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娯楽都市  作者: 菊日和静
第01話 娯楽屋とプラチナランカー<ジーニ>
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イベント後の一幕

「るりー。それで、結局のところどうだったのかにー?」


 コーヒーカップを両手で抱え、椅子の上に体育座りしながら狐島が尋ねてくる。

 楽々大学の娯楽研究会部室に、久遠、天野、双六の三人が別々に戻ってきていた。一応、簡単な尾行術で後を付けて来る者がいないかを確認しつつだ。

 もちろん、ジーニがこちらに何かをしてくる可能性を考えての措置だったが、特に何もなく考えすぎなようだった。


「そうですね~。収穫もあったと言えばありましたし、なかったといえばないです」

「えぇー。ジーニのこと何にも掴めなかったのかよー。この役立たずー。るらるら」

「あはは。いや~面目ない! それなりに楽しいイベントだったんですけどね」


 右手で後頭部を掻くも、双六は何一つ面目なさそうな顔をしていなかった。楽しくて仕方がないと、その笑顔は語っている。


「私の方も注意深く観察していましたが、現状わからないままですね。久遠さんはいかがでしたか?」

「姿も現わさない奴相手に結局何がわかるってんだ。むしろ、双六。お前その感じだと何か気づいたことでもあったのか?」


 基本的に荒事は久遠担当なので、こういった分析作業はあまり得意ではない。なので、雑事を一手に引き受けている双六の方に聞く。


「僕ですか? そうですね~。ジーニを語るあの仮面ですけど、まぁ、推測するなら顕示欲が強そうな印象を持ちましたよ。あとは〜精々、僕らがポイントを出し合うことで、どのような結論に至るのかを上から物見遊山してそうな感じですかね。ただまぁ、向こうがプラチナランクだということは——その程度は予想の範疇でしょうね」


 こういったゲームじみたイベントで大切なことは情報量の有無と正確さだ。ジーニがプラチナランクであれば、ポイントを使用して今回の参加者の素性はバレているだろうと踏んでいる。

 

「私もそれには同意見です。ただ、相手があのジーニでは、どこまでのことを信じていいのかわかりませんが……」

「そうですか? 天野さんは天才と呼ばれているんですから、むしろ僕的にはジーニの思考とかは、僕よりずっと詳しいと思いますけど?」


 言い換えれば、天野はジーニ寄りの人間だと言っているわけなのだが、天野はそれに対して、自嘲したように笑い吐き捨てた。


「私は天才ではありませんよ。私が本当に天才だったら――ジーニにもっと近づけたことでしょうね。私が天才なんて呼ばれたのは……本当に少しだけ勉強ができただけですよ」


 泣きそうな顔で、笑顔を浮かべる彼女の声は、ほんの少し悲しそうだった。


「これは失礼しました。軽率な物言いでしたね」 

「いえ、いいんです。ただの事実ですから」


 特に何ともないと天野は言い、これ以上双六も何か言うまいと引き下がった。


「そだぞー。ゴロ君は楽しんでばかりでないで女心の一つぐらい知っとけー」

「お前がそれを言うな」

「なんだよ。るーるー」


 相変わらずの仲が良いんだか悪いんだかわからない久遠と狐島に苦笑した。

 ただ狐島が言うように——アツシほどではないにしても女心というのはわかりたいなーと思うことはある。もちろん、男に女心を完全に理解することなんてできないだろうが、わかろうとする努力があったかが大事なのだ。

 そういう意味では、この場に居る二人の女性ーー天才と呼ばれる天野と、娯楽研究会などを開いて遊ぶ狐島。女心を理解するのにハードルが高すぎる二人だとは思うが、それでもより面白くなるのであれば、もっと理解を深めたいとは思っていた。


「一応、これから今日の情報を元にジーニの割り出しを行いますが、あんまり期待できそうにないですからねー。ジーニが前もって、情報を遮断するようなことを言ってましたから。カラオケ店での手紙やオーディオからどれだけ辿れるやら。他の参加者の人たちのことも一通り割り出しておきますよ」

「参加したあの三人の中にジーニがいるってのか?」

「うーん。ぶっちゃけ、不明ですよね。いない可能性が高いのは確かなんですけど、僕が見ている限り、色々と違和感があったのは事実ですから」

「……違和感ですか?」

「えぇ。なので、それらを調査しておきますよ。まぁ、早ければ二・三日で済むと思いますので、天野さんは気長に待っていてください」

「いえ、私の方でも調べておきます」


 双六の申し出を断り、天野はやはり自身が気になる部分を調べておくのだろう。まぁ、信用するとかしないとかではないが、自分の手で調べないと気がすまない性質なのだ。


「わかりました。久遠さんは……今のところすることなさそうですので、就職活動続けていても大丈夫ですよ。ただ、調査が進んだら手伝ってもらいます」

「おう。細々とした作業は苦手だからな。その辺はお前に任せた」

「任せてください!」

「るーりー。終わったらちゃんと私様にもおせーてねー」


 ぷはーと、手に持っていたコーヒーカップを下ろす狐島。口には白い髭ができている。


「わかってますよ。狐島さんあっての娯楽屋ですからね!」

「わかってるならよろしー」

「あ、でも狐島さんに一つ頼みごとあるので、後でちょっと時間くださいね」

「らー。何かよくわかんないけどいいぜいー」

「何をする気か知らんが、悪巧みだけはよせよ」

「失礼な! 調査に必要なことを頼むだけですよ」

「……まぁ、それならいいがな。そこら辺は干渉しねーよ」

「はっはー! 情報集まったら楽しみにしていてくださいよ」

「話はまとまったようですね。それでは、また二日後にこちらに伺わせていただきます」

「わかりました。では、二日後に進捗をお話します」


 ガタっと天野が立ち上がり、部室から出て行きお開きとなった。

 だが、この時に双六は一つだけ後悔――いや、後々楽しむことになる。自分の行動があまりに遅かったことに気づいたからだ。

 二日後。

 双六が、寮にある新聞を見て驚くことになる。

 娯楽都市の社会欄で、一人の男性が殺害されている記事が書いてあった。

 その名前は、双六も会ったことがあるどころか、今日調べようと思った男だ。



 坂月草火が死んだ。


 

 新聞を読む、双六の口元が薄く緩んだ。

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