表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
短編集  作者: 篶-suzu-
45/86

彼は明らかなる間違いを犯した。

視界に広がるのは、桃色の壁紙と絨毯。


道に沿って歩けば、絨毯の欠片の一つひとつが花びらに成り代わっているようだ。


季節はもちろん、春。


唐突に強く吹いた風が、その絨毯を壁際に散らせていった。




欠片を両手にひとすくい。


柔らかな感触の綿毛のようなそれは、僕をまるで歓迎したような面持ちを見せるのに。


さっきから横槍を入れるのは、冷たく寂しく、僕と花びらとを離していく。


なんだ、僕だって受け入れられる、そう思えたのに。


真っ向から否定していく、僕の敵。


彼らと同じように、僕への拒絶を僕の耳に入るように、少し大きめの音を立てては、去っていく。




一歩前へ


それはどんなに難しいことか、僕は知っている。


しかしながら、逆の苦痛もまた、痛いほどに分かる。


これは確かに、みんなが知っていることだと思う。


今足を前に出せば、犠牲になる花びらが沢山。


でも踏み出さなければ、踏みつぶされて息も出来ない苦しみも沢山。


それがもう、沢山、沢山連なって、僕はやっと君に手が届きそうなのに。


臆病な僕は、文字通り病的なほど、犠牲を怖がる。


薬が開発されない、自分で治すしか方法の無い、半永久的な病。




取り乱して、頭を掻き回して、焦りで手を振りほどいて、得たものはほんの僅か。


それなのに僕らは、新しいものを手に入れる為にまた泣き叫ぶ。


心と体の区別が付かないくらい、純粋に、必死に。


何の為かなんて、決まっているでしょうに、「情けは人の為にならず」、意味を取り違えて。


幸せなんて一時の、束の間の快楽だと誰しも分かっているから、余計に。




でも、気づけばあの桜の並木道から離脱した僕が居た。


肩に残った花びらを切り離すことも、振り返って前の僕を嘲笑うことも、もう一度足を止めて迷い出すこともせず、


かと言って、性急に走り出してしまうことも、新しい並木道へ思いを馳せることも、横を見てペースを確認することもせず、


僕はただ、ぼんやりと歩く。


僕もただ、ぼんやりと歩く。




正誤の関係も無く、しかしやはり犠牲へ配慮を惜しまず、あの木にとまる鳥を羨みながら。






彼は明らかなる間違いを犯した。


しかし彼はその間違いを正すことをしない。


何故ならその間違いとは、彼にとっての最良の判断だったと信じて疑わないものだったから。


あの美しく咲く桜を育てたのは、きっと彼だろうに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ