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第六話 少女、水中の迷宮にて魔物に出会う

 コルムはワヴェングという種類のオオサンショウウオと共に、地底湖への更なる探検へと出かけた。

暗がりではあるが幻想的な多少の淡い光が、苔から放たれているので問題はない。

 時折鍾乳石に頭をぶつけながらも、底へ底へと進んで行く。


「聞きたいんだけど、この辺って、恐ろしい化け物とかいる?」

 コルムは少し不安になってきたので、ワヴェングに訊ねた。

「ここらでは俺が一番の大きさだ。お前さんのせいで二番目になったがね」

 ワヴェングは少し、すねたような感じで返してきたが、サンショウウオの表情なんぞ人間に分かる訳もない。

 祠の意味とかもサンショウウオに分かる訳はないので、敢えてコルムはそこには触れなかった。


 この世界にも水圧というものは存在するが、コルムやワヴェングには関係のない話だ。

 というのも、ワヴェングも魔法生物の要素があるし、コルムは神の奇跡とやらの術を知らないうちに行使しているからである。


 しばらく進むと、遠くから眩しく、光り輝くものが見えて来た。

 不安よりも好奇心が常に勝るコルムにとっては行かざるを得ない状況に自然と陥る。

 次第に光が大きくなるにつれ、それは御堂のような建物であると分かった。


「何でこんな所にこんなものが? ワヴェちゃん分かる?」

 ワヴェちゃんという呼称を勝手につけられたワヴェングは

「俺が知る訳ないだろう。大昔の人間が作ったものであろうよ」

 と素っ気なく言った。

 

 御堂には様々な彫刻がどれくらい以前のものかは分らないが、おそらく当時の面影をそのまま残している。

 彫刻は全て御堂を削っての代物なので、残念ながら持ち帰ることは出来ない。

 御堂の中には、鏡が置いてあった。覗くとコルムの顔ではなく、不思議な光景があり、それが幾多も映り変わるのである。

 現代で言えばテレビのようなものであろうか。


 不思議な鏡にコルムは釘付けとなり。一心不乱に見続ける。

 当時の街並みや農場などの風景、人々の服装、様々な見世物など信じられないものばかりである。

 中でも一番、不思議なのは上空から鳥のような視点で見る光景であろう。

 現代とは違い、この世界では極限られた魔術師以外に空を飛ぶ人間はいない。

 その映像はまず、この世界の人々にとって見ることが出来ない代物なのだ。


 時を忘れてどれくらい経ったであろうか。

 気づくとワヴェングは傍にはいなかった。

 途中で飽きて、何処かへと行ったのであろう。

 コルムは流石に少し不安になったものの、食料は苔や藻を食べればいいし、水には困りようもないので、ワヴェングを探す手間ついでに辺りをさらに散策することにした。


 次第に周辺は、代文明時代の壁画や彫刻による装飾をされた人工物であふれるようになった。

 美術館のような光景にまたもや心を奪われる。

「これ全部じっくり見ていったら、一年余裕でかかるかも・・・」

 そんな不安も過るがそれ以上に

「齢をとったら神の奇跡で若返れるわよ。そうね、きっと。神様信じているからね!」

 と、またもや自分勝手なお願いを良く知りもしない神に願うことで、気を紛らわす。


 気づくと既に周りは回廊と思われるような場所になっていた。

 よく見てみると、全てが碁盤のように整然と配列がされている。

 一つの回廊はどこまで伸びているのか分らないので、流石に迷子になったと思い、不安が増してきた。


「あ~もう、ワヴェちゃん何処なのよ。流石に疲れてきたわ。ま、試しにここで寝てみるのも悪くないかもね」

 そう言うと、体を水に流されないように、彫刻の影に隠れるようにして暫く寝ることにした。


 眠っていると、何やら光を瞼が感じたので目を覚ました。

 すると、こちらに徐々に近づいてくる青白い光が見えたのである。

 よく見ると三メートル以上はあろうかという巨大なクラゲである。

 異様に伸びた二本の触手は十メートル程あるように見えた。


「ヤバい! これはマジで食われる!!」

 驚いたコルムは急いで逃げ出した。

 クラゲは、やはりコルムを追っているようであり、無音で後をつけてくる。

 途中、長い触手をコルムの脚に巻きつけようとするが、必死なコルムは何とかそれを躱しながら、クラゲが入って来れないような狭い通路を探した。


「ちょっと何なのよ! この化け物! 私は美味しくないわよ! 向こう行って!」

 そんなことを言っても、当然クラゲの化け物は聞き入れてはくれない。

 半透明な触手で、少し触れられると電気を流されたようなショックが体中を駆け巡る。

 幸い麻痺までは至らなかったので、脚を治しながらもバタ足で逃げる。


 毎日、彼女が野山を駆け巡り、清流や山頂湖などを泳いでいた。

 故に彼女はオリンピックにも出場できるマラソン選手のような鍛えられた体力を持っていたのである。

 そうでなかったら、既に捕まっていただろう。


 逃走劇を繰り広げていると、コルムは通路の床にある亀裂のような狭い穴を見つけたので、一か八かその穴に飛び込んでみた。

 それと同時に触手が伸びて、完全にコルムは足首を掴まれた。

「つうっ!!」

 コルムの体中に電気が走ったような痛みが走る。

 彼女は耐えながらも、周りの壁に掴み懸命に逃れようとするが、次第に体が痺れてくる。


「嫌よ! こんな所で死ぬなんて、絶対に嫌!」

 彼女は叫びながら触手に掴まれていない右足で触手を蹴った。

 すると、右足が赤く光って触手を弾き飛ばした。これも神の奇跡の術かも知れない。

 怯んだ隙に今度は水中を蹴ってみると、またもや右足が赤く光り、衝撃波となって再び巨大クラゲを襲った。

 その巨大クラゲは数メートルほど吹き飛ばされのだが、それでも構わずに再びコルムを追いかけてくる。


 その隙に狭い穴へとコルムは逃げ込んだ。

 流石に巨大クラゲは追っては来れないようだが、執拗にコルムを掴もうと相変わらず触手を伸ばしてくる。

 コルムは「もう、戻れない」と思い、先に進むことにした。


「ワヴェちゃん聞いていないわよ! こんな化け物がいるなんて!」

 今はいない筈のオオサンショウウオに大きい愚痴をこぼしながらも、懸命に泳いだ。

 脚は痺れているが両脇の岩肌を掴みながら進めるので、今は無視して取りあえず、更に進むことにした。

 戻っても、あの執拗な巨大クラゲはまだ待ち構えているであろう。

 まずは他の出口を探す方が先決である。


「この先には、あんな化け物はいませんように・・・」

 そう彼女は信じながら進んで行くと、五メートル四方の部屋へと出た。

 右側には通路と思えるような穴がポッカリと開いている。

 まずは痺れている脚を治し、通路を進むことにした。


 通路には以前、扉があったであろう部屋が幾つもあった。

 中は全部ガラクタで見る影もない。

 流石に慎重となったコルムは何時でも部屋に隠れられるように、注意しながらも先を急いだ。


 ある部屋を見た時である。

 不意に反射して光るものを見つけたので、急いでその場を離れたが追っては来ない。

 数分待って、恐る恐るその部屋の内部へと入ってみると、反射していたものはどうやら金の延べ棒であった。


「やった!! これで大金持ちになれる! 神様有難う!!」

 現金なもので一気に先ほどからの不安や不平が一瞬にして吹き飛んだ。

 散乱していた金の延べ棒は全部で数十本もあるらしく、流石に全部は持って行けない。

 仕方ないので二本ばかし失敬していくことにした。

 流石に金の延べ棒は重いので泳ぐ速度は遅くなる。

 だが「金持ちになれる」という希望は、どんな薬や食事よりも疲労を消しさせるのに充分効果があるようだ。

 これは神の奇跡の術とは関係ない。人間、本来の俗物的な欲の力である。


 二本の金の延べ棒を片手で鷲掴みしながら先へ急ぐと、今度はまた同じような部屋に当った。

 床には大きな古代文明の遺物らしき平べったい炉のようなものがある。

 上を見ると暗くて先が見えないが、行けそうな気がする。


「上に行けば、地上に出られるかな? でも、裸だしどうしようか・・・」

 流石に人前に全裸で出る訳にもいかないので、そこは少し考える所だ。

 だが、出た所がいきなり街中という訳はないだろうと思い、上に進むことにした。


 上るにつれ、金の延べ棒の価値が気になってくる。

 どんなものを買おう。どんな家に住もう。家族は何時ごろ呼ぼう。

 そんなことばかり考える。

 問題は教会のことだが、人前で術を使わなければ問われることもない。

 教会の方針や内部抗争なんて考えたくもないし、そもそも自分には関係のない話である。

 自分は優雅に、そして贅沢に、金の延べ棒を使って生活出来れば満足いく生活が待っているのだ。


「ぷはぁっ!」

 数十メートル登ると突然、顔の周りを空気が包んだ。

 残念なことに、まだ古代遺跡の迷宮である。

 この場所の辺りは暗く、何も見えない。

 水中とは違い、光る苔や光る彫刻のようなものはらしい。


「お願い! えいっ!」

 そう言うと、自分の手から光が漏れ出した。やはり、この光りを使って行くしかないようだ。

 手全体で光っているので、金の延べ棒を持ちながら、進むことは素直に喜べる。 ただ、金の延べ棒が反射して更に光度が増しているので、先ほどの巨大クラゲのような化け物に出くわしたら気づかれやすいことも考えられた。

 それに水中とは違い、かなり重いというのもある。


「捨てて行く・・・? いや、冗談じゃない! 折角、綺麗なお家に住めるのに出来る訳ないわ!」

 彼女には崇高な目的などない。

 それもその筈、元々つい最近まで野山を駆け巡っていた、ただのお転婆な田舎娘である。

 そんな田舎娘がいきなり大金を掴んだら、簡単に手放すことなんぞ、勿体なくて捨てられないのは当然であった。


 光は仕方ないとして、せめて音を立てずに忍び足で向かうことにした。

 忍び足で進んで行き、角を曲がったその時、光が見えた。

 逆行になっているせいで良く見えないが何体かいるようだ。


「きゃっ!!」

 先程の巨大クラゲを思い出して思わず叫んでしまうと、その光源は凄い勢いでこちらに近づいてくる。

 彼女は逃げ出して、先ほどから来た水が溜まった穴へと引き返そうとする。

 チラッと見ると人のようだが、人がこんな所にいる訳はないし、化け物のような顔が毛むくじゃらの奴が大きい斧を携えているので、怖さは倍増される。


 そして、急いで穴の中に飛び込もうとしたその瞬間、右肩に激痛が走った。

「いたっ!!!」

 金の延べ棒が落ちそうになったが我慢し、手の光は消して一気に奥底へと泳いだ。

 奥底へ着くと相手は追ってこないようだった。

 右肩を見ると矢が突き刺さっていたので、我慢して抜き、急いで治癒する。


「もう、何なのよ! か弱い乙女に何てことするの!」

 しかし、連中がいる以上あの先には進めない。

 前門の虎、後門の狼とはこのことである。

「どうしようかな・・・暫くはここで大人しく待って、まずはあの巨大クラゲの場所まで戻るかそれとも・・・」


 考えていても仕方ないし、疲れていたので黄金の延べ棒が眠る部屋まで行き、その部屋で寝ることにした。

 金の延べ棒を枕にとは贅沢ではあるが、このままでは何の価値もない棒状のものである。

 少し泣きたくなったが、泣いたところで仕方ないし、水の中で泣いてもただ疲れるだけなので、大人しく眠った。


 起きるとそこにワヴェングがいた。

 コルムはワヴェングにいきなり

「今まで何処にいたのよ! 酷いじゃない!」

 と言ったので、ワヴェングが困ったように

「確かに俺はあの辺では俺が一番大きいと言ったが、その先については何も言ってないはずだぞ」

 と言い訳をした。

 尤もな話であるが、コルムは耳を貸さずに怒鳴り散らす。

「大体、あの巨大なクラゲは何!? 何処から来たのあれ!」

「俺が知るものか。古代文明の連中が作ったか元々、存在していたんだろう。それよりもここから出たくないのかね?」

 と、宥めるように言った。

 当然、コルムは出たいに決まっている。


「そう言えば、ここへどうやって来たの? あの巨大クラゲはまだいる?」

「抜け道があるんだよ。気づかなかったのか? まぁ、人間じゃ無理もねぇか」

 そう言った後、付いてこいと言わんばかりに、頭を二度ほど行く先を示した。

 コルムは落ち着いて金の延べ棒を持ち、付いて行くことにした。


 ある部屋に行くと、そこの床の一部には取っ手がついていた。

 取っ手は巧妙に隠されていたらしく、背景と同化していた。

 ワヴェングはその取っ手を口で咥えると、その中は人一人がやっと入れるような穴が開いてあった。

 中に進むと、梯子や階段などがあり、この地下遺跡が水に沈んでいない当時の面影を色濃く残していた。ど

 うやら緊急の脱出経路のようである。


 やっとの思いで隠し通路を出ると、そこはワヴェングと出会った場所のすぐ近くであった。

「ワヴェちゃん大好き!」

 コルムは思わずワヴェングに抱き着いたが、滑っている肌は少し気持ちが悪いのですぐに離した。

 ワヴェングもそのほうが有難かったらしく、ぶっきらぼうに

「ああ、良かった。食われるかと思ったぞ」

 と、皮肉を言った。


「恩人ならぬ恩サンショウオを食べる訳ないでしょ!」

 コルムは不機嫌となったが、まずは元居た祠の所まで行くことにした。

 祠に着くと安心したのか、体を大の字にしてあられもない姿で寝そべった。

 ワヴェングはのそのそと陸地へあがり


「で、これからどうするのかな? ここから出るのかね?」

 と質問してきたのでコルムは

「んー・・・金の延べ棒のある場所は憶えたし、どうしようかな?」

 いきなり金の延べ棒をお金に換えようにも、怪しまれるかもしれない。

 冷静になって思うと、流石にそれぐらいは考えられた。

 そこでまずは祠の裏にでも隠しておくことにした。


「そう言えば、貴方以外にもワヴェングというのはいるの?」

 不意に思いついたように、コルムはワヴェングに言う。

 ワヴェングは

「いんや。俺も長いこといるが、一匹ぐらいしか覚えはないな。俺も古代文明とやらの時代に作られたらしいやつだしな」

 そう言うと、少し考えてから

「俺はそれ以来の、信じられないぐらいの長生きだからね。けど、やっぱり死にたくはないから、巨大クラゲには近づきはしないがね」


 どうも古代文明の時代からのものは寿命というものがないらしい。

「それなら古代人というのも生きている訳? あの遺跡の中にまだ住んでいるとか?」

 とコルムが言うとワヴェングは

「少なくとも俺は見たことはないな。居るのかもしれないけど、俺が知る限りではいないと思うよ」

 と、言った。コルムは更に質問をワヴェングに続けることにした。

 暇だからというのもある。


「古代人って私達と姿形は同じなの? あの鏡の中で見た限りでは、そうみたいだけど」

 するとワヴェングが

「もう随分、経つけどそうじゃないのかね? それに、古代人も寿命というものはあったらしいぞ。連中の会話で「どうすれば寿命が尽きないのか」なんて言っていた気がするから」

「何でそんな事知っているの?」

「俺は連中に水槽の中で飼われていたからな。変な薬を飲まされたり、色々されたけどな。で、連中の会話とかを嫌でも盗み聞き出来たって訳だ」

 不思議とコルムはワヴェングが知り得る当時のことを聞きだすようになっていた。

 好奇心もあったし、何よりも暇だったからだ。

 そこで当時の事が色々と分ってきた。


 古代人はどうも寿命があったらしい。

 これは人間であれば当然の事なのだが、その目的のために魔法により、様々な実験を繰り返したとのことであった。

 また、奴隷を使っての人体実験もしていたという。


 それで死んだ連中も大勢いたが中には生き残っただけでなく、魔法を言葉にしなくても、不思議な能力を保持するようになったというのだ。

 元奴隷であったそういう連中は逆に重宝され、魔法が使える連中の手伝いを行うこともあったという。

 丁度、コルムが使用する神の奇跡の術と同じようなものだったらしい。


 しかし、そうなると不思議なのは「何故、コルムがその当時の元奴隷だった者と同じ能力が使えるようになったか」ということである。

 当然コルムはそんな事は分らない。

 ワヴェングが言うには恐らく先祖返りに似たようなものだろうと言う。

 確かにそう考えれば自然と説明はつくのだが、同時に教会が言っていることがおかしくなってくる。


 教会が「神の奇跡保持者のことを監視したがる」というウェンゼンの言う事が、次第にコルムも分ってきた。

 ただ、古代文明についてコルムは全くの素人であり、証言しようにもワヴェングを証言させる訳にもいかない。


 ワヴェングとは神の奇跡と呼ばれる、テレパシーのような会話でしか通じてないのだ。

 故に人前に出したとしても、見た目はオオサンショウウオでしかないワヴェングには土台無理な話である。


「そう言えば最近、私以外の人に会った?」

 ウェンゼンのことを思い出し、ワヴェングに聞くとワヴェングは

「言っただろう。あの時、この辺で一番大きいのは俺だとさ」

 と言って、不思議そうな表情をしたような面持ちで首をかしげた。

 つまりウェンゼンは水の中には入っていないことになる。

 どうやらウェンゼンは水の中で呼吸できるような能力は保持していないらしい。 保持していれば当然、水の中にも入っていると思われるからだ。


 どうも神の奇跡の術と呼ばれるものは、使える人によって違うようである。

 理由は分りようもない。

 ただ、ワヴェングが言った通り、先祖返りによるものならば少しは説明がつきそうである。


 古代文明が滅んだ理由についてだが、ワヴェングは知らないとしか言わない。

 ワヴェングが目撃したのは恐らく、洪水などであの遺跡に大量の水が入り込み、中にいた人々が全滅したということだけである。


「ところでさ。その当時の人って、神への信仰ってあったかわかる?」

 コルムは唐突にワヴェングに質問した。

 ワヴェングは不思議そうに

「ある奴もいたんじゃないのかな? 俺は信じちゃいないがね。一応、そんな寓話とかはあったらしいよ」

 神話と寓話を同じようにワヴェングはそう考えていたので、そう答えるしかなかった。

 ただ、当時人気であった劇や抒情詩などに現在、教会が布教している神話と同じようなものがあるらしい。


「つまりは教会が布教しているものは、当時に作られた劇とかの題材を元にしたものを使っているという訳ね」

 これが公になったら教会は大事である。

 故に何故、教会が異端派と呼ばれる者達を迫害しているかの理由もついてきた。 コルムは好奇心が湧いた、と同時に恐ろしくなってきた。

 自分がそんな事を知ってしまった以上、バレたら火あぶりにされる可能性が大いにあるからである。


「どうしよう・・・とんでもないこと知っちゃった・・・」

 コルムは頭を抱えた。

 折角、黄金の延べ棒を手にしたのに、こんなこと知ってしまってはタダじゃ済まないだろう。

 教会はどちらの王国の国王とも血縁がある関係だし、権力は絶大なものである。 それ以上に信心深い人々も多く、異端派と呼ばれる人々を熱心に狩り続ける一般人も珍しくはない。

 それに教会には同じ能力を持つ保持者も多くいて、彼らもまたそれに追従しているのだ。


「まずはこの事をウェンゼンに知らせるしかない。その上でどうするか決めよう。家族に迷惑がかかるかもしれないので、家族を呼ぶのは当面見合わせることにしよう」


 コルムはそう考えて苔を食べながら、何時来るかもしれないウェンゼンを待つことにした。

 ワヴェングもどうせ暇なので、彼女がここにいる間は暫く付き合うことにした。

 やはり、お互い話し相手がいないと暇で仕方ないのだ。


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