13 前進<芯>
ジャンジャカジャンジャカ…
その日のライブはオリジナル曲から始まった。
ケイが作った新曲からだ。
唄い終わるが、人は来ない。しかし、前の場所よりはあきらかに人が多く通る。
リョウ
「やっぱこっちの方が多いね!」
そのことを感じたリョウがケイに言った。
ケイ
「こっちでやるのは正解だね!」
ケイもそれはわかっているようだ。
あらかじめ決めていた曲順では、次はコピー曲だ。
2人はイントロを弾き始めた。
すると3人組の女子高生が立ち止まった。部活の練習帰りなのか、大きなスポーツバッグを持っていた。
ナカイさんを除けば、初めての観客だ。
リョウは緊張して前を向いて唄えず、ノートばかり見てしまっていた。
唄いだしのケイは音程がズレた。
それでもその3人組はその場にいてくれていた。
曲を唄い終える。
パチパチパチパチ…
拍手の音がする。
「ありがとうございます!」
2人はぺこりとお辞儀する。
沈黙が流れた。
女子高生
「じゃあ頑張ってください!」
3人組は行ってしまった。
リョウ
「…初じゃねぇ!?」
ケイ
「来たね!人が!」
ついに念願の観客が。しかも3人も。
コピー曲だったけど、1曲聞いただけだけど、来てくれたことに、かわりはない。
聞きに来たのだ。
リョウ
「どんどんいくべぇ!」
ケイ
「オッケー!」
次の曲にうつった。
今日のライブの曲数は12曲で、約1時間くらいかかる。
2人は唄い続けるが、まだあの3人組の女子高生しかきていない。
そして、今日最後の曲を唄い終えた。
リョウ
「3人だったけどさぁ、来てくれたね!」
ケイ
「やったね!」
片付けをしていると、向こう側の道から、女の人が近寄って来た。
3〜40代くらいのおばちゃんだ。
おばちゃん
「もう帰っちゃうの?」
ケイ
「あっ、はい。」
おばちゃん
「今、子供迎えにきて待ってたんだけど、ここでこんなことやってるなんて珍しいからねぇ。聞いてたんだけど…。」
リョウ
「ありがとございます!」
おばちゃん
「頑張りなさいねぇ!」
そう言って、財布から1000円札を出して渡した。
おばちゃん
「これでジュースでも買いなさい。」
リョウ
「いや、いいッスよ!」
おばちゃん
「いいから!」
おばちゃんは車に戻っていった。
リョウ
「1000円もらったんだけど…。」
ケイ
「どうする?使う?」
路上ライブをやって初めてもらったお金だ。
リョウ
「…とっとこっか?使わないで。その金使っちゃったら、なんの為にやるのかわかんなくなってきちゃうしね!」
2人は金の為でも、プロになる為でもない、ただ聞いてもらいたくてやっているのだ。
ケイ
「そうだね!」
リョウ
「ケイちゃん持ってて。俺、使いそうだから。」
ケイ
「…オイ。」
リョウ
「いや〜、今日、良かったね!」
駅のホームで電車を待っているリョウが、興奮気味に言った。
ケイ
「マジ良かった〜!人来て。」
合計で4人来た。
リョウ
「これからあそこでやろっか?」
ケイ
「そだね。」
場所を変えて、曲数を増やして、いろいろなことを試し、それが今日につながった。
しかし、いいことばかりではない。
リョウ
「いざ人が来るとさらに緊張すんね!最初に来た高校生の時とか、すげぇ沈黙があったし。」
ケイ
「曲が終わって、間があくからね。観客がいたときに、どう留まらせるかだね。」
リョウ
「今日はコピー曲で来てくれたから、オリジナル曲でも来てほしいね。」
あげればキリがないほど課題はあった。
しかしまずは最初で最大の目標の人に聞いてもらうことは達成した。
家に着き、リョウは思った。
(これからライブのことノートに記録しとこ…)
もっと来てもらう為に、飛躍する為に、レッドパープルは今日のライブでやっと1歩前進した。
<芯>
作詞 リョウ
この世は今でも戦いが在り
近代兵器ですべて撃ち抜く
後ろ指さして仲間はずれ
はるか昔の時代から
そんな出来事繰り返す
今と昔で変わったことは
物は進歩し続けてる
今日出た物が明日には
日の目を浴びなくなっている
今と昔でわかったことは
人は後退しているの?
光りのように進む時代
オイテキボリは私だけ?
そんな世界に流されまいと
自分を持ってるヒトがいる
銃で弾を撃つのなら
バットに変えて打ちましょう
他人を笑うものならば
自分も笑われてしまいましょう
それができるあのヒトは
まことに芯の強いヒト
芯が強いヒトになりたい
そんなヒトになれたらいいな