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第九話 猛禽、論客となりて大義を説く

 ブレイズはその後、アンヘルらがいる街へ暫く逗留することにした。

 四人に共通の話題が出来たというのもある。

 問題な事にその共通の話題は、公になればタダでは済まされない代物でもある。


「やぁ、またお邪魔します」

 ブレイズはアンヘルの家に入り浸ることが多い。

 少し暇というのもあるが、アンヘルと歴史についての談話をするのも一興であるのだ。

 アンヘルもずっと古代文明の史書とにらめっこしているだけよりは、偶にブレイズと会話することも気が紛れて丁度良かった。


「今日は面白いものをお見せしましょう。昨日の夜分に、つい完成したばかりなのですが」

 アンヘルはそう言うと珍しい形をした眼鏡をブレイズに見せた。

「これは何ですか?」

 ブレイズがそう問うとアンヘルは

「今まで小さすぎて見えなかった物が見える物です」

 と自慢げに話した。


 ブレイズはそれがどうして古代文明の研究に繋がるのか理解出来ない。

 ブレイズが不思議そうな表情をしているのにアンヘルも気づき

「実の所、これは教会とやり合う為の武器になるかも知れないのです」

 ブレイズは増々分らなくなった。

 そこでアンヘルはブレイズにある事を打ち明けることにした。

 グザヴィスとの会話(第二章参考)である。


 ブレイズは納得したが今度は難しそうな顔をした。

 元々、魔術師自体が気味悪がられているのもある。

 第一「星霜の杖」に所属していない一魔術師となると殊更面倒なのである。

 幸いアンヘルは、まだ教会の荘園とされている所には出向いていないので、教会による取り締まりを受けたことはない。


「教会と事を交える所存ですか? 今はまだ、時期尚早かと思いますが・・・」

 ブレイズも教会のことは気に食わないが、平時において民衆は変化を嫌う習性があることをブレイズは知っている。

 それを広めようにも教会は確実に邪魔をするのは確かだし、難癖つけて捕縛するようなことは造作もないことだ。


「そこで貴方に相談なのです。これを広める方法を考えていた所です」

 アンヘルはそう言ってうつむいた。


 大体、これは予防であって治療ではない。

 それ故、他人から見ると効果のほどは分りづらい。

 微生物を見せれば民衆は珍しがるかも知れないが「魔術で幻を見せられている」と思われればそれまでである。


「この事はヒューデン侯爵やベルトルン伯爵には知らせたのですか?」

「いや、まだ見せてはいません。貴方にだけ最初にこの眼鏡を見せただけです」

「何故、私だけに見せたので?」

「バズやクランクは面白がるでしょうが、恐らく「そんな事は放っておけ」と笑い飛ばすぐらいでしょうから」

 アンヘルは、そう言って笑った。

 ブレイズも成程と思い、苦笑するだけである。


「それで『微生物とやらが原因と思われる病気』に関して何かお分かりですか?」

 ブレイズの問いに、アンヘルはやや自信なさげに

「パバル病ということだけは分っているのですが・・・」

 と呟いた。


 パバル病とは現代における腸チフスに似た病気である。

 古代文明の歴史において初期に良く流行った病であるが、古代文明が崩壊した後にまた流行りだしたと思われる病気だ。

 古代文明の史書の一つであるアボリム書の第五巻によると、この病気により小国の一つが滅ぼされたともあり、持ち込んだのは「北方から侵略してくるゴブリン族ではないか」との注釈もある。

 ゴブリン族があまりいない筈のこの周辺では関係のない話のようであるが、実際には数年に一度のペースで流行し、膨大な死者を出す恐ろしい病気である。


 ブレイズは更にアンヘルに質問した。

「予防法とはどんなやり方なのですか?」

「それは簡単です。飲み水を沸騰させれば、その微生物は簡単に死ぬ筈です。ですが、問題なのは・・・」

「時期ですな。パバル病が流行るとしても今は晩秋に近い。流行る可能性があるのは春の終わり頃でしょうから」

 ブレイズもある程度の知識はあるので話が早い。


「まずは一旦、この話は置いておくことにしましょう。流行る前あたりにヒューデン侯爵やベルトルン伯爵に知らせれば良い。彼らは教会を良く思っていないだろうから、協力してくれる可能性も高いでしょう」

「成程、確かにそれもそうですね」

「ですがその為にも、あの二人に恩を売っておいたほうが宜しいでしょう。まずはその実績を積むのです」


 ブレイズも「おかしな事を言うものだ」と自分で思った。

 自分の立身出世の為に「アンヘルを利用しよう」としていたのに、これではアンヘルに利用されている気がしたからである。

 しかし、些細な事であるし気にしないことにした。

「有難う。やはり貴方に話してみて良かった」

 アンヘルは、そう言って素直に感謝した。


「そこでアンヘル殿にまず相談なのですがオボサ族について聞いたことがありますか?」

「オボサ族・・・ですか?」

 いきなりのブレイズの問いにアンヘルは戸惑った。

 聞いたことのない部族名だったのである。


「実はここから南南西、百キロメートルほど離れたところにあるオボサ山脈というところの部族で、この王国には属さない連中なのです」

「それが何故・・・どんな関係があるのです?」

「前王国時代からも度々遠征に出かけたらしいのですが、その都度反撃にあって未だに独立を保っています。実は前王国時代の文献で調べたのですが『連中が魔術も長けていた』との記述があったのです」

「ほう・・・」

「ひょっとしたら初代の「星霜の杖」の者の中に、彼らの血を引く者がいると思いまして、アンヘル殿に興味があるかどうか、今日ここに参った次第」

「確かに興味はあります。彼らにも私が知らない何かしらの文献や知識があるかも知れない」

 アンヘルの目は輝いていた。

 思わぬ所から予想もしない答えが見つかるかも知れないからだ。


「ですが途中は難所が多く、未だに交易はしていない為に、道もロクにありません。以前はあったらしいのですが、百年前の大地震などで山道などが崩壊しているらしいのです」

「有難う。しかし何故、ブレイズ殿は私にそのような話を持ちかけて来たのです?」

「いや、実はそのオボサ族には少し気がかりな事がございまして・・・」


 ブレイズの言う気がかりとは、二十年程以前に起きた粛清事件である。

 その当時の「星霜の杖」の連中は多くは処刑されたが「中には逃げのびてオボサ族の元へ向かった」という噂があるのだ。


 ブレイズはアンヘルが無理だとすると、他の知り合いに魔術師がいない。

 田舎でくすぶる魔術師は稀有な存在だし、素性を隠す者も多いので、見つけるのが難しいだけでなく説得も難儀なのである。


 王都に行ったとしても魔術師はまず街を出歩くことはあまりないし、連れ出すにしても教会の許可証がなければいけない。

 大体、教会の許可証なんてもんはまず発行されないし、発行されたとしても恐らく「お布施」と称した莫大な賄賂を要求されるだろう。


 オボサ族の領内に行けば何か分かるかも知れないが危険な賭けでもある。

 そこでアンヘルを伴って行けば「危険度も下がる」と思い、持ちかけてきたのだ。

 幸いアンヘルは乗り気なので、ブレイズも少し安堵の笑みがこぼれる。


 ブレイズが魔術師を欲する理由だが、ヒューデン侯爵領内でおこった死人事件がきっかけである。

 この先流浪して名声を得るならば、まず難件を解決せねばならない。

 魔法を帯びた剣などはそこら中に転がっているものではないし、自身の剣しかないのであれば相手が複数の場合、流石に剣の腕に自信があるとはいえ危険である。


 アンヘルを従えさせれば問題はないのであろうが、アンヘルは古代文明の探究を一番に考えているので、釣る餌が好まなければ断られる可能性も高い。

 そういう思惑もあってオボサ山脈へ向かう決心をしたのである。


 アンヘルはブレイズをあまり問い詰めるつもりはなかったので、それ以上は聞かなかった。

 だが、流石に二人となると不安なので、バズとクランクを誘うことにした。

 ブレイズもそれには喜んで同意した。


 使いの者をやり「酒を奢るから酒場へ夜に来い」と言うと簡単に来てくれるのは有難い。

 酒場に行き、アンヘルはバズとクランクに「オボサ族が住むオボサ山脈へと行きたい」と素直に語った。


「何でまた、そんな棺桶に片足を突っ込むようなことをするんだ?」

 バズは、不思議そうな顔でアンヘルに問う。

「全くだ。しかも、今度はどこぞの領主さんからの依頼でも何でもないときやがる。幾らアンヘルの頼みでも『タダで』って訳にはいかないぜ」

 とクランクも同調した。当然のことだ。


「実はオボサ族にも魔術が使える者がいるらしいのです。報酬は私から出しましょう。例のワイン一本ずつ、でどうです?」

 例のワインとは以前、手に入れたことがあるギヌス産のワインのことだ。

 一本、100ヴェロスもするので報酬は充分である。


「何だ? まだ、二本も持っていたのか? それなら・・・ううむ」

 バズはそう言うと考え込んだ。

 売れば100ヴェロスはするし、またあの格別な味を楽しむことも出来る。

 考え込んだのはどちらかをとるかであって、既に行く気になっていた。


 クランクも同じように悩んでいた。

 だが、少し違っていて「ブレイズが何の報償もなしで行く」というのが妙な気がかりでもあった。


 翌日となり、早朝に出立する一行は徒歩で向かうことにした。

 途中、クランクはブレイズにこう質問した。

「何だって、もうじき冬になるってぇのに今行くんだ? 夏場頃に行くほうが安全じゃねぇか」

 するとブレイズは

「実は、夏場のほうが危険なのです。信じられないようですが・・・」

 と、その問いに答えた。

 そして、その内訳を歩きながら語りだした。


 時代は前王国時代に遡る。

 トルバン一世はオボサ族をも従えようとマグリスに命じた。

 マグリスは自身の右腕であるバモット将軍に兵三万を預け、初夏頃に出陣させた。

 だが、遠征の途中、思わぬ災難が三万の軍に襲いかかった。

 巨大な蜂のようなものに襲撃されたのだ。


 オボサ族の巧みな山岳におけるゲリラ戦や病気の蔓延も重なり、三万の軍勢は一か月も過ぎた頃には半分以下となってしまったのである。

 オボサ族は和睦の使者を立て「オボサ族側から侵略はして来ない」という条件を出したので、バモット将軍はやむなく退却することになった。


 その蜂は体長が五十センチメートルもある巨大なスズメバチのようなもので、名前を「ガデラスズメバチ」という、希少かつ、獰猛な蜂である。

 春先から秋までを活動期間としており、肉食で強力な毒を持つ凶暴な大型昆虫であった。

 普段は人間を襲うことは少ないらしいが、巣に近づくと集団で襲いかかる。

 その昆虫の存在を知らずに遠征したものだから多大な被害を受けたのだ。


 この巨大スズメバチは、普段は「ダグナロメス」という、一メートルを超えるヤスデを獲物としている。

 普通のヤスデと同じく、危険を感じると体を丸めるのだが、その鱗は非常に硬く、鋼鉄のような硬さを誇るという。

 このヤスデは雑食で腐肉や枯れた草木を食べるのだが食欲旺盛で、それらがなくなると若い草木も食べる。


 これが大量発生した事件が古代文明時代にあり、森が消滅する被害があったという。

 その被害は琵琶湖ほどの大きさの森林を荒野にしてしまったというものであった。

 このヤスデは現在では同じオボサ山脈しか見られないというので、その点では安心である。


 ブレイズは何故、このような事を知っていたかといえば前王国後期の魔術師で「星霜の杖」の一人であったコルテソという昆虫学者が記した昆虫記を読んだことがあるからだ。

 追記でコルテソはオボサ山脈も旅しており「オボサ族とも出会って、そこで昆虫の研究もしていた」とも記していた。


「それなら、そのナントカいう蜂に気をつければいいだけじゃないのか?」

 クランクはそう言うと、ブレイズは

「そう簡単ではありません。著書では巣は巧みに隠されており「オボサ族にしか分らない」と記されています。コルテソはオボサ族に巣の見つけ方も教わろうとしたようですが、教えてはもらえなかったそうです」

 と、答えた。

 さらには他にも毒虫は存在しており、活動するのは当然、春から秋頃までである。


 三日ほどかけて七十キロメートルほど踏破すると、山麓の街まで辿りついた。  そこからは道はほとんどが獣道であり、険しい場所も想像できるので、登山用の装備や防寒具も整えた。


 街の者に「これからオボサ族のところまで行く」と言うと「自殺行為だ」と言われたが、アンヘルの決意は変わらない。

 オボサ山脈は標高二千メートル級の山々が連なっているのだが、中には低い山もあるので「そこを中心に踏破すれば問題ない」とブレイズは言う。

 オボサ山脈は半島の南に近く、比較的温暖な場所にあるのだが、それでも冬場となると流石に雪も積もる。

 平地であれば最低気温は零度にもならないが、山地となると当然そういう訳にはいかない。


 日が落ちる頃、一行が最後の準備を整え、宿屋近くにある酒場に繰り出し、食事と酒を楽しんでいると一人の青年が話しかけて来た。


「貴方は魔術師ですか?」

 アンヘルは、いきなり声をかけてきた青年に

「如何にも、その通りですが、私に何か用ですか?」

 と返事をした。

 すると青年は

「助かった。それじゃあ、古代文明の書物についてもお詳しいですよね?」

 と言い一冊の本を出した。

 本は古代文字の一つであるプトル文字で書かれている。

 

「失礼、私はこの辺りの生まれで、名をラーシェンと申す者です。この書物について分らない文字があるので是非、お聞かせ願いたいのですが」

 と名乗り、アンヘルに教えを乞うた。


 書物はどうやら数学に関してのものがほとんどであったが、アンヘルは数学も得意であったので、記号の意味なども詳しく教えた。

 するとラーシェンは、いたく感謝して

「有難うございます。ようやく、心の中のもやが晴れました」

 と、笑顔になった。


 アンヘルは逆に

「何故、その本についての勉学に励んでいるのですか?」

 と聞くとラーシェンは

「私は古代文明の治水と土木について研究しているのです。まだまだ未熟ですけどね。ですが、いずれは政務官となり、フォービン河流域の干拓をしてみせますよ」

 と、胸を張って答えた。

 フォービン河は中々の大河で流域では度々、洪水を引き起こすことが多いことで知られている。


「成程、それでその本を研究なさっていたのですね」

 アンヘルも疑問が晴れたので、自然と笑みがこぼれた。

 バズは、不思議そうに

「魔術と数がどう関係あるんだい?」

 と聞いてきたので、アンヘルは

「古代文明が全て魔術だけと思ったらそれは大間違いです。古代文明の建築物にもあまり魔術は必要としていません。いるのは数学や物理学ですから。現在でもそうでしょう」

 と、笑いながら答えた。


 古代文明時代には魔術以外にも、そういった学問が盛んだったということを、老魔術師からアンヘルは良く聞かされていた。

 アンヘルはラーシェンの事が気にいったので、更に色々と話してみたくなり、席に着くよう勧めた。

 ラーシェンを「気に入った」というよりも、老魔術師が自分に教えていた頃のことを思い出したからでもある。

 バズやクランクは得体の知れない言葉を交わされているような気持ちになっていたが、ブレイズだけは違っていた。

「面白い奴もいるものだ。ラーシェンか・・・憶えておこう」

 そう、心の中で呟いていた。


 ラーシェンは自己紹介も兼ねて様々なことをアンヘルに話した。

 この町には数多く文化人なども移り住んでおり、大学をやめて隠居している教授なども多数いる。

 そのような人々は私塾を開いて講義をしたり、自宅をサロンにして談義を交しているのである。


「面白そうですね。私も是非、参加してみたいものです」

 アンヘルがそう言うとラーシェンは喜んで招きたいと言う。

 ブレイズもサロンへの参加を希望したのでブレイズも同行することになった。  バズとクランクは留守番では詰まらないので、近くの賭場や売春宿にでも命の洗濯をしに行くようである。


 翌朝、早速アンヘルとブレイズはサロンへと向かった。

 サロンが行われているのは王都大学で教鞭をとっていたフェゴロフという名の元教授の自宅である。

 フェゴロフの自宅は広い上に、フェゴロフ自身は面倒見が良く、数々の書生や居候などを囲っている。

 フェゴロフは前王国時代からの大商家の出で、現在は息子夫婦に商売を任せており、自身は隠居して趣味と称し、私塾を開いていた。


 ブレイズがフェゴロフ宅に入ろうとすると、若い書生が出てきてブレイズの宝剣を指さしこう述べた。

「武具の持ち込みは困ります。こちらで預かりましょう」

 するとブレイズは

「これは形見の品で、肌身離さず持っていなければなりません。何卒、ご容赦ください」

 と言った。


 エイドからの形見は非常に高価なものであり、盗まれたりでもしたら冥途でエイドに会わせる顔がないのだ。

 風呂に入る時や寝る時までも肌身離さず持って行くぐらいなのだから、他人の家に行く際などは猶更だった。


「そう言われましても、困ります。話し合いの場で万が一、そのようなものを振るわれでもしたら大事です」

 書生の言い分は尤もなのだが、ブレイズは頑なに固辞した。

「鎖で封をすれば問題あるまい。それとも君は『私がそのような乱暴狼藉を働くように見える』とでも言うのかね?」


 ブレイズもこの時ばかりは頑固である。

 数分ばかり押し問答が続いていると

「随分、騒がしいようだが、何をそんなに揉めているのかね?」

 と齢七十を過ぎたぐらいの笑みを浮かべた好々爺が出てきた。


「あ、これは先生。いや、なにね。このお方が『剣を持ちこむ』と言って聞かないんですよ」

 書生は老人にそう言って事の次第を話した。

 老人はブレイズの剣の鞘を見るなり

「何処かで見覚えがあると思ったら、それはエイド殿の剣ではないのかね?」

 と申したのでブレイズは

「はい。我が恩師であるエイド様の忘れ形見です。命よりも大事なものですので、こればかりはご容赦されたく・・・」

 と言って最後は言葉を詰まらせた。


 老人はさらに

「先頃、エイド殿が亡くなったとは風の便りで聞いたが、君はエイド殿の縁者かね?」

 と、また質問をしてきたので

「エイド様の門下でブレイズと申します。此度、サロンの噂をラーシェン君から聞きまして、ここにいる魔術師のアンヘル殿と共に参った次第ですが、この宝剣を預けるとなると残念ながら参加を辞退しなければなりません」


「いやいや、事情は分かった。特別に認めよう」

 老人はそう言うと、書生をなだめながら

「わしが、ここの主者のフェゴロフだ。エイド殿とは知己の間柄であるし、エイド殿が認めた若者というのならまず間違いはないだろうからな」

 と言って自ら広間へと案内をした。


 既にラーシェンは中に居たので、ブレイズは少し不満そうに

「君も既に来ていたのなら助け舟に来てくれたらいいのに。酷いじゃないか」

 と言うとラーシェンは

「いや丁度、こっちの議論が白熱してましたんでね。ご容赦ください」

 と笑いながら言い訳をした。


 広間には既に十人以上の者があちこちで持論を展開していたが、ブレイズを見ると腰に剣を差していたので一気に静まり返った。


「ここにいるのはエイド殿の弟子のブレイズ君とそのご友人である魔術師のアンヘル君だ。皆、粗相のないようにな」

 とフェゴロフは言ったので、視線は二人に注がれた。そして

「エイド殿に弟子がいただと? あの方は一切、弟子をとらないので有名な筈だったが」

「それよりも魔術師だと? 何故、かような者がこのような場所におるのだ?」

 と言った声が方々から聞こえてきた。


 ブレイズはその様子を見て「ここは一つ試してみよう」と思い、大声を響かせた。

「如何にも、私はエイド様の忘れ形見を持つブレイズという者だ! しかし、それは剣だけではない! 大事なのは『国を憂う義士の心意気を受け継いだ』ということである!」

 ブレイズは立て続けに

「そも、義士とは何か!? それは、託された忠義を全うする者のことを言う! では、託された忠義とは何か!? それは国を糺し、民の安寧を妨げる罪人を誅することである!」


 ブレイズのその問いに、一人の中年の男が質問を投げかけた。

「その罪人とは何か!? 山賊や盗人を捕縛し、懲らしめるのであれば、このような所に赴くのはお門違いだ!」


 すると、ブレイズは一笑して

「真の罪人とは、そのような者を作り出す者の事を言う! 成程、生来のどうしようもない連中もいるが、元は生活苦により悪事を働く者がほとんどだ! それらがいなくなれば自ずと罪人は減る!」


 すると別の者が手を挙げ、ブレイズに問いかけた。

「噂では君はそこにいる魔術師と共に、元は山賊であった輩と行動を共にしているという。では、その者達の罪は贖罪されたのか?」


 すると、ブレイズは

「贖罪とは何か!? 神による罪の許しである! 昨今、教会は免罪符などという多額の代物を売りつけているが『そのような物は意味がある』と貴君はお思いか!? 真の贖罪とは、罪を悔いて、民の安寧に尽くすことにある筈だ!」


 また別の者が問いかける。

「貴君はエイド殿に忠義を約定したならば、まずエイド殿のご子息にその義務を果たしてからではないのか!?」


 ブレイズも咄嗟に反応し

「それはエイド様に全くの無礼というべき発言である。エイド様は私に『忠義を心掛けよ』と言われたが『ご子息殿の為』とは一言も言ってない。つまり国を思う気持ちはご子息殿にも既に託されているので、私はこうして旅して共に働ける義士を探しているのである」

 今度は逆に、声を荒げる形ではなく諭すように言った。


 更に別の者が言う。

「では、国王が君の言う『その大罪人』を庇う場合は、国王も断罪しなければならぬのか!?」


 ブレイズは、少し黙ってから

「それを糺すことこそが、真の忠義であると言っている。それとも『現国王はそんな事も分らぬ愚者だ』とでも貴君は言うのか?」

 そう言われたので、その者は黙した。


 すると、後ろから声を発した者がいる。フェゴロフであった。

「では、君に訊ねよう。その大罪人とは即ち、誰の事を言うのかね?」


 ブレイズは本質の問いが来たので、自信を持って

「それはフェゴロフ殿や、王都からここに来た人たちには分っているはずだ。即ち、惰眠を貪り! 賄賂をくすね! 私腹を肥やし! 真の能臣を排除して権利だけをひたすら求める外道どものことを言う!」

 最後は出来る限りの大声で轟かせると歓声が沸いた。

 ここにいる者達の代弁でもあったからである。


 ブレイズは満足げに後ろを振り返ってアンヘルの様子を見たのだが、不思議そうにしていただけで、少し拍子抜けをした。

 アンヘルにしてみれば何のことか分らなかったのだ。


 アンヘルはただ飢饉に対しての作物や古代文明の研究をしたいだけである。

 王国の存続などはどうでも良いのだ。


「予想通りの反応ではあるが、話にならんな」

 ブレイズは心中でそのように呟くが、逆に言えば野心は全くないので、安心出来る人物とも言える。


 その後、ブレイズは今後の王国のあり方を、アンヘルは古代文明の知識をサロンにいる者たちと語り合った。


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