実直勇者と青果店主
こうして、ロイたちは情報収集の為に各自で行動を開始した。
協議の結果、比較的回る箇所が少なく、礼儀作法に厳しい貴族の家々を、同じ貴族であるエーデルが回り、ロイとプリムローズは平民街を中心的に回ることになった。
平民街へと赴いたロイは、人が多く集まる場所を目指して歩いていた。
「ちょっとあんた。もしかして、勇者ロイ様じゃないかい?」
その道中、果物を取り扱っている恰幅のいい中年の女性店主がロイへ声をかけてきた。
「そうだよ、間違いない。ロイ様だろ? 実直勇者の?」
その言葉に、ロイは思わず赤くなる。
「はあ……恥ずかしながら世間ではそう言われています」
「やっぱりそうだ。ほら、せっかくだから寄って行ってよ」
店主はロイを呼び寄せると、手にしていた林檎を「食べな」と言って押し付けてくる。
「すみません。いただきます」
「いいよ、いいよ。その代わり、といっちゃなんだけどサインくれないかい? ウチの店のいい所に飾っておくからさ、ね?」
「はあ……わかりました」
林檎一つで救世の勇者を呼びつけ、サインをねだるという店主の豪胆さに呆れながらも、ロイはサインをするついでに、店主にナルキッソスについて尋ねてみる事にした。
「すみません。少しお話を聞いてもよろしいでしょうか?」
「えっ、なんだい藪から棒に? ひょっとして、オバちゃんのことを誘っているのかい?」
頬を赤らめる店主を見て、ロイは慌ててかぶりを振る。
「はいっ? い、いやいや、俺はただ最近この街で事件を起こしている怪盗ナルキッソスについて知りたいだけですよ」
「怪盗? ああ、貴族様の家から盗みを働いているって噂の奴かね?」
「そうです。他にも、罪もない人を攫っている悪党です」
「みたいだね。全く、物騒な奴が現れたもんだよ」
ロイの話に、店主は林檎を租借しながら何度も頷く。
「なるほどね。つまり勇者様はその怪盗を捕まえる為にここに来たんだね?」
「そうです。何でもいいので怪盗について知っていることありますか?」
店の商品を次々と平らげていく店主の顔を伺いながら、ロイが質問する。
「う~ん、残念だけど、ウチの周りではそういう話はとんと聞かないね。知ってることは噂程度の憶測だけさ」
「そうですか……ご協力、ありがとうございました」
店主から何も情報が得られず、ロイはがっくりと肩を落とす。
「あっ、でも、ちょっと待った!」
お礼を言って立ち去ろうとするロイに、店主から待ったがかかる。
「怪盗と関係あるかはわからないけど、冒険者たちが集まっている場所なら知ってるよ」
「冒険者、ですか?」
「そうそう、街の外で開拓作業をしている元冒険者がいるでしょ? 彼等ならそういう情報にも詳しいんじゃない?」
「なるほど……そうですね!」
冒険者は情報が命だ。そう言われると、店主の言葉は非常に理に適っていると思われた。
ロイは店主に改めてお礼を言うと、冒険者が集まっているという場所を教えてもらった。




