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実直勇者のその後の伝説  作者: 柏木サトシ
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実直勇者と反撃の怪盗

 王との謁見に取り付けるまで、一週間の時間がかかった。

 その間、グラースは約束どおり、ナルキッソスとしての活動は一切しなかった。


 ロイも憲兵から幾度となくナルキッソスの正体について話すように説得されたが、決して首を縦に振らなかった。


「いよいよか……」


 そして、いよいよ約束に日になり、ロイはグラースとの待ち合わせ場所となる街の広場へと来ていた。

 ロイの隣にはエーデルと、城までの案内役を買って出たカーネルが立っていた。

 プリムローズは城から出頭要請が来ていたので、この場にはいない。


「さて、ナルキッソスは本当に姿を見せるのですか?」


 約束の時間から既に三十分ほど経つが、一向に姿を見せないナルキッソスにカーネルが諦観したように口を開く。


「来ますよ。ナルキッソスもこの国を、自分の暮らしを良くしたいと思っているはずですから」

「……そうですな。いやはや、わたくしとした事が失言でした」


 ロイの言葉に、カーネルは自分の非を認めて恭しく頭を下げる。


(しかし、このままでは……)


 ロイには言わないが、カーネルは内心焦っていた。


 王との謁見時間には限りがあるのだ。今日は他国との会談の為、この謁見の後に国を出る手筈となっていた。

 このままナルキッソスが姿を見せないと、カーネルの苦労も、ロイの努力も全て水泡に帰してしまう可能性がある。


(願わくは、一刻も早い登場を願いたいものですな)


 カーネルが祈りにも似た面持ちで目を伏せたその時、


「待たせたな」


 ロイたちの前に遅れてきたにもかかわらず、ふてぶてしい態度のグラースが現れた。

 ようやく現れたグラースに、ロイは安堵の溜め息をつく。


「遅かったな」

「悪い。こいつ等が揃わないから出発が遅れてしまったんだ」


 そう言ってグラースが顎で示した先には、クロクスをはじめ、強面の男たちが連なっていた。


「まさか……この方たち全員が、ナルキッソスなのですか?」


 総勢三十人ものの男たち見て、カーネルが舌を巻く。


「ああ、情報収集役に始まり、忍び込んで盗み出す人間、それを補佐する人間、更にブツを換金して配分する人間、それらが集まっての怪盗ナルキッソスだ。勿論、全員が人攫いなんて汚い仕事には手を染めていないぜ」

「……驚きました。まさか、ここまで大掛かりな組織だとは。わたくしはてっきり……」

「てっきり?」

「い、いえ、なんでもありません。申し訳ありませんが、時間の猶予が余りありませんので、少し駆け足で城へ向かいますよ」


 グラースの疑問を一蹴したカーネルは踵を返すと、一同を先行する為に早足で歩き始めた。


 再び訪れたフィナンシェ城は、ロイが最初に訪れた時とは随分と雰囲気が違っていた。


 城の入り口へと続く跳ね橋には騎士が整然と並び、手に各々の武器を持って城を訪れる人間を威圧していた。

 辺りに漂うに剣呑な雰囲気に、勇気を持ってここを訪れたナルキッソスたちの間に、早くも心が折れそうになっている者もいた。

 その中で、ナルキッソスの実質的リーダーであるグラースだけは臆することなく、真っ直ぐ前を見据えて堂々と闊歩していた。

 そんなグラースの様子を逞しく思いながら、ロイはナルキッソスの面々に害を成す者がいないかと、辺りを注視しながら城の中へと足を踏み入れた。


 城の中へ入ると、外とはまた違う歓迎が一同を迎え入れた。

 城外がナルキッソスを萎縮させる為の威圧的だったものに対し、城内では貴族たちによる侮蔑の視線がそこかしこから投げられた。


 庶民風情が王へ意見するとは何事だ。


 卑しい身分の癖に、汚い足で城内へと踏み入れるな。


 面と向かってそう言われたわけではないが、彼等の表情を見れば一目瞭然だった。

 内と外、二つの嫌がらせとも取れる対応に、エーデルが鼻を鳴らして不満を口にする。


「ここまで徹底して嫌ってくれると、逆に清清しいわね」

「申し訳ありません。わたくしの力では、会談の場を設けるのが精一杯でして……」


 身内の恥を晒してしまった親のように、顔を伏せたカーネルが小声で謝罪する。


「ハッ、別に構いやしねえよ。これからああいう奴等の悪事をバラしに行くわけだからよ。明日から奴等がどういう顔をするか、今から楽しみだよ」


 グラースは犬歯を剥き出しにして獰猛な笑みを浮かべていた。

 何かあればすぐにでも全面戦争に勃発してしまいそうな一触即発の雰囲気ではあったが、特にこれといった問題もなく、一同は目的地へと辿り着いた。


「それでは、わたくしはこれで……御武運をお祈りしてます」


 謁見の間の前まで案内したカーネルは、頭を下げて道をロイへと譲る。

 前へ出たロイは、振り返ってこの場にいる全員の顔を見渡した後、


「行こう」


 力強く頷いて、謁見の間への扉を開けた。

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