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階段の向こう側
暑い日だった
汗でシャツはくっついてるし、疲労した足は座っているにもかかわらずに悲鳴をあげていた
隣に居るキミは相変わらず無言で佇んでいる
ボクはその横顔を見とれていた
太陽はまだ高く、雲はボクの視界に一つも入らなかった
遠く、近く、蝉は暑いと叫んだ
じりじりと光がボクとキミの皮膚を焼き付ける
少し息を整えると、日焼け止めの匂いがして幸せだった
キミはまだ顔をこちらに向けず、ただたまに目線が動いてまたとまるのを繰り返していた
ボクはキミから漸く視点を変えた
不意にキミが暑いね、と言って、ボクの返事を促した
うん、暑い、ここには否定は要らなかった
もう夏だね、とキミが少し顔をこちらに向けながら呟く
もう夏だね、そう言うボクの耳は蝉の声を忘れていた
死にそうかも、キミが笑った気がした
死にそうだよ、繋いだ手だけが異常に乾いていた
ねぇ、幸せ?
キミの視線はさっきから動きっぱなしだ
うん、幸せ
繋いでいない方の手でキミを引き寄せた
愛してる
声が重なった気がした
とても暑かった
幸せだった
だけど少しだけ、キミとボクの身体はみにくかった。




