怪しいカタコトな情報屋
「あ、いたいた。マークさん!」
「オ~ウ、ゴロー! 今日はどうしたネ?」
久遠と別れた双六は、マークを探して大学をうろついていた。
前もって、久遠からマークの講義を聞いていたので、さほど時間が掛からず見つけることができた。まぁ、それ以前にマークの姿はどこにいても目立っているのでわかりやすいといえばわかりやすい。
「いや~、ちょっとしたお願いがあるんですけど、いいですか?」
「イイヨイイヨ!」
「マークさんのお仕事関連の方での頼みなんですけど」
そう切り出すと、マークの表情がくだけた感じから一変し、相手を値踏みするような——商談相手と取引をする人間の目つきになった。
「ふむふむ。ゴローわかっていると思うけど、オレの仕事は高いヨ? 日本のコトワザにもこういう言葉があるネ。タダより安いものはないデース!」
「そりゃ、タダより安い物があったら驚きですよ。あぁ、でも、マークさんの仕事は高いのはわかっていますよ。でも、僕が楽しむためならば何でもすることを知っていますよね」
「いい度胸デスだネ。それで、ゴローは何で支払いをスル? マニーでも、ポイントでもどっちでもいいけど、ゴローに払えるかナ?」
マークは、有体に言えば娯楽都市における情報屋だ。
大学でも情報関係を全般に扱う講義を専攻しているらしく、インターン先も情報を専門に取り扱う会社だと久遠から聞いている。その伝手もあり今までも何度か情報の取得作業に関してマークにはお世話になっている。
無論、双六も自分で調べられないわけではないが、それなりに深い所へ潜るとすると、やはり、専門家に任せるのが一番である。
しかし、情報を扱うということは、貴重な情報からゴミ情報までよりどりみどりのラインナップであり、それらの中でも貴重な情報をもらおうとしたら相応の対価が必要である。
「ふ。僕を甘く見ないでください。もちろん、ポイントもお金もありません!」
威勢良く双六は、『ない』と断言した。
いっそここまで開き直れたら清々しいと思う程である。
そんな双六を見てマークは、ゴミを見るような目でにこりと笑った後、
「計画的なご利用をお願いいたします」
日本人も真っ青なぐらい丁寧なお辞儀をしてお客様をあしらった。
「何でそこで流暢な日本語を!? マークさんもしかして日本語ペラペラ!?」
「オーウ、ゴロー。何を言ってるネ~? 別にオレはギャップ萌とか知らないネ~」
「知ってる!? この人絶対意味知ってるよ!」
「何を言ってんだこのスットコドッコイ~。ミソスープでフェイスを磨いて、トゥモロー出直してきやがれネー」
「何か色々間違えてるけど、どこから突っ込むべきかわからない――――!?」
とりあえず、頭を抱えて叫ぶというリアクションを取ることができて満足できた。
まだ、このままマークとの会話を続けたい気持ちもあるが、話が進みそうもないので『切り札』を出すことに決めた。
双六は、おもむろに制服のポケットに手を突っ込んで、紙の束を取り出した。
そして、マークを見てフッと笑った。
「しかし、マークさん。僕にそんなことを言ってもいいんですか……?」
「ナニ?」
「確かに、僕は金もポイントもありません。ですが! 僕にはコレがある!!」
バーンと取り出した紙の束を見て——マークは驚愕の表情を浮かべ体が震えだした。
「こ、コレはまさか……!?」
「そうです。マークさん。これこそ、これこそが……狐島さんの生写真です! しかも、各種ポーズを取り揃えた一品です!」
ジャジャーンと効果音が付きそうな感じで狐島の写真をマークに見せる。
その写真には、いつもの狐島の着物を着た姿やポーズをとった姿が写っていた。いかにも素人写真というのは目にわかるぐらいなのにマークには効果抜群であった。
「くっ! ゴロー……何て恐ろしい奴ネ!! でも、いくらフォックスちゃんの写真でも、オレはこの程度で引けないヨ!!」
「まだまだ!」
「なっ!? マダだと!」
「さらに、狐島さん写真を追加! 狐のきぐるみを来た狐島さんです!! ふはは! どうですか! これが欲しければタダで僕の頼みを聞いてください!! でなければ、マークさんにこの写真の数々を与えることはできませんよ!!」
「くそぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 焼き増しで全セットお願いするネ―――――――――!!」
ガシっと、男と男の熱い右手が交わされた。
実を言えば、昨日の時点で情報屋を営む――というよりは、企業の研修で行っていて詳しくは知らないが、情報を取り扱っているマークに、今回の情報の幾つかを聞こうと思っていた。なので、狐島に滅法弱いマークからタダで情報をもらうため、狐島の写真を事前に撮っておいた。狐島の方もタダではないのだが、即物的なものではないため、問題ない。
「それで、ゴローは何の情報が欲しいネ?」
「あぁ、はい。欲しい情報なんですけど――――」
マークに、双六が欲しいと思う情報を伝える。
ジーニに繋がるであろう情報と、坂月を殺した犯人に繋がるだろう情報を——マークに教える。
「――――の情報をお願いします」
「うーん。別に良いけど、ゴローは探偵にでもなるつもりなのカイ? フォックスちゃんのお仕事にしては珍しい種類の情報だヨ」
首をかしげながら、それを問うマークだが、双六はそれに答えずただ笑っているままだ。
「そうなる状況なら面白いんですけどねー。それを確かめるためにお願いします」
「オーケー。それじゃ、今からその情報を調べておくヨ」
「ありがとうございます」
「お互いさまネ! それと、今度はフォックスちゃんの別のコスプレ写真お願いするヨー!」
「いや、僕が言うのもなんですけど、狐島さんのこと好きすぎませんか?」
「ノンノン。世界はラブでできてるデース!」
愛ときたか。
高校生の自分が言うのも何だが、愛というのはどこか違う世界の出来事にしか思えない。アツシがいたならば、愛について小一時間の説明と講義に加え、五時間以上のの妄想デートプラン一○八について熱く語られることだろう。
そういえば、今のところ二十程度聞いたのだが、明らかにモテない童貞高校生が考えたかのようなデートプランばかりだった。アツシにマークのこういうてらいのない行動を見習わせたいと思う。
また、節操と純愛は違うのだということをぜひとも教えたいところだ。
「あはは。それじゃあ、僕の方も少しばかり急ぐのでまた今度ということで」
「ラジャーネ!」
大きく手を振り、双六はそのまま走り出した。




