第二十三話 詐欺師、佞臣を強請る
時は少し遡る。
王都ヴァイロスではサトスガン司教が、中央教会によって喚問されていた。
荘園での説明責任が問われたのである。
この件でサトスガンは頻りに、デリックが教会の徴税隊を襲ったことを主張した。
しかし、ベルトルン伯爵の遣わした証人がいるので、サトスガンにとっては当然ながら不利である。
それどころか、サトスガン司教は逆に窮地に追いやられていた。
さらには問題なことに、伯父であるラージム枢機卿が、この件で烈火の如く怒り狂っていたのである。
ラージム枢機卿は政敵のドフォルズ枢機卿と、次の大司教の座を争っている最中だ。
その最中、自身の甥の不始末に当然、喜ぶ訳がない。
サトスガンは伯父に何とか助け舟を請うが、頑として聞き入れないのである。
サトスガンの母であり、ラージム枢機卿の妹である女も面会謝絶となっていた。
それで事あるごとに、サトスガンは腹心のミドモグを大いに詰っていた。
「ミドモグ! 貴様は何ということをしてくれたのだ!」
「お許し下さいませ。司教様」
「このままでは大恥どころではない! わしは身の破滅だぞ! 無論、貴様もだ!」
「はい。その事は私も存じております。ですが、既に手は打っております」
「大丈夫か!? 上手くいくのであろうな!?」
「ベルトルン伯爵に多額の賄賂を出せねばならぬでしょうが、必ずや」
「何!? あの絵描きに賄賂を出すのか!?」
「仕方ありません。このままでは我ら一同、領地を失うばかりか投獄です」
「ううむ……忌々しい! 母上に言上して何とか工面しかないか……」
そんなミドモグはこの機に乗じて、その金を着服しようとしていた。
何故ならベルトルン伯爵は賄賂を受け取る気は全くない。
このままではミドモグも身の破滅の筈である。
だがミドモグには秘策があった。
ある内通者がおり、その者から証人の不利な証拠を入手したからである。
その不利な証拠とは、証人である元衛兵隊長の数々の不正であった。
「これでガッポリと儲かるぞ。馬鹿な奴だ。しかも、俺の身も安泰。ちょろいもんだな」
サトスガンの前でそう思うと、愉快で仕方がない。
必死になって笑いを堪えるのである。
しかし、愉快でならないのはミドモグだけではない。
内通者という人物もまた、愉快でならないのだ。
その内通者とはケプラーであった。
ケプラーはウェスに頼まれて敢えて内通者となり、ミドモグに情報を売り渡したのである。
始めケプラーはその事を頼まれると、当然ながら不思議に思った。
折角、サトスガンを貶める好機だったからである。
そこでケプラーはウェスに問い質した。
「何故です? 何でわざわざサトスガンを助けるので?」
「サトスガンには、まだのさばって貰わないと困るからさ」
「しかし、だからと言って……」
「君はミドモグとは因縁の間柄。だから丁度良い」
「そりゃあ、面識はありますがね……」
「茶問屋の時に失った金を取り返したい、と言えば問題はないだろう。あのミドモグのことだ。サトスガンからより多くの金を巻き上げるだろうしな」
「それは良いですがね。サトスガンを居座らせる狙いは何です?」
「どうせサトスガンを失脚させたところで意味はない。同じような金の亡者が来るだけだ」
「まぁ、そりゃあ、そうでしょうな」
「だからサトスガンの方が有難い。教会を貶めるにはそれが最適だ。ついでに教会は『サトスガンを庇った』という民の意識も植えつけられるであろうよ」
「成程、流石はウェスの旦那だ。おみそれしやした」
「だが、ミドモグも油断出来ない奴だ。ぬかるんじゃないぞ」
「分っていますよ。けど、俺の目の前にいるお方のほうが、よっぽど油断なりませんがね」
「ハハハ。それは褒め言葉だと思って良さそうだな」
これはウェスの独断であった。
ヒューデン候はこういった行為を忌み嫌う性格である。
だから、ウェスは自身の判断で出張所に集まった書類を密かに流用した。
そして、ウェスの思惑通りサトスガンに重い罪は科せられなかった。
軽く叱責を受けただけである。
ただ、それだけでもサトスガンのプライドは傷つけられ、よりデリックやベルトルン、ヒューデンらに対する憎悪が深まった。
「これでよし。またあの荘園に奴が戻ってくる。ついでにデリックを亡き者にしてくれれば、有難いがな……」
ウェスは別にデリックを恨んではいない。
ただ、デリックの死を利用しようとしているだけである。
一方、サトスガンに金を工面させるミドモグは、更なる手段を講じていた。
サトスガンの叔父であるラージム枢機卿に、何とか取り成してもらうためである。
当然、サトスガンのためではない。自分の保身のためである。
だが、現時点において両者は一蓮托生なのだ。
それにラージム枢機卿は自分を推挙した人物である。
サトスガンが面会するよりも、今は自分が面会しやすいとミドモグは思っていた。
そこで手紙を書き、面会を申し込んだ。
すると意外なことに、あっさりと面会に応じるといってきたのである。
実の所、ラージムもミドモグが気がかりであった。
というのも、政敵であるドフォルズ枢機卿に、サトスガンにとって不利な証拠を渡されるか心配だったから、である。
サトスガンの失脚は「自身の失脚にもなりかねない」とラージムは思っていた。
「忌々しい甥だ。いっそのこと、ミドモグに計らせて殺してしまおうか」
こんな事まで考える始末である。
だが、事が露見したら、現在よりもまずい状況になる。
それにミドモグにこれ以上の弱みを握られたくはない。
「仕方がない。密会して彼奴の腹を探ろう。まずはそれからだ」
新月のある日、二人は教会にて面会する機会を得た。
ある懺悔室に両者は赴き、そこで密談をすることにしたのである。
その懺悔室は、特別に司祭以上でなければ入れないので、二人にとっては好都合であった。
懺悔室は質素な造りであるが、防音性に優れており、第三者には決して漏れない。
そして完全予約制となっており、他者が紛れ込んだ場合は厳罰に処せられる。
それは枢機卿といえど、例外ではない。
「いつ来ても、ここは落ち着かないな……」
懺悔室に入るやいなや、ミドモグはそっと呟いた。
以前、何度も足を運んだ過去を持つが、暗く不気味な静けさは緊張の度合いを高める。
それにあくまで噂ではあるが、過去にここで暗殺されたという者もいるらしい。
「グズグズするな。さっさと入れ。時間が惜しい筈だろう?」
ラージム枢機卿の声が懺悔室に小さく響いた。
お互いに姿は仕切りで見えないが、会話は行えるようにしてある。
地球の教会とそこは同じ造りである。
ミドモグが懺悔室に入ると、さらに枢機卿の声が響いた。
「まずは面会を申し込んだ訳を話せ」
ミドモグは慎重に言葉を選びはじめた。
事前に用意はしてあるのだが、緊張して失言しないかという不安にかられたのだ。
「どうした? サトスガンには知られていないだろうな?」
「はっ。その点に関して問題はありません」
ミドモグは緊張からか、大量の冷や汗をかいていた。
だが、お互い姿が見えないので、その事を気付かれないのはミドモグにとって唯一の幸いであった。
「では、早く面会を申し入れてきた用件を話せ。儂もここに長くは居られないのだ」
「はい。司教殿は何分、奴にいたくご執心のようです」
「それはまずいな……」
「それで閣下のご本心を伺いたく、参上した次第です」
「今、奴を消すとなると、真っ先に疑われるのは司教だ」
「はい。司教殿が関与しているか、していないかは問題ではないでしょう」
「あの荘園で騒ぎが起これば増々、厄介なことになるであろうな」
「疑いの余地もないでしょう。近隣諸侯の介入もあり得ます」
「うむ。老いぼれだけでなく、連中も騒ぐとなると面倒だな」
二人は固有名詞を避けている。
これは万が一であるが、他者に聞かれたときに弁明する手段なのだ。
ちなみに奴とはデリック、老いぼれとはドフォルズ枢機卿のことである。
「よし。まずは奴には恙なく生活してもらおう」
「私もそれが良いと思います」
「その為には司教の暴走に歯止めをかけないといけないが……」
「しかし、今の私ではそれはちょっと……」
「案ずるな。既に策を講じている」
「如何なる策で……?」
「後日、楽しみにしておけ」
「はっ……」
「それと君にもう一つ、聞きたいことがあるんだがな」
ミドモグは噴き出す汗を拭った。
自身の行状に不安がないとは言い切れない。
寧ろ、不安だらけともいえる。
しかし、ラージムの問いは、それとは全く関係がなかった。
「聞きたい事とは他でもない。領内に随分と鼠が紛れ込んでいるように思える」
「確かにそれはあり得ますが」
「しかもだ。原理派崩れの鼠がな……」
「ええっ? まさか……」
「ぬかるなよ。原理派どもはテロリストだ。無知な愚民どもを扇動しようと、企んでいるかもしれぬ」
「分りました。油断なきよう、見張ります」
「では、これで終わりだ。くれぐれも甥にはバレるなよ」
「ははっ!」
その後、教会から出たミドモグは待たせていた馬車に乗り、サトスガンが蟄居されている屋敷へと向かった。
ミドモグは馬車の中で暗い夜道を眺めながら、「原理派崩れの鼠」について考えていた。
彼には心当たりがあった。ケプラーである。
「あの山賊崩れなら、利用出来る奴は片っ端から利用するであろう」
ミドモグはそう考えていた。だが、それも憶測に過ぎない。
情報が少なすぎるのである。
ケプラーに揺さぶりをかけてみるのも一つの手だが、簡単に尻尾を出すような男でないことも理解している。
以前、全財産を巻き上げることが出来たのは、強引な手法をとっただけであって、本来ならケプラーの落ち度はなかった。
「……いかんな。やはり情報が少なすぎる。どうしたものか……」
馬車の中で色々と考えたが、そう結論づけて、今はサトスガンの動向だけに集中することにした。
ミドモグが屋敷に戻り、サトスガンの部屋を窺うと、何時ものようにサトスガンは娼婦と一緒にだらしなく寝ていた。
「おめでたい奴だ」と侮蔑の目で見てから、自分の部屋に戻り、密かに隠し持っていた手紙を読んだ。
手紙の送り主はケプラーである。
その手紙にはこう記されてあった。
「司教様がご無事で何よりでございます。さて、手前に約束した品物ですが、二日後までにご用意していただく手筈となっております。約束を違えた場合は、速やかにドフォルズ枢機卿の屋敷に使いの者が行く手筈となっております。私が戻らぬ場合も同様でございます。くれぐれもお間違いのなきよう、宜しくお願い致します」
「山賊くずれめが。今に見ておれ。必ず尻尾を掴んでやるぞ」
ミドモグはそう呟き、歯ぎしりをした。
彼もまたプライドが高く、元山賊なんぞに弱みを握られることに我慢がならないのである。
さて、その元山賊であるケプラーであるが、ある人物と接触をしていた。
ヴィクトルという人物である。
この中年の白髪混じりの男は、元傭兵で腕利きと評判の男であった。
一時期、サトスガンが支配する荘園にも衛兵隊長として任務にあたったこともある。
平民から下級貴族への昇格も夢ではなかったが、元からケチな性格でミドモグへの賄賂を怠ってしまった。
事実、そのためか衛兵隊長の任を解かれたばかりか、解雇させられていた。
その為、このヴィクトルもミドモグを憎んでいる者の一人であった。
そんなヴィクトルにケプラーは近づいた。
ミドモグへの強請りの協力者が必要だったからである。
普段は酒場で飲んだくれているヴィクトルに近づくのは、ケプラーにとって造作もないことだった。
酒を奢ってヴィクトルの愚痴を聞いてやり、煽ててやったので、今ではすっかり意気投合である。
ちなみに庶民の酒場には教会の密告者の目が光っているが、その密告者も賄賂次第でどうにでもなる。
逆に教会への不平不満を言ってなくても、強引に密告者による冤罪で検挙されてしまう等という事も少なくない。
そのため大衆酒場では、今では酒場のマスターが事前に密告者などに金を渡している。
そしてその分、酒や食べ物に上乗せした値段で出しているのが暗黙の了解である。
故に酒場では教会への不平不満、愚痴の類が庶民の娯楽となっている。
そんな酒場でミドモグがラージム枢機卿と密会している頃に、ケプラーとヴィクトルは酒を酌み交わしていた。
タダ酒とあってケチなヴィクトルは頗る機嫌が良い。
そんな機嫌が良いヴィクトルに、ケプラーは嫌疑をかけられて全財産を没収された愚痴を、口が滑らしたようにわざと述べた。
するとタダ酒で機嫌が良いヴィクトルは、その事をいたく憤慨し、ケプラーに同情した。
「ケプラーよ。お前さんも大変だよな。家財没収とはあまりにも非道な仕打ちだぜ」
「ああ。そうさ。だから一泡吹かせてやりたいんだ」
「どうするつもりだ?」
「実はヴィクトルさん。腕利きのアンタに相談なんだがね。この俺に雇われてくれねぇかい?」
「俺を雇うだと?」
「ああ。お前さんは傭兵仲間の知り合いも多い。だが、俺はここに来て間もないから、知り合いもあまりいねぇ」
「おう。それがどう関係あるんだ?」
「丁度、ここに来ているミドモグ司祭って奴から金を巻き上げるのさ」
「え? あいつからか? あいつが素直に金を払うとは思えねぇが……」
「ああ、そうさ。だが、弱みを握っているのさ。奴もサトスガンからチョロまかしているし、金の成る木としちゃピッタリだろ?」
「そいつぁ面白ぇ。のったぜ」
「大体、元は言えば俺の金だ。『バチなんぞ当たるもんか』ってのさ」
「バチなんぞあったら、とうに教会は雷にでも撃たれているであろうよ」
「ハハハ。そうさ。その通りだよ。じゃあ、やってくれるね?」
「当たり前だ。こんな愉快な事、他にあるか? だが、俺にも取り分はよこしてくれよ」
「当然じゃないか。ヴィクトルさんの殿があっての強請りだぜ」
二人は教会に対する不平不満を全てミドモグにぶつけることで、憂さを晴らそうとしていた。
教会の司祭から金を巻き上げるなんぞ、この上なく愉快で堪らない。
ヴィクトルの紹介でさらに人員が増え、どんどん教会への不満分子がケプラーの元に集ってきた。
一方、ミドモグもただ手を拱いているだけではない。
密偵を雇用し、ケプラーの動向を探らせていた。
だが、ケプラーもその点は注意深く、その密偵の中にもケプラーに買収されている者がいたのである。
「奴さん、かなり大慌てらしいな。ただ、奴にも死なれては困るし、随分と難しいところだが……」
ケプラーは買収している密偵からミドモグの情勢を聞き出すと、ウェスから預かった手紙を読んだ。
ウェスからの複数の手紙には様々な指示が書いてあるのだ。
そして、次の指示の手紙を読んだ際、ケプラーの表情が曇った。
「いくら何でもこいつは酷ぇな……。ウェスの旦那は本当に容赦がねぇや……」
次の指示とはミドモグを介さずに「サトスガンにある手紙を届けさせよ」というものであった。
その手紙とは偽造された代物で、原理派の主要人物とデリックが繋がっている疑いをかけるものである。
プライドを傷つけられたサトスガンなら「直に飛びついてくる」というのがウェスの読みなのだ。
「こいつを素直にサトスガンに届けていいものだろうか……」
ケプラーはデリックが嫌いな訳ではない。寧ろ恩人でもある。
ケプラーは詐欺師ではあるが、僅かばかりでも義侠心を持っている。
これ以上、デリックを難儀な目に遭わすのはどうしても気が引けた。
「この手紙をミドモグに差し出してやろう。まず喜ぶに違いない。そして、こいつの代金として、更に金をふんだくってやろう」
ケプラーは我ながら名案と思い付いた。
ウェスに対しては後々、言いわけを考えることすればよい。
問題はどうやってミドモグに「手紙が偽造ではないことを見破れないようにするか」である。
「その為には、どうやって手に入れたか、何か理由をつけないとな……。いや、待てよ」
その時、ケプラーはミドモグが山賊達と繋がっていたことを思い出した。
山賊達がこの手紙を使いの者から奪ったことにすれば良い。
そうすれば辻褄があうのである。
更にはミドモグが「山賊と繋がっていた」という脅迫も出来る。
「うむ。これだ。これで奴はグウの音も出ない筈だ。『ミドモグが輸送隊を山賊に襲わせた』とサトスガンに言えるしな」
ケプラーは思わずニンマリと不敵な笑みを浮かべた。
そしてミドモグとの取引の日を、首を長くして待つことにした。
さて、取引の日となり、ケプラーとミドモグの両名は日が暮れた頃に港の埠頭でおちあった。
ミドモグは仕方なく、荷馬車に金塊を積めてケプラーを待つことにした。
残りの情報とやらがドフォルズ枢機卿の元に届いたら、一大事どころではすまされないからだ。
「クソッ! 使えない密偵どもだ! 奴のアジトさえ掴めないとは!」
ケプラーのアジトを押えたら、あとはどうにでも出来た。
残りの情報を強奪し、ケプラーを亡き者にしてしまえば済む筈であった。
だが、ケプラーもしたたかなもので、とうとう期日までにアジトを見つけ出すことは出来なかった。
そして一時間ほど遅れてケプラーはやってきた。
数人の男を従えてやって来たのである。
ケプラーは数人の男を見た時に、思わずギョッとした。
見知った顔があったからである。
「お、お前はヴィクトルではないか!? 何故、お前がそいつとつるんでいるのだ!?」
思わず叫んでしまったが、ヴィクトルは不敵にもニヤニヤと笑みを浮かべるだけである。
そして、間をおいてからミドモグにこう言い放った。
「何をそんなに驚いているんだ? 俺もちょいとばかり、おこぼれを頂戴しに来ただけさ」
「うぬっ!? 教会の恩を仇で返す気か!?」
「恩なんざ一寸も感じたことはねぇよ。寧ろ、恨みしかねぇ」
「お前の怪我は神の御力で癒えたことを忘れたか!?」
「そいつを法外な値段をふっかけたことも憶えているよ。しっかりとな」
「ううむ……忌々しい傭兵崩れめが……」
ミドモグも仲間を連れては来ていたが、腕利きのヴィクトルと仲間の無頼漢どもは中々の手練れらしい。
ヴィクトルの脇にいるケプラーは重要な情報なので他者には聞こえないよう、二人きりになりたいという。
仕方なくミドモグは、ここはケプラーの要求に応じることにした。
「さてと、ミドモグ司祭。サトスガン司教が泣いて喜ぶ手紙をお持ちしました」
「なんだ? それは?」
「デリックが原理派と通じているという手紙です」
「まさか……そんなもの何処で手に入れた?」
「貴方がよこした盗賊団からですよ。連中、字が読めないもんだから言い値で売ってくれましたがね」
「な? 何だと?」
「しかも古代文字で書かれていやがる。そんなもん、普通の奴には読めませんよね?」
「それをお前がどうやって解読したというのだ!?」
「ベルトルン伯爵の領内に古代文字に詳しい魔術師がいるのを、噂で聞いていませんかい?」
当然、嘘である。ケプラーはアンヘルとは何の面識もない。
だが、ミドモグもその噂は耳にしていたので、真実味を帯びていた。
それにケプラーが元山賊であるならば、同族のよしみでバズやクランクを経由していてもおかしくはない。
「それとね。ミドモグ司祭。盗賊達は貴方の命令だということもベラベラ話してくれましたよ。酒も入っていたから、そりゃあ機嫌良く……ね」
「ど……何処にそんな証拠がある!」
「そりゃあ、ここでお見せすることは出来ません。何せ、切り札ですから」
「くそっ! では、手紙を寄越せ! 没収した分の財産はあの荷車に積んである!」
「いやぁ……そいつはおかしいな」
「何がおかしい?」
「借りた物には利子ってもんがあるんですよ。教会もそうでしょう? 高利貸しでしこたま儲けているんですから」
「貴様! この俺を強請るつもりか!?」
「強請りじゃありませんよ。常識ってやつです。あれから随分たつから……そうですね。まずは倍、払ってもらいましょう」
「そんな金はない!」
「でしたら仕方がない。サトスガン司教に証拠とやらを送りつけるまで……」
「ま……待てっ! 分った。倍だな。それで終わり……でいいな?」
「はいはい。それじゃ残りは、またここに持ってきておくんなさい」
「……」
「くれぐれも下手なマネはするんじゃねぇぞ。俺の首が飛ぶ時は、アンタの首も飛ぶんだからな」
ケプラーとヴィクトルの一味は意気揚々と荷車を持ち去った。
そしてミドモグの歯ぎしりの音が鳴り止むことはなかった。




