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禁忌を抱く手  作者: 希望
2/7

ハジマリ

 物心ついた時からわたしは兄が好きだった。当たり前のように兄を好きになって、大人になったら兄と結婚するのだと本気で思っていた。私が兄ののぞむと結ばれることがないと知ったのは小学三年生の時だった。他のクラスのちょっとませた女の子に言われたのだ。

「きょうだいはけっこんできないんだよ。ほーりつで決まってるんだって。」

 そう知っても私は望への想いを断ち切ることが出来なかった。以来私は、兄への想いを胸に秘めたまま生きてきた。一生叶わぬ恋だと思っていた・・・。

 けど、望も“そう”だと気付いたのは中学に入ってすぐのことだった。私が部活で家に帰るのが遅くなった日に私と望の二人部屋で、望は机にむかっていて背後に私がいるのも気付かずに恐らく無意識に・・・一人で呟いていたのだ。

「妹が好きだなんて言えるわけないだろ・・・。」と。

 私は兄が同じ気持ちを持ってくれているのが嬉しかったけど、同時に恐ろしくもあった。兄が私と同じ苦しみを持っていることが。兄妹で結ばれるということの禁忌が・・・。

 私だけが兄の気持ちを知っているのは不公平だと思った。私は兄も私を好きでいてくれるということを知っただけでほんの少しだけど楽になれた。だから、私は兄にも少しでもいいからこの苦しみから解放してあげたかった。けれど言葉で伝えるのは私には難しく、それとなく気付いてもらえるようふるまうことしか出来なかった。



 しかし、昔から恐ろしいほど私と兄の心は通い合っていたから、兄はすぐに気付いた。

 そして私と兄は言葉も交わさずただ見詰めあった。

 瞳をそらすことなどお互い出来なかった。

 私は・・・恐らく兄も、怖がっていた。一歩踏み出せば、あるいは踏み外せば、もう後戻りは出来ないから。

 けど、兄は言った。

「好きなんだ」と。

 私も言った。

「好きなの」と。

 皮肉にもほぼ同時に私達は言っていたと思う。

 それがどんなに否定しても否定しきれないほど私と兄が双子の兄妹だと証明していた。

 私達は顔の違いはあれどよく似たパーツを持ち、性格の違いはあれどふとした時の仕草はよく似ている。私達は自らの存在により兄妹であることを意識せずにはいられなかった。

 それでも私と兄はいつも通り変わらない日々を過ごした。何の変化もない仲の良い兄妹に見えるように。けど、そこには確かにお互いにしか判らない変化があった・・・。

 それを知る度、見つける度に望は私の知らない望になっていった。兄ではなく、一人の男へと・・・。

 望も同じだったのか私には解らなかったけど、それでも確かに私達は深みへと嵌っていった。このままいけば戻れなくなるだろうことは私も望も解っていた。

 ・・・いや、もう戻れないところまで来ていたのかもしれない。コップに入れた水が溢れるように、私達二人の想いはすでに溢れかえっていたのかもしれない。

 望も私もお互いに溺れていった。依存していることは解っていた。けれど、この想いを止めることなど不可能だった。兄妹という枠を越えて愛し合ってしまった私達はもう止まることなど出来なかった。

 手を繋いだ。心が温かくなった。

 抱きしめられた。嬉しくてたまらなかった。

 キスをした。涙が零れた。

 恐ろしかったけど、私は幸せだった。兄を好きになってしまった私と妹を好きになってしまった望。

 私達は結ばれることで罪の意識から逃れようとしていたのかもしれない・・・・・・。



 けれど、そんな日がいつまでも続くはずはなかった。

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