え、もう一人はロイの傍に跪くと、回復魔法をかけてくれた。


「先程は失礼しました勇者様。今度はちゃんと助けますから少しの間、我慢してくださいね」

「ネル……ケさん?」


 ロイが名前を呼ぶと、ネルケが頬を赤く染めながら微笑み、頷く。

 回復魔法の暖かな光を心地よく思いながら、ロイが人狼に立ちはだかるもう一人の人影に目を向けると、その人物と目が合った。


「見ててね、ロイ。ボクだって冒険者なんだからね」

「リリィ、待っ……ゴホッ、ゴホッ!」

「い、いけません、勇者様。少しお静かに!」


 今にも人狼に襲いかかろうとするリリィを止めようとするロイだったが、咽からせり上がってきた血の所為でまともに喋る事が出来ず、ネルケに窘められてしまう。


「――っ、こいつ……よくもロイを!」


 リリィは腰のダガーを抜くと、背中の氷柱を抜こうともがく人狼の死角に入り、円を描くように動いて隙を伺う。

 人狼は背中の氷柱に気をとられ、リリィの事など眼中にないようだった。

 身を低くし、滑るように移動したリリィは、人狼の左側面から近付いて手にしたダガーを、人狼の鎖骨目掛けて突き刺す。

 そこまで来たところで、リリィの接近に気付いた人狼が手を振り上げるが、


「遅いっ!」


 手が振り下ろされるより早く、ダガーが人狼の鎖骨下の隙間に突き刺さる。

 リリィは突き刺した反動を利用して一気に距離を取ると、首を巡らせ叫ぶ。


「エーデルさん!」

「わかってる! ライトニングボルト!!」


 リリィが呼びかけると同時に、既に詠唱を完了していたエーデルが魔法を発動させる。

 エーデルの杖の先が黄色く光り、一条の閃光となって部屋を光で満たす。

 フロッシュ公爵に向けて撃ったライトニングボルトとは雲泥の差、全てを消してしまいかねない光の帯は、途中から意識を持っているかのように一点へと集まる。


 そう、リリィが人狼に突き刺したダガーへと――


「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 体の内部から電撃に焼かれるという苦しみに、人狼が絶叫を上げる。

 魔法から逃れようと必死にもがくが、まるでエーデルが持つ杖と、人狼に突き刺さったダガーが一本の強い糸で繋がれているかのように互いを強く結び、人狼を放さない。


「オオオ……オオ………………ッ!?」


 地下牢に満ちた暗澹たる空気を吹き払う、眩い迅雷に焼かれ続けた人狼の動きは、みるみる緩慢になり、閃光が尽きると同時にその身を地面へと横たえた。

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