第一八話 凶賊、村へ侵入する
午後九時を回った頃、義勇兵たちは古井戸を発見した。
そして、ロープを伝ってどんどん枯れ果てた古井戸の中へと入っていく。
先頭をきるのは戦い慣れしている連中である。
先頭にいる連中は北方の戦場で軍律を無視し、荘園で略奪を行い、民家で押し入った連中が主である。
「何をしても良い」とゲルシダ隊長から言われているので士気も高かった。
思う存分、犯罪行為を「これでもか」と言わんばかりに出来るのである。
「俺らも運が向いて来たぜ。活躍すれば無罪放免どころか褒美も貰えるらしいからな」
一人の男がそう言うと、下卑た笑い声が木霊する。
先頭を任された男達は全員凶状持ちの獣である。
そして、北方の戦場を幾度も経験した猛者たちでもある。
狭い地下道をどれくらい歩いたであろうか、月明かりに照らされた場所が見えてきた。
ジラヒスによると避難通路の入り口も、村の枯れた古井戸だと聞かされていたので間違いはないだろう。
そして、照らされた場所につくと、上にポッカリと星空が見えた。
「ここから上に登れそうだな。俺が上からロープを吊るすから後に続け。テメェら、騒ぐんじゃねぇぞ」
先頭に立ったリーダーらしい四十台の男がそういうと、慣れた手つきで簡単によじ登っていく。
男はダクシズという元山賊で、バズやクランクと共に暴れていた者の一人であった。
だが、バズ達と違って平然と何の罪もない、無力な人々を殺し回ることに生甲斐を感じる性癖がある。
その為、バズ達とは非常に仲が悪く、バズに殺されそうになったこともある。
「まずはこの村で楽しませてもらうぜ。その後はあいつらを見つけ出してやる」
ダクシズがいう「あいつら」とはバズやクランクのことだ。
ダクシズは以前、殺されそうになった事を未だに憶えており、無罪放免となった暁には復讐するつもりである。
ダクシズが昇りきると辺りは暗く、静まり返っていた。
場所としては村の端であろうか、近くには小屋が一軒あるだけである。
ダクシズはロープを垂らし、追従してくる仲間に無言で合図した。
「いい女はいるのだろうか?」
「金目のものはあるんだろうか?」
ダクシズに追従する仲間は、そんな事を思いながらゾロゾロと昇ってくる。
「しめしめ。どうやら成功のようだ。さて、何処から付け火してやろうか?」
ダクシズがそんな事を考えていた時である。
「ぎゃっ!!」
不意に何か空を切る音がしたかと思うと、一人が悲鳴をあげながら倒れた。
「今だ! やっちまえ!!」
そう号令したのはフェデルである。
この事を予期して密かに兵を物陰に隠れさせ、逆に奇襲をかけたのだ。
何故、予期出来たのか?
それはワヴェングが九官鳥姿で飛び回っていた時に、ある村民の家の屋根に落ちていた矢文を発見したからであった。
ワヴェングがそれをコルムに届け、彼女はガドウィンに報告したのである。
その際、ガドウィンはジラヒスの名前が書かれてあったのを見て唖然とした。
「あの変態野郎! やはりあの時、殺しておけば良かった!」
ガドウィンはそう叫んだが悔やんでも仕方ない。
この事をエラプトやフェデルに相談したところ「通路を使っての夜襲がある」と両名は考え、兵を伏せておいたのだ。
凶賊らは四方八方からの矢に逃げ惑うが罠にかかったり、待ち伏せた兵に串刺しにされていく。
急いで降りようにも昇ってくる仲間が邪魔で降りられないのである。
「遠慮するこたぁねぇ! 皆殺しにしろ! 連中は全員ダニ以下の連中だ!」
元山賊の兵士がそういって鼓舞する。
自分達の過去の所業は、既に何処吹く風である。
中には命乞いをする者もいたが、暗いので見分けがつかずに矢で撃ち抜かれる。
ダクシズにも当然、矢の雨が降り注ぐ。
「マズい! やられる!」
そう思った瞬間、ダクシズは味方の腕を引っ張り、咄嗟にその者を矢盾とした。
「うぎゃあ! 何を!?」
ハリネズミになったその者はピクリとも動かなくなった。
ダクシズは危険を察知する能力に長けていた。
この能力のおかげで今まで生き残ってきたのである。
実はこれも「神の奇跡の術」の一つで、ダクシズが唯一使える力であった。
例え肉親や友人でも自分が生き残るためならば容赦なく切り捨てる性格も幸いした。
「悪く思うなよ。恨むならテメェの運の悪さを恨むんだな」
無数に矢が刺さった味方を矢盾にしながら、今度は不意に古井戸のロープを切った。
「うわぁあ!」
古井戸の深さは八メートルほどあり、ロープには四人がしがみつきながら降りている途中であった。
味方もろともロープを落とすとダクシズは穴に飛び降りる。
味方の死体がクッションとなり、無事にその場から逃げのびることが出来た。
「クソッ! バレてやがった! ズラかるぞ!」
通路内にはまだ味方がいたので、ダクシズは怒鳴り散らしながら退却を命じる。
古井戸の上からは阿鼻叫喚の声が木霊していたので、部下の者達も急いで我先に逃げ出した。
「ありゃあ確か・・・フェデルの親父。何でこんな所にいやがる。ふざけやがって」
ダクシズはフェデルの姿があったので驚いていた。
フェデル自身、個人の戦闘能力はあまりないが、戦術に関しては相当の腕であることをダクシズは知っていた。
「こいつぁどうも嫌な予感がするぜ。ここはトンズラしたほうが良さそうだな」
ダクシズはそう覚り、自分が信用出来る者と一緒に敗走の途中で抜け出し、陣地には戻らず逃亡した。
残りの者は「逃亡した者は見つけ次第殺す」と言われていたので大人しく帰還した。
その中にはジラヒスも含まれていた。
村の古井戸の辺りでは凶賊の死体が転がっていた。
数は二十以上もある。
元山賊の兵士の中には刑務所にいた者もいたので、死体を見た瞬間思わず驚いた。
「こいつぁ、確か処刑される筈の奴だ。なんでこんな所にいやがった?」
元山賊の兵士が訝しんでいるとフェデルが声をかけてきた。
「どうしたんだ? 何を驚いている?」
「あ、これはフェデルの親父・・・じゃねぇ隊長。いやね。こいつ刑務所にいた時に見知った顔なんですわ」
「お前のダチか?」
「冗談じゃねぇ。こいつはガキを攫っては奴隷商人に売りつけていた奴ですぜ。そんな奴と一緒に・・・」
「分った、分った。だが、そいつは確かに妙だな」
フェデルはジラヒスが刑務所から出されたのは知っていたが、他の者までも出所したのは知らなかった。
矢文にはそこまで書いていなかったからである。
リヒターは「自身が夜襲の指揮する」と思っていたので、刺激しないようにそこまで書いていなかったのだ。
夜襲の際に直に降伏して事なきを得ようとしたからである。
他の遺体にも刑務所で見覚えのある者がいるとの報告にフェデルは察した。
「野郎。とんでもねぇ事してくれたもんだ」
刑務所の中には当然、彼らを知っている者もいる。
暗闇だったのでバレてはいないと思うが、逃げた奴にこちらの素性を知っている者がいたとしてもおかしくはない。
フェデルは気が気でなかったが、今更ジタバタしてもどうしようもない。
「バレないことを祈るまでだな。教会を敵にしているのにおかしな話だが」
またしても皮肉である。
大体、ここで村人と一緒になって戦っている事自体が皮肉なのだ。
フェデルは報告しにガドウィンの家へと向かった。
そこにはガドウィンとエラプト、そして予備の兵として待機していた三十名ほどの民兵の姿があった。
フェデルはまず一息つくと戦果の報告をした。
「敵二十三名討ち取り。味方損害なし。やはり古井戸の抜け穴を利用してきましたな」
「そうでしたか。しかし、困ったことになりましたな」
エラプトは不満そうに言い放った。
いざという時に女子供を逃がすための避難通路が、これで使えないことになったからだ。
「敵が総攻撃してきた際、また利用するかも知れません。まずは早急に古井戸を埋めましょう」
フェデルは冷静にそう指摘した。
総攻撃されたことを想定すると一つでも侵入路を無くした方が良いからだ。
一方、討伐隊を率いるゲルシダは夜襲が失敗したと聞き不機嫌であった。
「あまり期待はしていなかったがな。まぁ、いい。村の連中も逃げ場がなくなったことで気が気ではないだろう」
ゲルシダは報告をしてきた副官リヒターに憮然とした表情で言い放った。
「ですが、窮鼠猫を噛むとも言います。それに、これ以上の行為はベルトルン伯爵に聞かれたら厄介です。一旦和睦を・・・」
「ならん! そんな事をしたら俺の武名に関わるだろう!」
「いや、しかし・・・」
「司教様は俺に『委任する』と命ぜられたのだ。『どんな事をしても構わん』とな」
「だからといって村人達を『皆殺しにせよ』というのは・・・」
「リヒターよ。これは教会からの命令だ。つまり俺は仕方なくやっているのだ。わかるよな?」
「・・・・・・」
ゲルシダは「仕方なく」と言うが当然、嘘である。
教会やサトスガン司教のせいにして好き放題出来る悦楽に浸っている。
夜襲には失敗したが、村の奥の手である避難通路を塞いだので「さぞかし不安であろう」と思うと愉快で堪らない。
「失敗したからには次の手だな。攻城兵器が必要だ。至急手配せよ」
ゲルシダはリヒターにそう命じると寝室へと向かった。
村人達の絶望感を想像し、それを肴にして、ゆっくりと夢の世界へと向かったのである。
三日後にとうとう我慢が出来なくなったデリックは出て行こうとするが、それにはガドウィンらが許さない。
「どいてくれ。このままでは皆、死んでしまう。やはり私が出ていく他あるまい。少なくとも時間稼ぎにはなる」
デリックがそう言うと、ガドウィンは頑として聞き入れようとしない。
「いけません! ぼっちゃんが行ったところでどうにか出来るもんですか!? それに連中なんて盗賊よりも阿漕な連中ばかりだ! 約束なんぞ反故にされるのは目に見えていますぜ!」
「じゃあ、どうすれば良いのだ。籠城戦っていうのは本来、援軍があって始めて成立するものだ」
そのデリックの問いに、脇に居たフェデルがこう答えた。
「伝書鳩がいれば直にでもベルトルン伯に現状を報告し、援軍を要請できるのですがね」
それを聞いたガドウィンと一緒にデリックを止めようとしていたコルムが声をあげた。
「伝書鳩じゃないけど伝書九官鳥ならいるわよ。あの子なら伝えてくれる筈」
そのコルムの声に驚いたのはフェデルである。
そして、コルムに諭すように声をかけた。
「しかし、お嬢ちゃん。伝書鳩は帰巣本能ってやつで行くものだ。その九官鳥というのが、そんな訓練したとは到底思えないんだがね」
「何よ。やらないだけマシでしょ? それとも、他に良い案があるの?」
コルムの問いかけにフェデルも口を噤んだ。
彼女の投石は腕を磨いた盗賊の弓矢よりも数段、殺傷力がある事を知っていたので、彼もコルムに一目置いていたのである。
コルムはフェデルが書いた手紙を早速、デリック邸に持って行った。
ワヴェングに運んでもらう為である。
「ダイジョーブ! ダイジョーブ!」
九官鳥姿のワヴェングは娘姉妹にこう叫んでいた。
父親であるデリックが心配で泣いていたからだ。
「あ、ワヴェちゃん。頼みがあるんだけど」
コルムは無言の会話で帰ってきた早々ワヴェングに呼びかけた。
「またかよ! 何処までワヴェング扱いが酷けりゃ気が済むんだよ! 様子を見て来いだの! 梟になれだの!」
「いいじゃないの。どうせ暇なんでしょ? それにお世話になっている身なんだしさ」
「俺は別に世話になってねぇよ! で、今度は何だよ?」
「あ、やっぱり聞いてくれるんだ。流石、ワヴェちゃん。頼りになるわぁ」
実際の所、ワヴェングは楽しい気持ちである。
今までオオサンショウオで、数千年も小魚しか食べていない暇な毎日だったからだ。
それがこんな状況でも楽しんでいられる気持ちになった。
大体、いざという時にはそのまま九官鳥の姿で逃げてしまえばよい。
問題は場所の指定であったが、実はワヴェングはベルトルン伯がいる城下町のことを知っていた。
何故かといえばコルムを探している途中、ふらりと寄ったことがある町だからである。
その時は目立たないようにカラスの姿をしていた。
コルムがフェデルの手紙を九官鳥姿のワヴェングに結ぶと早速ワヴェングは飛び立った。
「急いでね! 頼むわよ!」
コルムに無言の会話で頼まれたワヴェングは一路ベルトルン伯がいる城下町サフェンベルに向かった。
「キンキュー! キンキュー!」
何時もの日課である絵画制作に取り込んでいたベルトルン伯の部屋の窓から見たことない九官鳥がそう叫んでいた。
「珍しいな。九官鳥とは。しかも、緊急だと?」
九官鳥は手紙が縛られている片脚をあげてアピールする。
「キンキュー! キンキュー!」
あまりに煩いので仕方なくベルトルン伯は九官鳥の片脚から手紙を取るとそれを読んだ。
そして、その表情は一瞬にして曇った。
「果樹園まで燃やしただと? しかも、討伐隊長はゲルシダだと? 正気の沙汰とは思えん。狂ったのか・・・サトスガンめは・・・」
そう呟くと、我に返り家臣を呼んだ。
「こうしてはおれん! グッデン男爵とジェスター准男爵を呼べ! 事は緊急を要する!」
サフェンベルには既にヒューデン候から遣わされたグッデン男爵が逗留していた。
そして、友人でもあるロットン隊長と呑気にポーカーに興じていた。
「こうしていて良いのですか? 既に戦さは始まっているようですが」
ロットンはグッデン男爵に聞くとグッデン男爵はこう切り返した。
「聞けばエラプトという者がいるというじゃないか。そう簡単には陥落しないだろう。それに幾らサトスガンが常識はずれだったとしても、あまり無茶なことはしない筈だ。被害が大きければ、その分税収は減るぐらい分っているだろうしな」
「それならば宜しいのですが・・・」
ロットンはそれ以上言えなかった。
サトスガンがどんなことをするか彼自身も理解不能であったからだ。
そんな折にベルトルン伯から「緊急に会いたい」と伝えられたのでグッデン男爵は謁見場に向かった。
「まさか! そこまでするとは!?」
ベルトルン伯から思いも寄らない事を伝えられたグッデン男爵は耳を疑った。
しかし、ベルトルン伯の表情からして嘘は言っていない。
加えてグッデン男爵はゲルシダという名前を聞いたので、それには納得せざるを得なかった。
グッデン男爵はゲルシダという男を知っていた。
高利貸しの息子である。
そして、その高利貸しから借金をした過去を持っていた。
更にはこんな因縁があった。
ゲルシダが連続婦女強姦殺人を犯したことが露見すると、高利貸しの父親はグッデン男爵に嘆願書を書くように願い出た。
貴族の嘆願書が多ければ多いほど、罪は軽くなるのが通例であったからである。
ある程度の借金を棒引きにするというので、気にいらなかったのだが、止む無く署名に応じた。
他にも嘆願書はあったので、彼個人の責任ではないのだが、彼は責任を感じていた。
何度か会ったこともある、そのゲルシダという男は自身の武勇を鼻にかけ「さも自分の武勇が必要とされている」ということを、事あるごとに自慢していた。
「奴が討伐隊長か。ならば、遠慮することはないな。目にもの見せてくれる」
瞼を閉じると思わずグッデン男爵は武者震いをした。
そんなグッデン男爵の後ろから不意に声をかけて来た者がいた。
「久しぶりですな。グッデン卿」
男は黒い鎧に身を固めた精悍そうな若者であった。
「これはジェスター准男爵ではないか。何故ここに?」
「ベルトルン伯に呼ばれましてね。貴殿の補佐役としてご同行することになりました」
ジェスター准男爵とグッデン男爵は、ただの旧知の間柄ではない。
年に一回の馬上槍の大会でよく競う間柄であった。
ジェスターはグッデンに大会で負け越しているので「グッデンの鼻を明かしてやりたい」と思い、自ら兵を引き連れてサフェンベルにやって来ていた。
グッデンもまた、ジェスターの緑色の瞳を見てその事を確信する。
「君が副将とは心強いな。宜しく頼む」
グッデンは、そうジェスターに言うと「ゲルシダの首は必ずや俺が」と心の中で意気込んだ。
グッデン男爵が率いる深紅の鎧で身を固めた騎馬隊三百騎とジェスター准男爵が率いる漆黒の鎧で固めた騎馬隊二百騎は、共にデリックがいる惣村へと向かった。
お互い戦功を競うことが予想されるので、行軍においても無理をしないように牽制しながらの出陣であった。
一方、ワヴェングはというとベルトルン伯爵に捕まっていた。
九官鳥というだけでも珍しいのに、文を届けることが出来るとなると相当なものである。
「全くもって珍しい。この世の中で一番利口な鳥であることに間違いはないだろう」
ベルトルン伯爵はワヴェングを鳥籠に入れて悦に浸っていた。
ワヴェングは鳥籠から出ることは出来ない。
何故なら鳥籠の隙間から出るぐらいのサイズにはなれないからである。
「早くコルムに知らせないといけないのに・・・このバカ伯爵。さっさと出しやがれ! てゆーか、もっと美味いもの食わせやがれ!」
ワヴェングはそう言ったところで無言の会話をベルトルン伯が理解することは出来ない。
「そろそろ頃合いだろう。連中も疲れてきたに違いない。あまり長引くと司教様から怒られるからな」
五日間ほど爆発豆などを使って疲弊したと思えたので、ゲシルダは満面の笑みで早朝からの総攻撃を命じた。
これで堂々と若い娘を強姦することが出来ると思うと嬉しくて仕方ない。
教会のある町では商売女しか抱くことは出来ず、しかも殺すことは禁じられていた為に鬱憤が溜まっていた。
彼の性欲はそういったものだ。
女を殺す直前が最も興奮するのである。
空は透き通るような青空である。
冬の期間はあまり雪や雨が降らない気候的が特徴の地域なので、空気は乾燥していた。
防壁の泥は時折、水をかけて湿らせていたが、それでも乾いた箇所が出てくるのは否めない。
討伐隊の弓兵らが一斉に火矢を放つと所々で防壁が燃えだしたので、フェデルは兵に命じて急いで消火活動に回った。
「急げ! グズグズするな! 少しでも敵が侵入する箇所を減らすんだ!」
フェデルはそう下知しながら燃えて尽きてしまった箇所には急いで槍やクロスボウで武装した兵を配置した。
櫓からも矢で応戦するが敵はよりによって大型のバリスタという攻城兵器まで導入し、これを破壊しようとする。
バリスタの矢先には特殊な油をしみこませた布が巻いており、それに火をつけて発射してきた。
「ちっ。よりによってあんな物まで増援部隊に持たせてくるとは・・・」
エラプトは舌打ちをしながら自身も弓をとって応戦するのだが、こればかりは弓では対抗できない。
「撃てっ!」
バリスタの矢が物見櫓を襲う。
一発目は外れたがバリスタは三機あるので続けざまに撃ってくる。
「良く狙え! さっさと装填し直せ!」
バリスタを扱う兵は些か訓練が足りていないせいか命中精度に難があるようである。
だが、何れは当たるであろう。
そんな時である。
空を切り裂く一筋の弾丸のようなものがバリスタを襲った。
「やりぃ! 当たった! それじゃあ、もう一丁!」
弾丸の正体はコルムが放った石であった。
二百メートル先から見事にバリスタの射出箇所に命中し、使い物にならなくしたのである。
「いかん! バリスタを引っ込めろ! グズグズするな!」
兵達はバリスタを遠ざけるしかなかった。
バリスタは非常に高価なもので、壊されたら後で何を言われるかわかったものじゃない。
兵達の命よりも数段高い兵器を壊されてはサトスガンの怒りを買うだけ損なのである。
次第に防壁を乗り越えて来る兵も数を増してきた。
それ故、無理にバリスタを使う必要もないという判断もあった。
討伐隊の兵は当初来たよりも膨れ上がっていた。
刑務所からまたもや義勇兵を募ったのだ。
更には周辺の町から見周りの兵まで徴発してきたのである。
どうやらそれらの町の治安というものは考えていないらしい。
「こんな時に盗賊たちがいれば、町でやりたい放題だろうな。何を考えているのやら」
エラプトはフェデルにそう愚痴をこぼすと、フェデルもまた
「全くですな。いっそ、ここから逃げることが出来たら盗賊にでもなってみますか?」
と苦笑しながら言う。
しかし、両者とも疲労の色は隠せないでいた。




