プラチナ先輩とプラチナ後輩
ちなみにいうと、私はすでにゴールドランクだ。
父の会社を買うと目指した時、ゴールドランクになっていると金融関係の情報の取得が何かと楽だったからだ。楽というかもはや出来レースに近い。富める者が金の動きを決める渦中にいるのだから、それも当然といえば当然であった。
なので、今更ながらプラチナになったところで、生きるのに十分な特権と資産があるので利点が見出せない。
「おや、随分と喜びが少ないようだね?」
あなたはプラチナランクの試験と知らずに受けて、結果プラチナになりました。
こんなのどう喜べというんだ。
「喜びよりは驚きの方が大きいので」
「はは。まぁ、そうだろうね」
そう言って彼女は本を読み始めた。
こんな状況だというのに本を読むとか、呆れ果てるを通り越して、凄いとしか言いようがない。言う気はないけれど。
そのまま十八先生は本を読みながら会話を始めた。
「それよりもお聞きしたいのですが、本当にこれがプラチナランクの試験だったのですか? プラチナランクが筆記試験だなんて初めて聞きました」
「うん。当然の疑問だね。まぁ、プラチナランクの試験は、別に必ずしも筆記試験というわけじゃないよ。強いて言うなら『こんなの達成できるわけないだろ!』みたいな冗談のようなレベルの試験が、プラチナを目指す各々に課されるシステムだよ」
確かに今回のような筆記試験など私ぐらいしか突破できないだろう。
百人やったら百人落ちる。
プラチナランクの人間がいないのも頷けるというものだ。
それよりも何よりも聞かなければならないことがある。
「十八先生——あなたは一体何者なんですか?」
無論、予想ついているし、何者かもわかっている。私は天才だから。
だが、こういうのは相手に言わせることで初めて意味を持つ。
「とっくに気づいているんだろうが、一応答えておこうか。私もまた君と同じくプラチナランクの人間だよ。それ故に、君をプラチナランクにするべく導いたんだ」
わかりきっていた答えが返された。
娯楽都市における最高ランクにして幻とまで言われている階級。
その人間を初めて見た。
そして、十八先生は導いたと言った。
「それは——何のために?」
目的が今一つ見えない。
この人が何の得があるのかわからない。
真っ正直に聞いたところで本当の答えなど言うまい。
けれど、会話の流れから真意を推測することは可能だ。
そう思って構えていたら——
「面白そうだから」
「は?」
「だから、面白そうだったからだよ。それ以外に理由なんてないよ」
いともあっさりと彼女は目的を話した。
面白そうだからって……そんなことのために?
理解も共感もできない私はポカンとしてしまった。
「私はね。本が大好きなんだ。とりわけ、物語が描かれた本を好む。小説や漫画に古典なんかも好きだ。本を読むと胸がドキドキするし感動もする。私にとって本を読むことは人生そのものであるし、本がなければいつ死んでも構わないとも思っている」
本が好きなのは見ていれば誰だってわかるが、そこまでのレベルで好きだとは思っていなかった。いや、そうか。私に置き換えてみれば「父が好き」というのと同じことなのかもしれない。
そう考えれば、彼女の本が好きという心も多少なり理解はできた。
「そして、その本を十全に味わうためには『本を読む』だけじゃ足りないんだ。現実に何かを経験しなければ共感もできないし想像もしづらい。真の意味で本を楽しみたいのであれば読者だって『努力』をしなければならないんだ。ただ読んで楽しで次を待つだけのつまらない読者に成り下がりたくないのだよ。私はね」
読者も努力が必要——か。
曲がりなりにも、1万冊の読書を終えた私はその意味がわかった。
高度な専門書を読むには、専門用語の知識が必要だし、小説を読むにしてもSFであれば科学的な知識があれば背景やシステムの理解も早い。
無論、中には時代によって否定された知識もあるし、荒唐無稽な物語だってある。前知識もなく読んで楽しめるものだってあった。
それでもなお、十八先生が『努力』と言ったのは、彼女にとっての読書は決して受動的なものではな、能動的なものだと言っている表れではないか。そう思った。
「だから、私は色々な人間に出会い、彼らの考えに触れ、その上で本を読み続けたいと思っている。まぁ、これが私の細やかな努力といったところかな。ここまで言えば、もうわかっただろう?」
わかったというか、考えるまでもなかったということか。
むしろ、そこまで考えに至らなかったのかもしれないが。
十八先生は本が好きだ。
本が好きだから努力するし、本が好きだから行動をする。
彼女にとって私は『主人公』で十八先生は『読者』だったというわけだ。
「君は『父の死』を理解したいと言って知識を求めた。私はそれに応えた。だけどね、この世の中は『知識』だけでは足りないんだ。だから、私は君の知識に相応しい力を振るえるだけの『資格』を取得すべく導いた。そして、君がそれらを手に入れて作り出す『物語』を——楽しみにしているんだ」
一読者として。
丁度、本を読み終えた彼女は——新刊を待つ読者のような笑顔でそう締めくくった。




