煙草の話
完全に分煙化された昨今、愛煙家は隅へ隅へと追いやられて、今では喫煙所などあってないようなものである。希少すぎる、という意味で。
そんな唯一の憩いの場、喫煙所にいるだけで白い目を向けられるようになったものだから、ため息しか出ないだろう。可哀想に、混じる白煙はどんな味なのか。
歩きタバコ?論外、滅べ。お前たちがいるから嫌煙されるのだ。
あるファミリーレストランに行ったとき、何組かが並んでいた。記名だけして順番待ちをしようと思い、席を選ぶ欄で「どちらでもいい」にマルをつけた。
あれはいい制度だ、と個人的に思っている。食後に一服したい人は結構いる。喫煙席なら気兼ねなく吸えて、未成年に気を使う必要がない。喫煙者に優しい。
ソファにも座れなかったので立っていると、すぐに店員が来た。
名前を呼ばれたので返事をすると、喫煙席でもいいかと問われる。構わないと返すと、ご案内いたしますと片言の日本語で席へ通された。
ガラスで囲われたスペースは、サラリーマンが2人座っているだけで、静かなものだった。ままでいうと、すっかすかなのである。
こりゃあいい、ゆっくりできる。そう思った。
禁煙が成功したあとのことだったので、私自身は吸わなかったが、なんだか良い気分になった。
私が煙草を吸い始めた理由は、初めてセックスした相手が事後に煙草をふかす人だったからだ。そのあとのキスが好きだった。
仄暗いあの苦味を口伝いで味わうと、とても官能的で背徳的な気分になれた。
一年弱付き合って、誕生日の前に別れたけれど、やはり初めての相手は忘れられないものになるらしい。
法を犯すことは例え横断歩道の赤信号無視でもしたくない主義なので、もちろんハタチになってから吸い始めた。友人たちには勿体無いと言われたが、自分でやったことなのでモチロン後悔はしていない。
ああ、煙草吸いたい。
ただ単に最後の一言が言いたかった