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いのせんっす!1-3

先頭終了後の処理というのはいつも大変だ。

1-3

 赤眼の少女は手際良く死体処理を進めていく。

「発火、浄魂」

 あ、ここで初めて詠唱して魔法使うのね。なるほろ。

 自身の身長をも上回る、クラス1stの生ける伝説に匹敵するほどに巨大なステッキを肉の塊に突き立てると、死体が燃えるようにして、消えていく。

 「ように」というのは、特に不快な匂いもせず。

 しかも一瞬で消えたからだ。

 自分で自分のほほをつねってみたが、夢ではないようだった。

 超スピードであり催眠術とかそんなちゃちなもんじゃねえすごいものをこの目で見た気がする。てか見たんだけど。

 流石にいきなりここまで見せられては、現実主義のスカした中学生を演じ続ける事はできない。

「さっき飛ばした首は?」

「大丈夫、全部ここら一帯は私が浄化しておくから。さっきの首も、すぐに消える」

 魔法少女がステッキを振ると、辺りに一瞬ファンシーな虹のようなものが広がった。

 それでさっきの首が消えたのかどうか定かではないが、先刻あれほどまき散らされていた血が全部跡形も無く消えている所を見ると、大丈夫なのだろうと思えてくる。

 ……にしても、戦ったあとの痕跡を消すのが簡単過ぎだな。

 これじゃ市街地での戦闘を泣く泣く余儀無くさせられているウルトラの人達がかわいそうになってくる。

 あの人達、時間制限もあるから大変だよなあ。復興作業は見たことないけど、順調だろうか。

 軌道修正。

 確かにこの非現実的な状況が現実である事は理解した。

 が、である。

 ここまで見ても、すぐに「すげえ! 魔法すげえ!」とはならないわけで。

 だって血が、出過ぎじゃない?

 当然人並の道徳観が先に出てくる。

 頭にも口にも出てくる。

 触手みたいに、ではないけど。

「な、何も殺さなくても」

「この状態になってしまったら、宿主ごと殺すしか方法は無い。それとも、キミには他に奴らを倒す方法を知っていたというの?」

 知るわけも無い。俺はこの化け物の存在を今日初めて知ったのだから。







 そして魔法少女は一通り死体処理を終えた。







 すると急に俺の方から目をそらし思いだしたように若干あざといのではないかと思えるほど体をくねり恥ずかしそうにしほほを染め、

「見ないで」

「え……?」

「露出の多いこの戦闘服は、こちらの世界では恥じらいの対象になるという事くらい私は理解している。だから……見ないで」

 それを聞いて俺も少し目を逸らさざるを得ない。

 女の子が恥ずかしいって言うなら、仕方がないだろ?

 だけど、悪態吐くのも忘れない。反抗期の力、見せてやるぜ!

「驚いた。外でそんな格好しているのにちゃんとそこらへんの常識は持っているんだな」

「月に代わっておしおきする女子高生とは、違うから」

「何言ってるんだお前は?」

 ジャブがストレート並の威力持ってるな、コイツの発言は。

「一応、こっちの世界の勉強をする為に、人間が何を好むのかくらいは調査した」

「努力の方向が間違っている気がするぞ」どこで調査したんだどこで。

「そう?」

 振り返ってキョトンとした表情をする色白の少女の顔は、恐ろしい程に整っていた。

「ていうか、なんで急に振り返るんだよ

「じゃあなんで私の事見てるの」

「い、いや、それは今、急に振り返るのが外視野で見えたからビックリして……」

 しどろもどろになってしまう俺。目線のやり場にも困ってしまう。

「で、お、お前はどうしてなんだよ!」はっきりと顔を上げる。

 こういう時は強引に押し切る作戦しかない。

 いくら暴行殺人犯(ただし相手がまだ人間であったかはかなり不明)とはいえ、少女である。しかも超が付く程の美少女だ。

 ていうかはっきり宣言する。

 今の振り返った時の赤い瞳に惚れた。

 いや目だけじゃないけど、表情とか陰影とか色々あってそれらがあいまってその一瞬が決定打になってしまったっていうか、ああ、俺は最低最悪の人間だ。

 さっきあんなドメスティックかどうかわからないバイオレンスを見たあとだっていうのに、こんな事になるだなんて。

 だって流石にかわい過ぎるだろ反則だろ!

 今振り返ったという行為をしたこの女に対して、全力で「何をするだァーッ」と言いたい。もちろん言いたいだけであって実際には言わない。

 一線は上からも下からも超えないでおく。

 ただ、自分の心中を押し隠す事に全精力を注ぐ。

「いや、キミが『努力の方向が間違っている』って言うから。この格好はそんなにこの世界でも恥ずべきものではないのかと思って」

 ていうか大事な事だったのかもしれないけど気付かなかった。こいつ魔法少女の上に異世界人でもあるのか。

「恥ずべきものでないなら、別に恥ずかしいフリをする必要も無いかなと思って」

 ……ここははっきり聞いておく必要があるな。

 やはりというか演技だった先程のあざとい恥ずかしがり方に若干の絶望を覚えつつも、俺はこいつができる限り普通の少女であって欲しいと願った。

 いくら好きになったとはいえ、異世界では寝てる時に逆立ち懸垂スクワットしながら寝言で「ダメダメダメダメ諦めたららめらめ頑張るバンガル気持ちの問題みのもんだいもっと積極的にポジティブポジティブー、もう無理? 諦める? 何言ってんの、その崖っぷちが最高のチャンスニャン☆」て言うのが日常だったとしたら!

 そしてそれができないと「ゴミのようだ」とか言われる世界だったとしたら!

 彼女とお付き合いする事を諦めざるをえない……かもしれないし。

 文化の違いとはいえ寝言を鍛えるのは俺には無理そうなので。

「で、お前何者なんだ?」

「セン」

「え?」

「私の名前は、セン」

 ふうん、センちゃんて言うんだ。変わった名前だね、などとのん気な事は口にさせてもらえなかった。

 次の瞬間、俺の口は封じられていたから。

 そう、そのセンと名乗った少女の、その唇で。







 ふわっと、していた。







「む、むぐ、ふぐ……」

 焦る。焦って俺は変に息が詰まったような声を出しているというのにも関わらずこの紺髪の少女は、

「ん……」

 とか目を閉じてなんか艶めいた声を漏らしている。やばい、やばい。思考がヤバい。

 ファーストキス          奪う

   魔法使い      殺人鬼

舌使い      上手い

 ……舌? あ、俺、今、大人のキスされてるわけね。最後の使途倒したわけでもないのに。パトロンが攻め込んできたのか? ……ああ、頭がボウッとする。

「ぷふぁっ」

 センが息継ぎの為に口を離した。

 俺と少女の間に透明な糸が引く。

 何かしらのつながりができてしまったという抽象的な意図での糸であって、深い意味は無い。深い意味は無い。大事な事なので二回言った。

 一線は超えていない。ライトノベルの範疇であって、一線は越えてない。大事な事なので(以下略)。

「な、なんでこんな事を!? せ、説明を要求する!」

「わからない……。君の顔を見ていたら、なんでか、してみたくなった」

「な、それってどういう意味……」

 なんだよ、と言い切らせてもらえなかった。

「いいんだよ? 続き、しても」

 センが一線を下から超えてきそうになってる! 多分、俺の下から。ていうか続きってなんだ、続きって。どこまでだ! などと聞く勇気は俺には当然ない。

「こ、ここでとかお前、頭おかしいだろ! 常識的に考えても非常識的に考えても!」

 とりあえず否定の言葉を並べてみた。非常識的に考えたら正しい事になりそうだがわからなければそれでいいのだの精神で乗り越える事にする。

 ……だって人の首が撥ね飛ばされた場所でそんな行為とか、どう考えても無理だし。

 というかですね、今の私の場合、もっとちゃんとした場所でお互いの気持ちを確認した場合でないと無理。

 十四年間培ってきた魔法使いへの経験値は伊達ではない。

「ま、まさかだけどよ」

 おそるおそる意思を確認してみる。

「お前、この俺に一目惚れしたんじゃ……」

 天空の城から汚物を見るような目で見られる覚悟さえして、聞いてみた。

 生まれてこの方、女に対してこんな質問をした事はない。

 「この俺」とか少し上から目線にしてみたのは間違っていた時に冗談で済ませられるようにという防御線であったわけだが、異世界から来た魔法少女に対して効果はあるのだろうか。

 わからない。

 するとダメ元で聞いてみただけだというのに、少女は頬を染め体をモジモジと揺らしながら言った。

「うん、そうかも……」

 ええ、目に涙さえうかべて、そう言ったんです。

 僕に対して。

 流石に僕もほほが赤くなるのを禁じ得ませんでしたね。

 そのせいで次にセンがモジモジと震えながら言った、

「それと、おしっこ……」

 というセリフを危うく聞き逃す所でしたよ。

 ええ、まあ工事中という事で簡易トイレがあったので大丈夫だったんですけどね。

 その格好でどうやって下半身を解放するのか若干の興味があったがまさか一緒に入るわけにもいかないのでとりあえずその簡易トイレにぶち込んでおく。

 漫画みたいにギャップ狙いでものすごい音がするかと思ったが特にそのような事も無く静かそのものだった。

 というか俺は星空を見上げながら何耳を澄ませているんだ!

 俺はそんな変態じゃない、という意味も込めて制服姿の少女が出てくると言った。

「場所変えよう。ちょっと行った所に公園があるから」

 制服姿の少女?

 ……とりあえず、魔法少女にも尿意があるんだなとか思っていた所にジャブを入れられた。

 制服姿の少女?

 でも着替え、持ってなかったしなあ。てか、あのステッキいつの間に消えたんだろう。

次回、主人公がヒロインへの謎に迫る……!

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