キョウダイ
私と望には上に兄と姉がいた。豊という兄と恵という姉。
姉さんと兄さんも双子でよく私達のことを理解していた。私と望が結ばれて少し経った頃、ゆー兄とめぐ姉が私と望を旅行に誘った。私達は仲の良い兄妹だったし、年の離れた私と望を二人はとても可愛がってくれたから四人で旅行に行ったり遊んだりすることは特に珍しいことではなかった。
それなのに、私と望はなんとなくゆー兄とめぐ姉が私達の関係に気付いていてそのことについて話そうとしているのではないかと思った。
そして夜になって、旅館の部屋でゆー兄とめぐ姉が酒盛りしながら私達にゆー兄が聞いた。
「お前ら付き合ってんだろ?」
まるで明日の天気は晴れか?と聞くような気軽さで聞かれた。私は思考が停止して反応できなかったけど、望は誤魔化すように
「・・・希も俺も恋人なんていないよ。」
と言った。けどゆー兄は静かに否定の言葉を紡いで・・・
「違う。俺が言ってんのは、希と望が付き合ってんだろってことだ。」
さすがの望ももう誤魔化す言葉が見つからないようで、私が答えた。開き直ってはいたけど、おそるおそる小さな声で。
「・・・うん。付き合ってるよ。私、望が好きなんだもん。」
ストレートに暴露してしまった私に望は驚いていたけど、めぐ姉はニヤリと笑って
「やっぱり腹を括るのは希の方が早かったなぁ。私の勝ちだ。約束通り私の酒代はお前持ちだぞ。」
とゆー兄に言った。ゆー兄はチッと舌打ちして
「わかってるって。」
と言った。私と望はポカンとしてしまって二人に大爆笑された。ゆー兄が
「驚いてるな。」
めぐ姉は
「何で私等が分かったか疑問か?」
と言った。私はこくこくと頭を縦に振るだけで望が
「そうだよ。なんで分かるんだ?俺達そんなに分かりやすかった?」
と聞いてくれた。ゆー兄は酒瓶片手に
「俺と恵の友人にな、十歳の時、再婚によって義理の兄妹になった奴等がいてさ、そいつらが俺等の弟妹も自分達と一緒だって言ってたのを思い出してな~。」
とめぐ姉と思い出しながら話してくれた。
「それでなんでかって、そいつらに会いに行くついでに聞きに行ったら驚いたことに結婚してた。兄妹で。まぁ二人は義理の兄妹だったんだけどな。で、私は聞いた訳だ。なんで一緒だって言ったのかをな。だけど、知らない方が良いって最初は言われた。けど・・・可愛い弟と妹のことだ、知っておきたい訳だ私等としてはな。」
「んで、俺等に根負けして教えてくれた。俺等の弟妹は自分達と同じ様、兄妹で恋に堕ちたんだってな。」
私も望も隠さなくても筒抜けだったこと知って俯いた。望と引き裂かれるんだろうと思った。
けど、めぐ姉は私達に聞いた。
「なんで兄妹なのに好きになったんだ?」
と心底不思議そうに。ゆー兄は
「人間は血の繋がった者は愛し合わないように仕組まれているそうだ。その中でお前等は異端なんだろうな。」
と言った。私は馬鹿だからそういう話はよくわかんなかったけど、望は言った。
「そうだろうけど、俺は自然なことだったと思う。人間の始まりであるアダムとイヴだって近親婚だったろ?
だから血の繋がった人間同士こそ惹かれあうんだ。俺と希は血が近かろうが遠かろうが、好きになったと思う。俺は希と惹かれあったのが運命だろうが偶然だろうが必然だろうが、どうでもいいんだ。ただ希が俺のもので俺は希のもので、希が隣にいて俺が希の傍にいれて、ただそうしていられれば俺は幸せなんだ。希が好きだから・・・。」
その望の言葉は私の気持ちを表しているようだった。めぐ姉とゆー兄がなんと言おうが私は望の隣にいたい、そう思った。のに、めぐ姉は笑って言ったんだ。
「ふ~ん。それくらいの想いだったら私は合格だな。豊はどうだ?」
笑っているめぐ姉とは対照的にゆー兄は真剣な表情で聞いてくる。
「お前等に覚悟はあるか?近親相姦なんて世間じゃ白い目で見られるなんて当たり前なんだぞ?俺と恵はそういうの気にしないし兄妹だからってことで笑っていられるけどな、そうじゃない奴なんていっぱいいる。わかるよな?お前等はまだ中学生だからわかんねぇこともあるかもしれねぇ。けどな、世間の目ってこえーぞ。平気で人の心踏みにじれるんだからな。
・・・お前等にその覚悟はあるか?持つことが出来るか?酷なこと言ってるかもしんねぇが、それが現実ってもんなんだ。これから先、お前ら後悔しねぇって言えるか?兄妹で関係を持ったことを。後悔したってなぁ兄妹ってのは切りたくても切れねぇ縁なんだよ。普通の恋人のようにはいかないんだよ。ケンカしても母さんや父さんの前では普通にしなきゃなんねぇ。わかっているだろう?でも、それは仕方ねぇんだって。それがお前等が選んだ道なんだからな。それを理解した上で受け入れてんなら俺は何も言わねぇ。言う権利なんてないからな。」
ゆー兄が言ってることはなんとなくわかった。けど私は、私は・・・。
「それでも俺は希といられるなら、どんな苦しみや痛みだって引き受けるよ。」
と望が私を見て言ってくれた。私も同じだったから、ゆー兄とめぐ姉に誓うように望に向かって言った。
「私も望と一緒にいられるなら全部引き受けるよ。」と。
ゆー兄は
「そうか。」
と呟いただけで、めぐ姉は
「応援してる。」
と言っただけだった。結局はそれだけだった。それだけだった・・・・・・。
その夜は四人とも何も話さなかった。私はこれからゆー兄とめぐ姉との関係がどう変わるのかとか望とこれからも一緒にいられるのかなとか考えていた。望達もそれぞれ何か考えているようだった。
その時の望の顔があまりにも大人びていて・・・私は望が何処かへ行っちゃうのかと思って望の手を握って眠った。
翌朝、ゆー兄とめぐ姉は私と望に
「絶対にばれてはならないぞ。辛い思いをするのはお前達なんだからな。いいか?何も進んで辛い思いをする必要はないんだからな。」
と忠告した。
私と望はその忠告を胸に刻んで父と母の待つ家に帰った。
これからのことなど誰にも予想できなかった・・・・・・このときは。