いのせんっす!2-3
戦うヒロインには主人公への好意以上に大事にしなければいけないものがある……!
前書き書いてて思ったけどこの要素結構大事な気がする。
もっと強調しとけばよかった(笑)。
2-3
俺に興味があると言った少女は俺に興味も無さそうに背を向けて歩いていく。
「ちょっと待てよ」「黙って」
言い切らせてはもらえたがゼロコンマ数秒しか間を開けずに会話が強制終了される。一体なんだっていうんだ? と、廊下を進んで我が教室が見えてきた所で、
「お、おい、お前ら……!」
いくつだよ、と言おうとした(転校初日の転校生にイジメやる気かよ?)。あるいは、ただ普通に「なんなんだ?」とか汎用性の高い語句を使用しようとした。
が、俺の口は故障しようとしたように動かなかった。
先程のセンの会話強制終了術と違ってこれは誰に言われたわけでもない。ただ俺の意思とも言えない。
勝手に口が動かなくなった。
多分、その理由は。
教室に戻ろうとした所で、隣のクラスの奴らが俺達の事を通せんぼしていたから。
言おうとして言わなかったのは多分俺が唖然としていたから。
我が級友(学年的に)だが級友でない(クラス的に)隣のクラスの生徒達は、皆一様に目の視線が合っていなかった。
俺達を歓迎するにしては今後の展開が若干頼りないように感じるというか、太平洋横断するのに三日で作ったドロ舟で出港するくらいの不安を感じるというか。
ああ、なるほど、これが得体の知れない恐怖なのか、と時間差で俺は理解する。
肉体の感じている第六感的危険のサインに精神が追いついていないがゆえの思考加速が発生しつつあった。
ボゴッ。
男女入り乱れたその集団は意識のないかのように街路樹のようにさまようようにフラフラとしていてそれでいてアスファルトに咲く花のように凛としたものは持ち合わせていなかった。
よくわからないだろうが……。
俺もよくわからないから心配しなくていい(爆)!
とにかくそんな(どんなだ)異様な雰囲気をした彼らの首から顔から手から腕から足から触手ショクシュしょくしゅあァあァああああァぁアあ!
湧いてきた、生えてきた、確かに見えた、冬虫夏草という昆虫の動きを操る寄生植物の話があるがこいつらもそんな感じなのか人間の行動を操り最後にはその身を食らってしまう寄生虫なのか?
とにかくその意識の無い彼ら彼女らのあらゆる部位から「ボゴッ」紫色の触「ボゴッ」手が生え「ボゴゴゴゴッ!」
辺りが白く光った。
次の瞬間、生徒から飛び出ていた触手は全て宙を舞っていた。
切り口は鋭利な刃物のようで犯人は眼前にいる美少女セーラー戦士(必殺技が格闘)に違いない。
ステッキの先端部分に付いた円刃から触手のものと思しきなんとも形容しがたい色の液体がダラダラと垂れている。
その血も、宙に飛んだ触手達も、白い光に包まれ、焼けるようにして消えていく。「私は君には興味あるよ」センは確かに俺にそう言ったはずなのだが、こいつは俺なんかより化け物退治にはるかに興味があるようだ。
でも別に妬けはしなかった。
自棄にもなれそうにない。
自棄になるのはセンの事を十分理解してから、しようと務めてからでいい。
恋に敗れる可能性をほとんど考慮せずに俺はいまだに決めポーズ(どんなのかは御想像にお任せする)をしているセンの後姿を視認している。
白の光が消えていくのと同時に生徒達は死人のようにあるいは糸が切れたようにして、その場で崩れ落ちる。
……変身しなくても力出せるんだな。
とか赤眼(コンタクト付けてるから今は黒か。いや、俺に屋上で最後に笑いかけた時は一瞬赤く光った。コンタクト付けてても力が強くなると瞳が赤くなるのか。どっちにしても今は後ろ姿なので確認不能)色白美少女戦士の月が出る前からのあまりの圧倒的な強さゆえに安心して(多分)のん気に考えてから、
「電光石火の早業って奴ですかぁ? 正体隠す気、サラサラな」「しっ」
いじゃん。と悪態、言い切らせる前にセンの姿は消えた。
相変わらず動きが速い。
何分前行動とはいえないけれどひょっとしたら今日は昼から月が出ている日なのか、とか窓から空を見上げる時間ができてしまうくらいに早い。
まあ、東西南北太陽の軌跡から仲間はずれにされている北側の窓しか近くになかった。月だから見える位置だったのかもしれないけど、本日のところは私の肉眼では確認できませんでした。あまり長い事確認するのもできそうになかった。
先程は一瞬安心した俺だったが、今は空を見上げて生きていくのは厳しい心情だっただから。
時間的余裕があっても心に余裕はなかった。
俺は糸の切れた肉人形数体と共に廊下に取り残されていたわけで。
今糸がつながったらどうしよう、とか考えなかったわけじゃないわけだけど、待ち時間はそれほど長くなかった。
五心拍くらいしたら、シュバッという音が最もふさわしい様子で、センは俺の目の前に再び現れたから。
センから与えられた時間は俺の能力では有効活用できないくらいだったらしい。
天から与えられた時間はよくもてあましているんだけどな。
つまり暇じ(以下略)。
思考加速に反比例して肉体は鈍重になっているのか、そのまま身動きもせずに、センが口を開くのを待ち続けた。
「逃げられた」
「ん?」
急に俺の思考速度と肉体の反応がマッチし始める。
ん~。
「さっきそこの生徒達を倒した時、普通のよりずっと強い邪気が一瞬発生したの。多分親玉が様子を見ていて、私への襲撃がうまくいかなったから、怒ったんだと思う。だから、そいつを見つけて倒せれば、今回の事件は解決できると思った」
「しかし、逃げるって言ったって、どうやって? 学校なんて、そんなに広くないだろ」
すらすらと言葉が出てくる。
センが戻ってきてくれて、俺は安心したらしい。
そのおかげで、体が脳の命令に反応するようになってきているのだなあ。
そう客観的に自分を分析して古典的にクールぶってみるも自身が無力である事は認めざるを得なかった。
「学園関係者の誰かに、潜ったんだと思う」
「『潜った』?」秘技(以下略)。
「仮死状態って知ってる?」
「そりゃ知ってますが」
いきなり何を言っているんだこいつは。
「どういう意味?」
そしてわざわざ意味確認まで行ってくる。
できの悪い生徒に教える家庭教師みたいだ。
もちろんやりすぎな家庭教師のように特に色香を使って記憶に焼きつけようとはしてきていない。
「一時的に死んでるけどほんとは死んでないみたいな」
あれ、俺これ知ってるって言えるのか? ニュアンスだけ把握してるって言い直せばよかった。でもセンは、
「ん、まあ、だいたい合ってる」
僕は及第点をいただきました。やったぜええぇぇぇぇ!
……学校の成績でも赤点は取った事ないから、そんなに喜ぶとこじゃないが。
なんとなくセンに認められて少しうれしくなった。
「つまりさっきのボスは学園の誰かに寄生しているんだけども、仮死状態、もしくは冬眠みたいな状態っていったらいいかな、そういう状態になって、私みたいな異界から来た戦士から索敵されない状態になっているって事」
なんか足元が気になるな。こいつらも……?
「おいおい、それってお前的にはやばいんじゃないのか? 敵は自在に姿を隠せるって事だろ?」
「もちろん仮死状態だから、解除には条件がいる。学園関係者を皆殺しにしていいなら、冬眠したまま殺せるから、楽でいいんだけど」
「そうする気なんてないんだよな?」
念の為に聞いておいたんだが、
「必要ならそうする」
やめといてあげて~。なんでこう魔法少女ってのは常識が欠如しているんだ!?
「……ってか、とりあえず今のところそうしない理由はなんだ?」
むしろ逆にそう聞きたくなるくらいだ。
こいつに人殺しをしてはいけないなんて考えは無い。
こっちの世界の人間なんてダニかノミくらいにしか考えていないような奴だ。
それで学園に敵がいるとわかっているのに(恐らく転校してきた理由もそれだろう)そうしない理由がわからなかった。
「さっきの敵が、この事件の黒幕じゃない可能性もある。今回の事件は街ぐるみで起きているものだから。まあ、ここは色んな想いが渦巻いてるから、邪念体は絶対いると思うけど」
どういう事件だよ俺は何も知らないぞなどと言う間もなく、
「異能戦士が学園に潜入しているって事を、他の邪念体に知らせたくなかったから」
「騒ぎを嫌ったって事か」
首肯。
「ただ、今回の事件は普段独立して行動を起こすはずの邪念体が、何故か組織だっている」
ああ、それで昨日あの怪人というか怪物というかが二人というか二匹というかいたのがおかしいって言ってたのか。
2Dゲームなら同じモンスターは三体まで出現するんじゃとか言いたくなるが現実では二体でも異常事態ならしい。
「何か背後に強い存在を感じる」
「二匹一緒にいただけでそこまでかよ!」
「キミはあいつらの習性をわかっていない。あいつらは自分の欲望を満たす為だけに行動する単純な生き物。知性も低いし、協力なんてしない」
なるほど。と言う代わりに沈黙。
昆虫とかだと同種さえエサとして食らうやつらもいるが、そんな感じの奴らなんだろうか。知らない。
自分の無知への指摘から入られると何も言い返せない。
センもこんな異世界知らずの俺なんかに話しても無駄だと思ったのか、無言。
「てか、この足元で寝てる奴らは大丈夫なんだよな?」
俺に対する安全と彼らの将来の安全について聞いた。
「ん、大丈夫」
「人間は殺してないんだよな?」
そういう意味で言っていない可能性もあるから、大丈夫の意味を確認しておく必要があった。
「殺してない」
良かった。
特に親しい人間はいなかったけど。
「まだ取り憑かれて日が浅かったから、内側から焼き殺す事ができた」
さっきのあの白い光の事だろうか。一応魔法使えるんだよな、この魔法使い。時々忘れそうになる。
ガタ♪
奥から人の気配がする。
このクラスの生徒全員が取り憑かれたわけじゃない。
そこまでの数の人間はここには倒れ伏していない。
トイレに行ったり、別のクラスの中の良い友達の所に遠征していっている人もいるのだろう。
教室には、一人しか残っていなかった。
「とし……ちゃん?」
教室の中には俺の幼馴染である、夕空潤が震えて立っていた。
センはそれを見て言った。
「ふうん、まだいたんだ」
やはり謎のヒロインとセットになるのは勝手知ったる幼馴染ですよね!
次回、恋の三角関係の行方は?!(そういう小説じゃない)