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実直勇者のその後の伝説  作者: 柏木サトシ
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実直勇者と魔物の生態

 イリスがベルを鳴らすと同時に、入り口の扉が開いて紅茶と軽食を手にしたメイドが現れ、あっという間にテーブルに人数分のお茶をセットした。


 イリスはメイドたちに笑顔でお礼を言って退席させると、ロイたちに座るように促す。


「さあ、どうぞ~。冷めないうちに召し上がれ」


 その言葉に、エーデルとプリムローズは素直に従い、それぞれ席に空いて紅茶にミルクを入れたり、ジャムを入れたりと自分好みの味付けをしていく。

 しかし、ロイだけはその場から動かず、無言のままジッとイリスを睨むように見つめていた。


「ん~ん、良い香りね」


 ロイに無言の圧力をかけられても、イリスは全く動じた様子も見せず、目を閉じて紅茶の香りを楽しんでいた。


「…………」


 暫くの間、ロイは無言でイリスを睨みつけていたが、イリスはロイの事などまるで眼中にないように美味しそうに紅茶を飲み、エーデルとプリムローズは用意された軽食、色とりどりのサンドイッチへと手を伸ばして小腹を満たそうとしていた。

 どうやら席に着かないと、話をしてくれないようだ。


「…………はぁ」


 このままでは埒が明かないと踏んだロイは、憮然とした態度のまま乱暴に席に、エーデルの隣へと腰かける。


「キャッ!? もぅ、濡れちゃったじゃない。ほら……」


 エーデルが跳ねた紅茶によって濡れた部分、胸元に付いたシミを見せつけるようにロイの顔に近付けるが、ロイはイリスを真っ直ぐ見据えたまま微動だにしなかった。


「ふぅ……ロイ君は本当に真面目で頑固だね~」


 ロイの頑なな態度に、飄々とした態度のイリスも流石に呆れたように嘆息し、観念したように肩を竦めると、ようやく口を開く。


「本題に移る前に……ロイ君は、魔物がどうやって活動しているか知ってる?」

「えっ、どうやって、とは?」

「人が活動するには、ご飯を食べて、適度な休息が必要でしょう。でも、不思議な事に魔物はご飯を食べないの。それと休息の時に動かなくなることはあっても、人間みたいに寝るということも必要ないのよ」

「それは……」


 あり得ない。そう断じてしまうことはロイには出来なかった。

 冒険をしていた頃、何度か野宿をしなければならないことがあったが、魔物はどれだけ夜が更けようとも、どんな状況でも構わず襲撃してきた。それは村や町に対する襲撃も同じで、見張りがうっかり入り口の門を閉め忘れたが為に滅ぼされた村をいくつも見てきた。

 魔物は休息の為に睡眠を必要としない。それは経験から理解出来る。しかし、栄養補給の為に食事をしないなんて、生き物としてあり得るのだろうか。


「いや、魔物が食事をしないと言うのは、あり得ない話ではないぞ」


 ロイの疑問に、プリムローズが答える。


「もう知ってると思うが、街の外で元冒険者たちが新しい土地の開墾作業を行っていただろう? その過程で、開拓地を捜す為に各所を回った地質学者が気になる事を言っていたんだ」

「気になること?」

「街の外にあれだけ魔物が生息していたのに、何処も彼処も綺麗過ぎるってね」

「……それのどこが問題なんだ?」

「簡単な話だ。生き物がいる場所っていうのは、食べ残しや排泄物といった生活の跡が必ず残るはずなんだ。野生動物のそれは見つけられても……」

「魔物の生活の跡は見つけられなかった?」


 その問いに、プリムローズはゆっくりと頷いた。


「じゃ、じゃあ……魔物はどうやって活動する為のエネルギーを得ているんだ?」

「その疑問は、私の中で一つの仮説があるわ」


 すると、ロイに無視され、ふてくされた様子で紅茶を飲んでいたエーデルがプリムローズの後を引き継ぐ。


「これは、最近の研究でわかったことと、さっきの話を統合しての考えなんだけど……」


 そう前置きをしてエーデルは自身の考えを話す。


 それは、いくつかわかった魔物の習性から導き出された答えだ。


 先ず、魔物は人しか襲わない。基本的に自分たちを狩りに来た冒険者や、旅をしている行商人を襲う。時には集団で人の住む集落を襲うこともある。しかし、そこに一緒に住む家畜やペットを魔物が襲ったという報告は少ない。


「これは魔物が襲う対象を、魔力の有無で選定しているからだと思われるわ」


 魔法使いでなくとも、人であるならある程度の魔力は持っている。他の動物も全く持っていないというわけではないが、人間と比べると遥かに少ない。そして、人間の中でもとりわけ魔法を使う者、特に回復魔法を使う人間を、魔物は優先的に狙う傾向があった。

 そして、壊滅した村や町を調査してわかったのは、屋外より屋内の方が徹底的に破壊され、被害が甚大だったということだ。これは、一般的には近くに住む山賊や盗賊が火事場泥棒に入って家捜ししたのではないか、と言われている。


「でも、その考えが間違っているとしたら? 魔物が村や町を襲う本当の理由は、人を襲うだけでなく、民家にある金を奪う為だとしたら? 魔物は魔力を糧に動いているのは間違いない。でも、魔力を効率よく動かす為には金という触媒が必要だった。そう考えれば、魔物が人しか襲わない理由も、倒した魔物が金を落とすのも説明がつくのだけれど……」

「ちょ、ちょっと待った」


 エーデルがイリスに解答を確認する前に、ロイが待ったをかける。


「魔物が魔力欲しさに人を襲うっているのはわかった。でも、どうしてそれで金を欲しがるんだ? 魔力と金にどんな関係があるっていうんだ?」

「え? あっ、そうか。ロイは魔法を使わないから金と魔力の親和性を知らないのね」


 混乱している様子のロイに、エーデルは優しげな微笑を浮かべると、


「じゃあ、教えてあげるからこれを見て」


 と言って愛用の杖を取り出した。

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