左右非対称のアート
片割れは酷く高い為、僕は見上げることが日常へと化している。
空を抱きかかえるように両腕を広げる君の周りをぐるぐる回り、今日の僕のポジションを決めた。
僕と君の視線がぶつかることは無い。
だけど僕は、君の傍に居るだけで、君の身体にもたれかかるだけで、君と融合して一つのものになった気になってる。
それで別に良い。
悪い理由が見当たらない。
皆が皆絶望を掲げるこの世で僕らは、非対称のアート。
制作者は神と言って差し支えないだろう。
もう決して動くことの無い君を見つめながら、僕はあまりにも堪えきれず。
涙を流した。
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もしももう一度口が動くのだとしたら、俺は彼に離れろ、と叫ぶのに。
死んでしまった俺の身体は、やはり天を仰いだ形で今日も彼を引き寄せる。
彼は幸せだと言いたげに微笑むけど、俺と一緒に生きていた時よりも遥かに生気が無いことが、俺の何よりの未練。
俺から離れられない彼と、彼をここから逃がしたい俺とは、無生産のループ。
しかし奴らは確実に彼をも殺す悪夢を作り続けているだろう。
涙を流す彼を慰める術を失った俺は、ただ神に彼を救うように、と願うばかりである。
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ある男が、美術館に足を踏み入れた。
何者も寄せ付けないオーラを醸し出す男は、黒いコートの両方のポケットに手を突っ込みながら、ただ一点に颯爽と足を進める。
見つけた。
我々を救う二対の救世主よ。
男は石像に凭れる少年の手を音がしそうなほど強く掴み、引き摺るように連れて行った。
その間、泣き叫ぶ少年に気を配る様子も無いまま。
暴れる少年をものともせず、最終的には傷がつかぬように抱きかかえて。
涙を流さず天を仰いで少年への助けを求める物体と、
助けを求めず涙を流して諦めをその身に纏う少年。
人々は呑気にも、彼らも芸術品の一部と見なし、愛で鑑賞する。
それらが人々の為になど動かないことを承知済みで。
彼らは左右非対称のアート。
対称だからこそのアート。
なおかつ、人々を絶望の淵に追いやる起爆剤。
物質の方の彼が目を覚ました時、黒服の男に抱えられた少年はまた涙を流して喜ぶだろう。
それが世界の文字通り破滅の第一段階だと理解しても尚。
アートの片割れは未だ泣き叫ぶ。
彼らのハッピーエンド、そして人々のバッドエンドは、今、スタートを切った。




