シツモン
数日後、俺と希は姉さんと兄さんに黙って二人の友人で義兄妹で結婚したという人達に会いに行った。
長身の男の人が俺達をにこやかに出迎えてくれた。
「いらっしゃい、小さなお客さん。蘭お茶とお菓子でも用意してくれ。」
突然来た俺達に何の疑問も持たず二人は俺と希をリビングに案内してくれた。ソファに横に並んで座った俺と希は向かいのソファに座った凪さんと蘭さんを見ていた。
「それで?小さなお客さんはどんなご用かな?」
凪さんは優しく問いかけて、蘭さんは断定的に言った。
「貴方たち恵と豊の弟と妹でしょ。」
希はしっかりとした声で答えた。
「はい、私は妹の希でこっちが私の双子の兄の望です。」
希も覚悟を決めているんだと感じた。いつも話すのは俺の役目だったのに希は赤の他人に俺達の関係を話そうとした。
「私、めぐ姉達と話をしました。凪さんと蘭さんは義理の兄妹で結婚したと聞きました。だから、私と望は話をしたいと思ったんです。あの・・・私と望は双子なんです・・・。けど・・・・・・好き合って恋人になりました。少し状況は違うけど兄妹で結婚したお二人の話を聞きたいんです。」
希は慣れない敬語を頑張って使いながらそう言った。希の声は震えていた。凪さんと蘭さんは相変わらずは穏やかな微笑みを浮かべていた。優しい声で蘭さんが言う。
「私達は七歳の時に今の両親が再婚したの。同じ年で同じクラスだったから最初から友人だったの。仲良しでねぇ、その頃から好きだった。私は凪君と結婚するんだって幼心に思っていたものよ。」
俺は兄妹になる前から結婚するんだと思っていた蘭さんに驚いたのと同時に血の繋がっていない二人が結婚出来た理由も解った。
「なんで結婚するって思っていたんですか?兄妹になったのに・・・。」
希の質問に蘭さんは困ったように笑う。
「う~ん、なんでだろうなぁ。わかんないわ。でも望君とは立場が違うのよ。望君と希ちゃんは血が繋がっているけど、私と凪は義理の兄妹だから。」
やっぱり血の繋がっているのと血の繋がってないのでは全く違う。だから、血の繋がっている俺と希はどう頑張ろうと結婚できない。
それでも希は心底羨ましそうに言うんだ・・・。
「いいなぁ。私も望と結婚したい!」
絶対に叶うことのない俺と希の心からの願いに近いだろう・・・・・・。そんな俺達の願いをバッサリと切り捨てたのは凪さんだった。
「それは無理だろう。君達は実の兄妹だから結婚は諦めないと。」
もっともなことだが・・・この時は凪さんが悪魔のように思えた。
俺と希は互いの手を握った。これからの現実的で俺と希にとっては、とても残酷な話を最後まで聞くために・・・。
「・・・どう・・・思いますか?私達の関係を・・・。」
凪さんは、はぁとため息をつきながら言った。
「聞いてどうする?」
「・・・俺は希のことは好きだけど、希のことを思うならどうしたらいいかわからないんです。だから俺は大人の意見が聞きたいと思うんです。」
そう言うと蘭さんは不思議そうな顔をした。
「それなら恵と豊に聞いた方がいいんじゃない?二人は知っているんでしょう?貴方たちの関係を。」
そんなことを言われても関係ない。だってそれじゃあ意味がないから。
「姉さんと兄さんが平等なことを言っているのは分かります。身内びいきなんてしないでしょうし。けど・・・全くの赤の他人に言って欲しいんです。姉さんも兄さんも俺と希に甘いから。俺自身ブラコン、シスコンぽっいから分かるんですけど、姉さんと兄さんは俺達が傷つかないようにしているんだと思います。だから俺は全くの赤の他人で俺達の関係を見て言ってくれる人の話が聞きたいんです。凪さんと蘭さんは秘密は守ってくれそうだし、俺等のことを客観的に話してくれそうだから。」
俺がそう言うと凪さんは心得顔で言った。
「俺たちは甘い言葉は言えないけど、それでもいいか?」
答えなんてわかっているくせにずるい大人だ。俺と希の気持ちをわかりきった上でこんな質問してくるんだ。
「甘い言葉なんていりません。本当のことを言って欲しくて此処に来たのだから。」
蘭さんと凪さんはそんな俺達の本気に本気で答えてくれた。
「はっきり言うと、私は二人の関係は世間に軽蔑されると思う。だって二人は血が繋がっていて、ご両親と一緒に暮らしているんでしょう?その上、二人は中学生。未成年でしょう?」
本当にはっきりと言った蘭さんは、中途半端な言葉じゃ逆に俺達が傷つく事が分かっているんだろう。凪さんもそれが分かっているからかきっぱりと言ってくれた。
「俺達も義理の兄妹だったけど、かなり厳しい目を向けられた。父と母には再婚する時、もし大きくなってから二人が二人で結婚したいと思ったら言うのよって最初から言ってくれていたから、俺と蘭が付き合い始めた頃に報告もしてあった。だから二人は俺達の結婚をすごく喜んでくれて祝福もしてくれた。世間の厳しい目や不躾な視線から守ってくれたりもした。けど君達の両親は違うだろ?俺達のような例は珍しいだけだ。きっと君達の両親は許さないだろうね。兄妹で愛し合った娘と息子を、しかも双子の娘と息子を軽蔑して罵るかもしれない。恥知らずな奴だと言って追い出すかもしれない。そうだろう?」
母さんと父さんは世間体というものをとても気にする人だから、きっと俺達のことを許さないなってわかっていた。
けど、希はわかっていなかったんだろう。あるいはそこまで考えていなかったんだろう。希の手が震えているのがわかる。希は父と母が大好きだから・・・。二人に嫌われたくないんだろう。希は姉さんと兄さんが大好きだし、家族が大好きなんだ。俺だってそうだ。
希にとって家族を失うことは辛いだろう。俺のことを男としても兄としても好きだから、希は苦しむ。
家族としての俺をとるのか、恋人としての俺をとるのか・・・。どちらが希の為になるだろう・・・?
俺はいい。希がいるなら、笑っているなら、俺は幸せだ。
けれど・・・希は・・・?
希には無理だろう。そこまでの愛も覚悟もない。希には家族が必要だ。俺だけじゃ生きていけない。俺も希も未成年なのだから・・・。
「・・・・・・そうですね。」
俺は笑った。凪さんも蘭さんも、希も驚いた顔をしている。
「ありがとうございます。参考になりました。・・・帰るぞ、希。」
そして俺はまた笑う。戸惑う希の手をひいて。
「・・・・・・なんだ、簡単なことだったじゃないか・・・・・・。」
誰にも気付かれないほど小さな声で呟いた・・・。