いのせんっす!2-1
訳の分からないまま翌日となり登校する主人公。
うう、学校いきたくないお……とかいう展開じゃなくて普通に登校するわけだがまあやっぱりというかまさか? というか、いるわけで。
【転校生】
2-1
「ちょっとあんた、まだ寝てんの?!」
母からの声で目が覚めた。俺は二階の、自分の部屋にいた。おかしいな。昨日、すごく色々な事があったような気がするんだが。なんか触手怪人とか、変な魔法(異能)少女とか……。
「ほら、さっさと準備して、朝食摂って学校行きな!」
二十六歳の『母』は俺を急かしてそう言った。
「ありがとう、ええと」
「母さん、でしょ?」
「由真母さん」
「由真はいらない! 『母さん』だけでいいの!」
未だに慣れないんだよなあ。それだけで呼ぶの。でもまあ、意固地になってもしようがないか。どっちが意固地になっているのかわからないけど。
「わかったよ、『母さん』」
首肯して秘技、部分だけオウム返し。
由真さんは、俺の年上の従姉だ。
二年前、正確にいうと小学六年の夏休み三日前、俺がサッカーで友達と遊んでいる時にゴールポストに全力キックするという珍事を起こした。
そして俺が入院している間に両親は行方不明になった。ギャグみたいだが本当の事だ。
由真さんはそれ以来、俺の面倒を見てくれている。
若い時はモデルをやっていたというが、当時二十四歳で、若くないというんだろうか。
華やかな世界の事はよくわからない。
しかも惚れ抜いた男に裏切られて捨てられたとか(本人談)で、今は地元に戻ってきている状態。
「ここにいれば家賃払わなくて良いから、しばらくは何もしなくても生きていける」と週刊誌の記事にもならない本人談独占スクープ情報。
由真さんがなんで俺に自分の事を『母さん』て呼ばせたいのかは知らない。
家庭を持った錯覚を持ちたいのかもしれないけれど、あまり詳しく聞いた事はないから、わからない。
特に興味も無いけど、まあ、それなりに大人の魅力漂う女性とはいえるだろう。
小学六年生の時に大人ぶらずに一緒にお風呂に入っておけばよかったと今になって後悔している。
ブログに公開してもいいくらいには後悔している。
嘘だけど。
まあ、でもいつもの朝の風景ではあるわけで。特筆すべきこともないといえばなかった。
朝ごはんも食パンにベーコンエッグ、茹でたブロッコリーに牛乳という定番中の定番だったし、強いて言うなら由真さんの髪の茶色がきちんと染め直されていたくらいだった。
「昨日染め直したのよ」
セミロングのウェーブヘアーを掻き上げながら、「どう?」と感想を求めてくる由真さん。
俺は素直に、
「綺麗だと思います」
「まーたまた、お世辞ばっかり言っちゃってえ」
何故か満面の笑みで背中をバシバシ叩かれる。結構痛い。
「あ、でもねえ」
ビッと人差し指を立てる由真さんもとい母さん。
「敬語は禁止! しゃちほこばるもんじゃないわよ、まったくぅ」
「ご、ごめん母さん。敬語は使わないよ」
「うん、よし、よし!」
口約束しただけなのに嬉しそうな母さん。……ニコニコしてるのはそっちが原因じゃないか。
「それでそれで? 昨日染め直したこの髪がどうだって? もっと言って、何回でも言って?!」
「あ、そういえば昨日ってさ」
昨日といえば、色々確認しておきたい事がある。
「ん?」
由真さんは俺が賛辞の言葉を雨あられと注がなかった事にちょっと不服そうだ。外を見ると本日も快晴なり、だったので雨あられは降らせる必要が無いかもしれない。
「俺、ちゃんと帰ってきた?」
「変な質問ねえ。いつも通りに帰って来たわよ」
母さんはまだ不服そうだったが固執する事も無く答えてくれた。やはり雨あられは必要なかった。あとでひび割れが起きなきゃいいけど。
「へー、俺、晩飯食べた?」
「食べた食べた~あれ、でもあんた何食べてたっけ。おかしいな。私は昨日出前で寿司食べた気がするけど、二人前は頼んでなかったような」
「ていうか一人で何勝手に贅沢なもん食べてるの。家計どうすんの」
「うっ! ……まあ、細かい事は気にしない、気にしない」
「まったく、だったら働いてよ」
「大丈夫大丈夫、まだ私が働いてた時のお金、残ってるから!」
俺、大学行けるのかな、とか思わないわけでもない。
貯金がいくらあるのか知らないが、このままじゃジリ貧確定な気がする。「まだまだ」じゃなくて「まだ」なのだ。大丈夫なんかね。
ていうか、母さんが食事の時間をずらす時は俺の帰りが遅くなった時だけだ。
自分から隠れて一人で高いもの食べようなんて根性を持っている人ではない。
でも今回は、母さんは一人で出前寿司を頼んだと言っている。
何かおかしいような……。まあ、これくらいのイレギュラーは、よくある事なのか? 俺が、気にし過ぎなんだろうか?
「ほら、食べ終わったんなら早く学校行きなさい。潤ちゃんも朱里ちゃんも、待ってるよ」
ボーッとしていたようだった。今問題ないなら、何も気にする必要はないか。
「うん、そうだね。行ってくるよ、母さん」
ちょうどその時潤の声が玄関から聞こえた。
「どうしたの? 難しい顔しちゃって」
登校中、隣を歩く黒髪ロングヘアーの幼馴染が俺に疑問文を発する。
「いや……お前いつも俺の家まで迎えに来てるよな」
これは質問に質問で返したわけでなく条件確認だ。なのでテストで0点にはならない。多分。
「えー、そうだよ? 当たり前じゃない。変な俊ちゃん」
不思議な事がある。
母さんは俺に「潤ちゃんも朱里ちゃんも、待ってるよ」と言った。
だけど潤が俺の家にまで迎えに来るのは毎度の事だし、それは母さんもよく知っているはずで。
なんで潤が来る前に早く学校に行けなんて行ったんだろう?
なんか家で隠れてコソコソやりたい事でもあったんだろうか。
洗濯物も俺にたたませるくらいくらいズボラな人だから男関係はまずないとして、うーんなんだろう。
なんていうか、違和感。
「早く行かないと、朱里ちゃん待ってるよ?」
「そうだよな。いつもお前は俺の家まで迎えに来ていて、朱里はバス亭の所で待っているんだ。そうだよな……」
「やっぱり変な俊ちゃん」
潤が俺の手を引くので、俺は黙ってそれに従い、引きずられるように小走りになった。眼前で流れるような黒髪ロングが揺れていた。
待ち合わせのバス亭に到着すると朱里はすぐに、
「お、潤先輩、今日もいいおっぱいしてますね~」
「きゃっ! ちょ、ちょっと朱里ちゃん、や、やめなさい!」
素早く上級生の後ろに回り込んで両の胸をモミモミする三編み中学一年生。
「あっ、きゃん、や、こら!」
女同士が一番体をわかっているというのか!?
ピンポイントな責めを行っているようだ。
「も~、やめなさいって言ってるでしょうー!」
両手を振り上げるも力無い様子の潤。
「え~だって先輩のおっぱい、さわり心地いいんだもーん」
悪びれない朱里。
「お前だって十分胸あるだろ」
どこ見てんだとは言わせない軽い感じで俺がツッこむ。
「えーでも自分のとはまた別っていうか~。だって自分のおっぱいさわさわしてる女の子って、変態っぽくないですかぁ?」
朱里は胸以外は子供っぽい容姿。の割に発言は過激派だ。
「女同士でも変態じゃないのか」
いや変態だろうという反語調で俺がツッこむ。
「えー、ならぁ、女と男、男と女、それなら、いいんですかあ?」
朱里が俺の右の手を取り、自分の左胸に押し当てる。
「私、俊明先輩にならいくら触られても、平気ですよう?」
うるうるした瞳をしてみせる朱里。
「ちょ、ちょっと朱里ちゃん! ダメー!」『いつものように』テンパる潤。
「悪ふざけはモウヤメルンダッ!」赤面を誤魔化す為に俺の語気も強くなってしまう。
同じ部活仲間とはいえ、冗談が過ぎる。
しかし朱里はなおも「冗談じゃないのに~」とかぶつぶつ言っていた。
こいつ、涙目の演技うまくなったな、とか俺は勝手に思った。演技力だと恵輔と並ぶレベルか……!?
二人と別れて自分の教室に入るとなにやら室内が騒がしかった。
俺はあまり騒ぐのは好きではないがこの情報化時代で取り残されるのも恐ろしく、また九割九分の理由として特にやる事もなかったので、C字になり黙ってその情報をラジオよろしく耳に垂れ流して入れておいた。
「今日転校生が来るらしいぜ?」
「へー、この時期に転校生なんて珍しいね」
「女の子らしいわよ」
なるほど、季節外れの転校生、ね。しかも女子、と。
「どんな子だろう、可愛い子だったらいいなあー」(繊細な新世紀救世主風)
「決まっとる! ゴッツイ可愛い子に決まっとるわ!」(何故か関西弁)
「こら男子、静かにしなさーい!」(学級委員長)
誰だったっけ。
俺はクラスメイトにあまり興味が無い。人付き合いが下手なんかね?
知ってるような知ってないような。
でも多分俺は仲良くなる事ないんだろうな。
他にも生徒達が口々に雑多な情報を口にして、それが俺の無意識下にすりこまれていく。
まあ、大事なのは今日このクラスに女の転校生が来るという事だ。
かわいい子だったらいいなあというのには激しく同意。
噂が噂を勝手に呼んでクラスメイト達の間では金髪ツインテールででドイツ語ペラペラで何かの二号機に搭乗する天才美少女がやってくる事になっていたが、流石にそれはないだろう。
実際……一体、どんな子が来るんだろうな。
「はーいはいはいはい、今日は皆さんにビッグサプライズ、転校生の紹介があるよ~!」
教員生活短めな女教師はテンション高めで既に漏れ聞こえていた情報をキーにして朝のホームルームを仕切り始める。
「ほらほら、名乗って名乗って~」
教室に入ってきた少女はうつむきがちで表情がよく読めない。とりあえず瞳の色が赤ではないのだけはわかる。
少女はチョークを取ると、黒板に文字列を書き始める。自分の名前のようだった。
「私の名前は白夜千。白夜が名字で千が名前。ミドルネームはない。よろしく」
顔を上げた少女は、瞳の色こそ違えど、間違いなく昨日会った少女、センだった。
「お、おいお前昨日の……!」
思わず俺は席から立ち上がってしまう。
クラスの反応→静寂、の後、爆笑。
なんだ~俊明ラブコメアニメの主人公気取りかー。アハハハハ。
以下アドリブ、な感じで皆から嘲笑という名の辱めを受ける俺。
仕方なく席に着くものの、俺の席が教室で一番後ろの席だった事もあり、隣にこの謎の転校生が座る事になってしまう。
そういや机既に用意されてた。なんで気付かなかったんだ!?
ボーッとし過ぎだったのか、なんか魔法的な何かがあったのか。わからない。
にしてもこいつ、昨日のコスプレ女じゃないのか?
俺は転校生に対して目線で必死にほら、オレだよ、俺、昨日の!
とアッピルならぬアピールするが、少女は怪訝な顔をして俺の事を見るだけだった。
アッピルの意味が分かる人は貴重。
次回、主人公がヒロインを調教……じゃなくて詰問する……!




