実直勇者と金と魔法の関係
エーデルの杖は、美しい四枚の天子の羽をモチーフとした金細工が眩しい身の丈ほどもある巨大な杖だ。ただし、金は細工部分だけで、その他の部分は樫の木で出来ていた。超がつくほどの金持ちのエーデルにしては珍しい、どこにでもありそうな魔法使い用の杖だった。
エーデルは金の細工部分を指差してロイに注目を促す。
「光の御子たちよ、ここに集いて我の道を照らし給え……イルミネイト」
エーデルが小さく呪文を呟くと、金細工部分が輝き出す。
その輝きは徐々に大きくなり、人の顔ぐらいのサイズの球体になると、杖から浮かび上がり、貴賓室内を煌々と照らし出す。
暗闇で辺りを照らす魔法では基礎中の基礎の光属性魔法、イルミネイトだ。
更にエーデルは、杖を脇に置くと顔の前で両手を掲げ、同じ様にイルミネイトの呪文を唱えて部屋へと解き放つ。しかし、今度のサイズは、こぶし大ぐらいの小さなもので、大小二つの光の魔法が、部屋の中をふよふよと漂う。
「一目瞭然だと思うけど、魔法の杖を使った時と使わなかった時の差はこんなにも違うの」
自由気ままに漂う魔法に見惚れている一同に向かい、エーデルが話す。
「この杖には金が使われているでしょ? 金っていうのは金属の中で唯一、魔力を高めてくれる不思議な金属なの。だから魔法使いが使う杖には必ず金、もしくは金を使った合金が使用されているのよ」
又、金は長年放置されてもその性質を変えることなく、酸や様々な薬品に入れても溶けない事から、金事態に何らかの魔法がかけられている。もしくは魔力が凝固して固まった物が金ではないか、と言われていた。
「つまり、倒した魔物が金を落とすのは、体内に取り込んだ金がそのまま出て来たから?」
「おそらくね。金がより多いほど魔力の伝導率も上がるから、強い魔物が多くの金を落とすのはそれだけ多くの金を溜め込んでいるから、となるわね」
自身の考えを述べたエーデルは、答え合わせをするようにイリスを見据える。
エーデルの考えを黙って聞いていたイリスは、
「ピンポ~ン、ピンポ~ン。凄いよ~、最新の学会発表でもそこまでの結論に達した人はいなかったのに、わたくしが与えた情報だけで、ブルローネ家が長年かけて辿り着いた正解を導き出すなんて、流石は大魔法使いのエーデルちゃんね~」
両手を大きく広げ、大袈裟に拍手しながらエーデルを称えた。
「正解が出たところで話を戻すけど、あの子たちが人間を襲わない理由はね……一言で言うとその必要がないからなの~」
「必要が……ないですか?」
「そう、ここにはあの子たちのご飯となる金も魔力も一杯手に入る術があるからね~。それにあの子たちは……って、噂をすれば」
何かに気付いたイリスが、ロイたちに中央の舞台の方を見るように促す。




