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娯楽都市  作者: 菊日和静
第02話 娯楽屋と正義屋の極楽遊園地
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何かを楽しむ裏には必ず誰かの努力の跡がある

 一方その頃——。

 正義屋の虎徹正義から有名どころとして名前が上がったパズル屋も当然のように遊園地に来ていた。


       ◆


「ね〜おねーさん。次のパズルはないですか〜?」

「は、はい! ただいまお持ちいたします!」


 ここは遊園地内のパズルエリアと言われるところだ。

 子供向けから大人向けまで世界中のありとあらゆるパズルを掻き集めたと豪語するところであり、パズルや謎解きが得意な者ならば垂涎の場所だ。

 子供向けの体と頭を使って遊ぶ知育的なものから、子供達の面倒を見て疲れたお父さんたちの時間つぶしのためのものまで揃えられている。

 パズル屋の名に恥じず当然のように照兎栗鼠(てるうさぎりす)は、開演と同時にこのパズルエリアに訪れていた。


「つ、次はこちらになります!」

「わ〜ありがとうございます〜」


 ゼエゼエと係員の女性は息を切らしてパズルを用意した。

 ようやく呼吸が落ち着いた頃、彼女は思っていた。


 ——話が違うと。


 元々、彼女がパズルエリアを志望した理由は楽がしたかったからだ。他のエリアは色々と覚えることもあり大変であるが、このパズルエリアは違う。お客さんにパズルを出してあげればいいだけなのだ。

 あとは精々子供達の相手をしたり、パズルの片づけだけをすればいいからとパズルエリアを統括しているリーダーに教えられた。

 そのため、基本的にパズルエリアのバイトはそんなに多く配置されていない。というか、する必要性も特に高くないとお偉いさんもそう判断しているのだ。

 なのに、これはどういうことなのだろう?


 ——ふらりと開演した直後に一人のお客が現れた。


 酔狂なお客もいたものだと思いつつ「ようこそいらっしゃいませ〜!」と満面の笑みを浮かべた完全マニュアル通りの対応をした。

 笑顔がマニュアルに含まれているというのは、どうなんだろうと初めてのバイトで疑問に思ったが、全てはお金のためと割り切って接客をした。

 ただ、これが運の尽きだった。

 そのお客を一目見た瞬間思ったのは「とんでもない美少年」だと思った。

 ふわふわの綿毛を思わせる綺麗な白髪に、つやつやの卵のような肌。変声期もまだ来ていないのだろう幼さを残す声。守ってあげたくなるような華奢な身体。

 全てが自分のどストライクだった。

 ここが職場でなければ、写真の一つでも撮っていたかもしれない。

 なので、他のキャストが声を掛ける前に颯爽と自分が声を掛けてお客様をご案内した。案内した場所はもちろんパーソナルスペースだ。パズルエリアには皆でパズルを解くオープンスペースと一人で解きたい人用のパーソナルスペースがある。お客様はパーソナルスペースを選んだ。


 ——そして、地獄が始まった。

 

 確か最初は知恵の輪だったはずだ。

 解き方がわかれば簡単に解けるものだが、わからない時は全くわからない恐らく多くの人間が慣れ親しんだであろうパズル。

 今回、知恵の輪はこの遊園地の開園のために新規開発されたものだ。

 それが開始5秒で解かれた。


「わーお客様すごいですね!」

「え〜そんなことないですよ〜。あはは照れちゃいますね〜」


 そんな、はにかんだ笑顔を見せるな美少年。

 思わずお持ち帰りしたくなるだろう。

 心の中の変態を抑えつつ、そんな美少年の次の言葉を聞いて絶句した。


「じゃあ、おねーさん。ここにある知恵の輪全部持ってきてください♪」

「…………はい?」

 

 そこから先はあまり記憶がない。

 美少年の言われた通りパズルのメニュー表にあるものを片っ端から持ってきては解かれるの繰り返しだった。

 あまりにも注文が早すぎるため他のキャストにもお願いしたが、既に他のお客さんもチラホラと見えてきたため、そちらの対応へ行ってしまった。

 その代わり美少年の担当は専属的に任されることになった。

 そして、わんこそばのように美少年にパズルを出すこととなった。


「解けました〜!」

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 その言葉を聞くだけで悲鳴を上げるパブロフの犬状態になってしまい、もはや美少年の笑顔でも癒せない領域に達していた。

 フードファイターならぬパズルファイターのように美少年が解いていく様は圧巻どころか不気味なものにしか見えなくなってきた。

 ただ、そこで救いの手が差し伸べられる。


「そうですね〜。じゃあ次は口直しにジグソーパズルでもしますか〜」

「じ、ジグソーパズルですか?」

「そうです〜。とりあえず、2000ピースぐらいでいいですよ〜」

 

 助かったと心の底からホッとした。

 何を考えているのか、このパズルエリアにはジグソーパズルのような長時間掛るものも提供されている。一応、そういったパズルは解いた状態のまま保管をして次のお客さんへとバトンのようにつないで完成させるコンセプトだ。

 これでようやく楽ができるとホッと息を吐いた瞬間、


「あ、ボク2000ピースぐらいなら10分ぐらいで解けますから、すぐ次の用意しておいてくださいね。おね〜さん♪」


 地獄宣告が聞こえた気がした。

 確かバイト前に聞かされたことだが、ジグソーパズル1000ピースでざっくり10時間ぐらいで早くても6時間ぐらいが平均的な解く時間だと教えられた。

 その倍の2000ピースなら丸1日かかってもおかしくはない。

 そして、初のバイトで緊張してトイレに行くことも忘れていた彼女はパンツがちょっぴり濡れた瞬間——考えることをやめた。


「はい喜んでお客様☆」

 

 ちなみに、一心不乱に働く彼女の姿を見た上司はいたく感心してバイト代を上げることを決意した。

 ただ次の日彼女から「別のエリアに変えてください!」と言われたので、やっぱりバイト代を上げるのは無しになったことを彼女は知らない。


       ◆


 そんなことをこれっぽっちも知らない照兎は、バイトが出してくれるパズルを堪能していた。注文してすぐにパズルが出てくるなんて、ここは最高の環境だとホクホクしていた。

 パズルを解く。解く。解く。解く。解く。解く。解く。解く。解く。

 飽きることも知らずに一心不乱に解き続けて照兎は言った。



「やっぱりパズルって楽しいですね〜♪」



 おそらくきっと、この遊園地の中にいる誰よりも彼は純粋に楽しんでいた。

 遊園地の遊具でもなく。

 お金が出るイベントラリーでもなく。

 派手なアトラクションでもなく。

 美味しい食事でもなく。

 遊園地の中のパズルだけをひたすら楽しんでいた。

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