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娯楽都市  作者: 菊日和静
短編 天才が生まれた理由
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天才のひとり言

 天才(わたし)天才(ジーニ)になった時の話でもしようと思う。


 いや、正直全く気が進まないし、あんな黒歴史を掘り起こす真似は些か以上に精神を浪費するわけなのだが、一区切りもついたことだし、これも良い機会だ。過去の私を見つめなおすという意味も含めて語るとしよう。

 もちろん一区切りがついたというのは、彼氏ができたからだ。

 賽の目双六君。私の彼氏だ。

 毛先だけ白く染めた髪に、終始何が楽しいのかニヤニヤと笑っているのが特徴の彼氏だ。なぜ付き合い始めたのかと言うと、ファザコンである私の父の死を理解させてくれる——そんな条件で付き合い始めたのだ。

 結論を言えば、父の死に至るまでの動機については未だ理解はできたとは言い難い。でも、それ以上に私は彼に惚れてしまった。

 ファザコンであるのに。

 普通の男の子に惚れてしまった。

 まったく天才である私とあろうものがチョロいものだ。天才チョロ子ちゃんと呼ばれても何の反論もできない。できない代わりに、もしそう呼んだ奴がいたら相応の報いを受けさせるけれど。

 まぁ、そんなわけで、私としては年相応の女子高生として恋に生きている。

 だから、私にはもう<ジーニ>は必要ないのだ。

 元々、プラチナランカー<ジーニ>になった理由は単純なものだ。

 

 父の死を理解するため。


 この一点に尽きる。

 父の会社を買って私は自殺に追い込んだ。

 悲しかった。悲しくて泣いて落ち込んで、涙が止まってから父がどうして死んだのかを考えた。天才だからすぐにわかると思った。なのにわからなかった。理屈はわかるけれど、心が理解できなかった。

 知りたかった。

 知りたくて知りたくて知りたくて。

 心が狂いそうになった。というか、狂っていたのだと思う。

 父の死後、父と懇意にあった友人が引き取ってくれた。まぁ、私自身はすでに一生暮らせる分の財産があったわけだが、法律的には後見人が必要であったので素直に養子となった。

 そして、私は小学校が休みの日は大体部屋に引きこもっていた。

 もちろん、父がどうして死んだのかを思索するためだ。

 考えても考えても辿り着かない。

 まるで巨大な迷路に迷い込んだ気分だ。

 養父はそんな私を見かねたのだろう。

 彼は父が死んだことを認めきれず、私が落ち込んでいると思い込んでいた。

 だから、私を外に連れ出そうとして気分転換を図ってくれたり、おもちゃを買い与えたりしてくれたが、私としては思索の邪魔をする存在でしかなかった。

 いっそのこと家を出てやろうかとさえ考えていた。

 そんな折、彼は私に困ったように聞いてきた。


「どうしたら天音ちゃんは元気になってくれるのかな?」


 年相応に精神が未熟だった私はイライラしていた。

 天才といえどこの辺はまだ子供であった。

 だから、私は怒りをぶつけるように言った。


「どうしてお父さんは死んだの? 私はそれを知りたいのっ!!」


 養父は驚いた。

 声を荒げたことがなかった私の感情的な面を初めて見たからだろう。そんな私の態度を見て、養父は私をじっと見て口を開いた。


「それは僕にもわからない」


 当たり前だ。

 天才の私にだってわからないのだ。


「けれど、天音ちゃんが本当にお父さんの死について知りたいと思っているのなら、手伝うことならできる」

「え?」


 その答えは意外なものだった。

 養父は続けて言った。


「知識を増やしなさい。知恵を磨きなさい。天音ちゃん。君はまだ幼く若い。人の死を知りたいと思うのであれば、人を知らなければいけない」


 目から鱗とはこのことだった。

 私は天才ゆえに教わらなくても考えれば大抵のことが理解できた。

 それがいけなかった。

 考えればわかると思って、父の死について考えれば答えに辿り着けると思い込んでいた。

 父の死について考えるのではなく、似たような顛末を探ったり、情報収集して解析するという行動を一切行っていなかった。

 無論、養父はそんなことを考えたわけではないだろう。

 単純に私が学校へ行き、学び、育てる一心から出た言葉だったのだろう。

 だが、それが光明になった。

 養父の言葉に従い、私は学校へと通うようになった。

 あっさりと私は学力で学校一になったので、先生たちは私を持ち上げて養父にそのことを伝えた。この子は天才だと。

 そんなことは最初から知っている。

 養父もまた小学校のレベルでは物足りないだろうと思い、私に提案した。


 家庭教師をつけてみないかと。


 それに何の意味があるのかわからないが、これもまた一つの経験だ。

 そう思って養父の言葉を受け入れ、家庭教師を雇うことにした。

 ある意味、これが私が<ジーニ>になる最初の一歩だったのだろう。

 養父曰く、最も優秀な家庭教師を頼んだとのことらしい。

 優秀ねぇ。

 果たして優秀程度で天才にものを教えられるのか。

 疑問で一杯であった私の元に彼女は現れた。


 ピーンポーン。


 間の抜けたチャイムが家に響く。

 ようやく来たかと私は家庭教師を出迎えに扉を開いた。

 そして、彼女は開口一番言う。


「私の名前は十八一。世界一本を読んでいる女子大生のお姉さんさ。この度は君の家庭教師をすることになった。以後お見知り置きを——天才少女ちゃん」


 この時、私が思ったことはただ一つだった。

 変な奴が来た。

 幼い頃の天才は、変人の扱いの答えをまだ知らなかった。

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