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いのせんっす!5-1

女子更衣室に入りたい!

誰もがやってみたいその願望を躊躇せず実行する主人公、そこにしびれる憧れるゥ!


【最終戦】

5-1

 加速した思考かつ静止していない時の中で、俺は現状把握に三とコンマ五秒程時間をいただいていた。

「なんだよ、『これ』……」

 あまりの光景に茫然としている恵輔に対して俺は、

「俺だってそう言いたい気分だよ」

 現状把握。俺は自分自身に問いかける。さて目の前にいる「これ」は誰でしょうか?

 一、目の前に触手を展開した化け物がいます。

 二、化け物の体は水着をまとったままで破れてはいません(隙間から触手が覗いてはいます)。

 三、化け物の体はかなり素晴らしいプロポーションです。

 四、頭部は朱里の頭。

 そして俺は理解した。

 あー、これは朱里だ。

 多分条件最後だけでわかったな。

 とか。

 自身の加速した思考に文句を言っても仕方ないが無駄に思考したとは振り返るのも無駄なのに無駄に振り返って思った。

 センは既に変身していた。

 先程までプールに入っていたせいで髪は濡れている。

 センの魔法戦士としての衣装はもともとスクール水着にアンスコ用スカートとか肩とか腰防具とかゴテゴテくっつけたようなものなので大元が大きく変化した印象はない。

 変身した時に急いでいたからか胸に「2のD びゃくや」と書かれたゼッケンが付いたままになっているがそれはどうでもいい。

 右手にはマジックステッキ。

「あら、ここは男性立ち入り禁止っすよ♪」

 俺達の存在に気付いた朱里が今まで見せた事の無い妖しい笑みでこちらに語りかける。

 その足元には、非現実的恐怖に耐えきれずに自分からそうなったのか、それともなんらかの手段を使われてか、潤が気を失って倒れていた。

 ……潤は、必ず助けなければ。助けなければ!

「あいにく、緊急事態ってやつでね」

 潤は既に制服姿に着替えていた。女の子は時間がかかるというがセンの着替えが一番遅かったのか? ああ、魔法で衣装替えるからみんなが更衣室からいなくなるの待ってたのかな。

 ……だが今はそんな事はどうでもいい!

「あはっ、格好つけちゃって、おもしろーい。でも、センパイなんかに、何ができるっていうんすかね?」

「ふん、恵輔だっているし、センもいる。三対一だ。数で不利なのはお前の方だぞ?」

 それを聞くと朱里は、

「ふひひひ♪」

 ふとももから幾本も生えた紫色の触手が、笑い声に合わせて痙攣するように揺れる。

 どうやら俺の発言はまるでプレッシャーになっていないようだった。

 まあ、俺と恵輔が頭数に入らないってのは、事実だけど。

 だけど、ここにはセンがいる。

 センの強さは絶対だ。

 そして恐らくだが……朱里に憑いている邪念体は、センの強さを知っている。

 センの変身する所を見ているのなら、自分の目の前に天敵、魔法戦士がいるというのを理解しているはずだ。

 それなのに、なんでだ?

 なんでこいつは、こんなに余裕ぶっていられるんだ?

「ここだと、場所が悪いわね。場所を変えましょうっす」

「逃がすと思っているの?」

 センが牽制する。

 なんつーピリピリした殺意だよ。

 ヒステリーの女性を軽く凌駕するぜ。

「ふひゅるふひゅるふふふふゅええぇぇ♪」

 それさえも朱里は奇怪に嗤って受け流してしまう。

 朱里は体中から無節操に触手を生やしている。

 俺がセンと始めて会った時に見た男たちや母さんに比べると明らかに触手の量が多い。

 細いものも含めると、隙間の方が少ないくらいだ。

 特に足から生えているものが多く、一見球状にさえ見えた。

 触手の量がこれだけ多いと、流石に今までの敵より強く見える。

「朱里がボスなのか?」

 センに問う。

「ええ」

 端的だが十分な回答。

 が、朱里を見てもまだセンの敵だとは思えなかった。

 正直、センの強さを見た事のある俺としては、圧倒的にセンの方が有利に見えている。いかに異形の姿になろうとも、センとでは根本的に迫力が違う。

 センがマジックステッキをしっかりと握り直す。

 それでも朱里の余裕は変わらない。

 じり、とセンが朱里との距離を詰めた。

 と、朱里は足元の潤を触手で拾い上げるとこちらに見せつけるようにし、

「それ以上近寄るなら、この潤って子の喉を掻き切るっすよ」

 先程までの狂的でだらしない笑いとうって代わって、ビッとした硬質な声で牽制する朱里。

「やってみればいい。私はその後でお前を殺す」

 潤の命など自分の目的遂行に対して何の障害にもならないと言い切るセン。

 しかし俺としてはそれは嫌だ。

 当たり前だ。

 自分の幼馴染がこんなところで化け物に殺されるのなんて、絶対に認められない。

「おい、やめろ!」

 そう言おうとしたその時だった。

「へぇぇぇ。でも、こっちはどうっすかねぇ?」

 俺の体を背後にいた誰かが羽交い絞めにした。

「バカだねえ。『俺の後ろに立つな!』ってヒットマンの名セリフ、知らないのかよ。後方確認しっかりしない奴、勝手に『仲間』とか考えて信頼してる奴は、早死にするんだよ」

「け、恵輔?!」

「残念だったな。俺は演技力に若干の自信があるんだよ」

 ……まったくだ。こいつの演技力を油断していた。

「お、お前取り憑かれてたのかよ?!」

「取り憑かれてたんじゃあない。正しい状態に『戻った』だけさ。今までが、抜け殻だったんだ」

 振りほどこうとするがピクリとも動かない。なんて力だ。センがこの二人が取り憑かれていた事に気付かなかったってのは、どういう事だ? 化け物とセンは同じ世界の者どうし、存在を認識できるんじゃなかったのか?

 ああ、あれか、

「『冬眠』か!」

「今さら気付いてももう遅いぜ」

 恵輔の腕から触手が生えてきて俺の腕を拘束し始める。

 『冬眠』によってボスの存在がわからなくなっていると思ったセンは、ボスをあぶり出す必要があった。

 センが謝罪してくる。

「ごめん恵輔。『冬眠』の解除条件は、『水』なの。長時間、寄生されている人間の全身が水に触れている事。それも長時間」

 だからセンは俺が帰れって言ったのに学校に残っていたのか? 水泳部の様子を確認する為に。

「学校のプールじゃ、誰が寄生されているのかわからなかった。『冬眠』から完全に目覚めるだけの時間じゃ、なかった。だから市民プールに一緒に行く事にしたの。でも、ごめん。恵輔君まで寄生されていたのは、気付けなかった」

 朱里の勝ち誇ったような声が前方から聞こえてくる。

「俊明セ・ン・パ・イ? 三対一ってのは間違いっすよ? 最初から二対二、それもセンパイは役に立たないんだから、そっちが不利な状況だったんすよ」

 生えた触手がしゅるしゅると朱里の体に戻っていく。

「それじゃ♪」

 ロッカーから自分の制服を掴むと、朱里は潤を抱えて女子更衣室から出ていく。

「待て、逃がすか!」

 背後から躊躇なく斬りつけようとするセン。

 だが、直前で恵輔が割って入る。

 俺を盾にして。

「おっとぉ。朱里を殺したいなら、俺達を殺してからじゃないと。ダメだぜぇ? 順番は、守らないと」

 一瞬、センの手が止まる。俺の目の前でマジックステッキ(先端に鋭利な刃物付き)が静止する。

 まただ。

 なんでだ?

 なんでこいつは俺を殺す事をためらうんだ?

「邪魔だぁ!」

 センは素早く状況を判断すると、横から回り込んで恵輔を叩き切ろうとする。恵輔は触手の拘束を解き、慌てて俺を放り投げて、盾にする。

「うっ、ぐぁ!?」

「きゃっ!」

 俺は情けない声を、センは雌猫のような声を、それぞれ出して。激突した。

 しかもセンのおでこが俺の鼻に当たった。ツーンとした感覚がして、俺は涙が出てくるのを感じる。

 センを俺は押し倒すような形になっていた。

 そして恐らくというか確実にだが、背後に恵輔が立っている。

「あ、危ない! キミ、早くどいて!」

 センが俺の顔に手をやり力づくで俺の体をどかそうとする。

 その時、俺の頬に指が触れる。

 俺の涙にセンの指が、触れた。

 そして突如として広がる白い、光。

 閃光のようなまばゆい光が辺りを照らす。

「う、うおおぉぉぉ!?」

 恵輔の困惑した声が聞こえる。運が良かった、としかいいようがない。

 センに、俺の涙に触れさせる事ができた。

 光の中に、センはいた。

 彼女は俺の方を振り返る。

 敵の目の前で。

 それは、圧倒的な自信、余裕からなのか。

「力がみなぎってくる」

 俺の方を見て笑むセン。

「君は、不思議だね」

 そして恵輔の方へと向き直ると、

「終わらせる、先に進む為に!」

 ステッキを一振りすると、爆裂なる青い光が放出され、恵輔の体から触手があぶり出され、砂となって光の中へ消えていく。母さんを助けた時と同じだ。これで恵輔も寄生から解放されたのだろう。

 全ての光が収まると、恵輔が気を失って床に倒れていた。

 センは急いで更衣室から飛び出していく。

 辺りを見回すと、ロッカーが一つ開いているのに気付く。

 朱里がさっき制服を取り出したロッカーの隣だ。

 センは魔法で着替えをしているから、場所的に潤が使っていたロッカーという事になるのだろうか。

 中には水着の他にカバンが入っており中から手紙のようなものが覗いている。

 宛名は、俺になっていた。

 なんだろう? 俺はそれを取り出してみる。

 よくない事だと思ったが、読んでみる。封がまだされていなかった。

 俺に渡そうと思ったけど、まだ決心がついていないとか、そんな感じだったのかな。

 手書きの文面だった。

 朱里に連れ出されてまだ死んだわけではない事はわかっていたが、それでも、読まずにはいられなかった。潤がいたという証拠を確認したかった。

「俊明、もう、ここにいる必要はない。早くいなくなった二人を探しに行った方が賢明」

 センが戻って来た。どうやら朱里と潤を見つける事はできなかったようだ。

「ああ……わかった」

 だが俺はその場から動けなかった。

 潤の手紙は視覚情報としては入ってきていた。

 ただ、脳の中でその情報が処理されていなかったんだ。

 聴覚情報としてセンが俺に次への行動を促している事も確認していた。

 だけど、脳の中でその情報が処理されていなかったんだ。

「俊明」

「今……行く」

 俺はソレをかばんに戻して、立ち上がった。身体が黄金の鉄の塊並に重い。

 金って確か自然界で一番重いんだったっけ?

 じゃあ今の俺なら横綱と勝負できるんじゃないか、とかは考えなかった。

 だって足腰にそんなに力入ってる感じがしなかったから。


☆潤から俊明への手紙

 俊ちゃんへ

 俊ちゃんがこの手紙を呼んでるって事は、私がこれを渡す決心がついたって事だよね(偉いぞワタシ!)。

 えーと、思い起こせば小学校に入学するよりももっと前から、私は俊ちゃんの事が大好きでした。子供の時は私ってのんびり屋さんだからイタズラな男の子とかによくいじめられてて、でも俊ちゃんはいつも私の事助けてくれたよね。

 私の家は共働きで母さんが晩御飯作る暇もなかったけど、学校が終わったらお母さんからもらってきたお金で俊ちゃんと一緒にお惣菜買って食べたりしたのは、今でも良い思い出! あと、俊ちゃんの家に行って、晩御飯ごちそうになったり! そのあと俊ちゃんのご両親はいなくなっちゃったけど……。

 えっと、なんていうかその、長々書いちゃったんだけど、その、結局のとこ、私、俊ちゃんの事、好きなの。大好きなの。だから、その、お友達から、じゃなくて、もうちょっと進めてお付き合いできないかなって、そう思ってます。よろしくお願いします!


PS 最近、クラスが変わったせいで俊ちゃんとあんまり話す時間がなくなっちゃったのが寂しいです。学校に行く時は一緒だけど、帰りは一緒じゃない事が多いし。俊ちゃんのお友達の恵輔君はいっつも話しかけてくれるんだけどね! でも、私は、俊ちゃんとももっとお話したいな!

女子更衣室でしんみりモードになる主人公。みんな演技が得意だったせいでまんまと潤をさらわせてしまった。幼馴染の潤を、センと一緒に助ける事ができるのか! これは! 圧倒的! ベタ展開……! だけど……! だからこそ……! 救う……! 確実に……! 次回、超絶バトル展開……ッ!

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