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いのせんっす!4-4

リア充展開、か~ら~の~!?

4-4

「あ、私、ボール持って来たんすよぉー」

 朱里が持ってきたのは、水に浮かぶ柔らかいビニール製のボールだった。それを使ってバレーボールの真似事でもしようという朱里の提案は、満場一致、四面楚歌の反対で受け入れられた。

「じゃ、いくよ、はーい♪」

 初めはほんと、順調だったんだ。

 潤が最初ボールをぽんと浮かべて、朱里に飛ばす。

 ふんわりした、受け取りやすいボールだ。

 朱里のボールなのだから朱里が最初にボールを上げるのかと思ったが、打ち返す楽しみをまず年下に与えてあげようという配慮だったのだろう。

 潤はナチュラルに相手の事を思いやれるから本当、すごいと思う。

 もう何年かしたらいいお嫁さんになるんだろうなあ。

 その時俺は、まだ魔法使いを目指して孤独な修行を続けているのだろうか。

 ……というのは置いておいて。

「でえええぇぇい!!」

 朱里が豪快な掛け声と共に打ち返す。

 スパイクっぽい動きをしていたがちゃんと上に打ちあげて取りやすいようにしている。

 場所は対象のちょっと手前だ。

 それにしても格闘ゲームなら間違いなく強キャラ確定してしまうくらい野太い主人公声だった。

 多分あと少しゴツくなっていたら逆に弱体化して投げキャラとしての地位を確立を通り越して盤石にしていただろうが現在はハードヒッターくらいの最良の位置に落ちついている。

 ま、それはどうでもいいけど。

 さて、もう一度潤が受けて、レシーブで……これは微妙な所に飛んだな。

 恵輔とセンの間に落ちそうだ。

 センは恵輔が動くかどうか測りかねているようだ。

 まあそうだよな、恵輔の方がちょっと近いし。

 しかし、恵輔は全く動く気配が無い。

 こいつ……死んでいる!

 という主人公の方敵役より先に死ぬという希有な漫画くらいに動く気配が無い。

 どうしたっていうんだ?

 俺が恵輔の顔を見た時、恵輔は顔から赤い血を流していた。

 何を言っているか(以下略)。

 そして、固まったままの恵輔の視線を見て、気付く。

 謎は全て俺の当て推量によって解けた!


 ババーン(脳内効果音)!


 円形になってゲームを行っている以上、奴の隣にいる人間以外の姿は極めてはっきりと、それもほぼ正面から確認する事が出来る。

 そしてそれは俺ともう一人、今恵輔の視線を熱烈に受けている我が幼馴染、潤だった。

 水中バレーボールでボールが水に落ちないようにするには水中じゃないバレーボールと同じように、というか浅いといえども水位があるのでそれよりも早い段階で床だとか水だとかに付く前に受け止める必要がある。

 そしてさっきの朱里の打ち返したボールは山なりではあったが、飛距離はそれほどでもなかった。

 水場は抵抗が大きく動きずらい。

 必然的に潤は十分な距離を縮める事が出来ずレシーブで打ち返した。

 恵輔が鼻血を出すとしたら、恐らくその時でしょうねえ。

 前かがみで白い水着ビキニから無防備にこぼれ落ちそうになった潤の胸の谷間を見たのは。

 証拠はあんたのそのにやけきった顔だよ、恵輔(心の中で指をビッと指す俺)!

 物的証拠が必要なら灰色は黒やろの合言葉で塗りつぶしてしまおうと思うところだが、何もしなくても恵輔なら真っ黒に染まってくれそうな気もする。

 だって恵輔の野郎、目線が潤の谷間に釘づけになってる。


 ダメだこいつ、早くなんとかしないと……!


 まだ当人には気付かれていないようだがこのままじゃ潤に嫌われてしまってこいつの恋愛がオシャカになってしまう。

 俺が仏だったら恵輔にはリア充になる前に仏罰を必ず与えておくけど、一応最低限心配らしきものはしてやる。大丈夫か(笑)?

 特別な行動は何も起こさない。

 行動を起こしたのはセンだった。

「はああぁあぁぁっ!」

 人魚が水から飛び出た時のように華麗に、センは飛んだ。

 跳躍力ならセンの方が(朱里より)上だ!

 というところだろうか。なんか、体に綺麗にひねりが加えられている。あ、打ちぬくね、これは撃ち抜くね、多分俺の方に向かって打ち抜くね。

 次の瞬間、センは叫んだ。

「死ね!」

 その言葉と俺の顔面にボールが着弾するのとは、ゼロコンマ1秒くらいしか間がなかったように思う。

 まあ、体感(笑)なんだけどさ。

 水遊びが終わり、俺と恵輔は男子更衣室でお着替えタイムに入っていた。

 恵輔が俺に声をかけてくる。二人ともまだ下着を何も付けておらず、バスタオルで下半身を隠している状態だ。

「はー、遊んだなあ! なあ、俊明!」

 風呂に入った後みたいな表情で爽やかに声をかけられ自身の体調不良による心情とのコントラストの激しさに若干引き気味に、

「あ、ああ」

 俺は左顔面を腫らしながらも右側の口を大きく開く事でそう答えた。

 先刻センが放った水球が俺のそこに全力でぶつかったからだ。

 マンガみたいに一コマ後には回復とはいかず、小説なら五行くらいはかかる程の甚大な被害を被ってしまっていた。

 あべし。

 力の差が圧倒的なんだから、

「つい本気になっちゃって」

 は許されないと思う。

 と急に背の低い我が友(別に強敵と書いて「とも」と呼ぶわけではない)が、奇怪な提案を始める。

「あん、テメー何隠してんだよ。男ならフリチンで行くべき! そうだろ?」

「そ、そうなのか?」

「おう。それが仁義ってもんだ」

 恵輔がわけの分からない事を言う。

 まあ、大抵こいつの言っている事は、意味わからない事なんだけど。

「そういうお前だってバスタオル巻いてるだろ?!」

「これは貞操を守る為に仕方なくだな……」

「あんまりアッー! な事を言っていると、変態だと勘違いされるぞ。気を付けろ」

 ただでさえお前女顔なんだから、とは言わなかった。

 俺も似たようなもんだし。

 言うと怒られるしな。

「んなこと言ったって俺はお前に恨みがある。仕方ないじゃないか」

「何の恨みだよ?」

 ちょっと心当たりが無い。

「全然潤ちゃんに口利きしてくれなかったじゃないかよ!? その上自分だけ潤ちゃんと二人きりでいるしよぉ!」

 ああ、なるほど。心当たりがあった。

「んなこと言ってもなあ。でも俺はセンと一緒にいた方が長かったし、その間潤と一緒にいれたんだからいいじゃないか」

「朱里が一緒じゃ、まるで話ができやしないよ。まあ、耽美なる世界というのは見せていただいたが。目の保養にはなっても俺の心は乾いたままだぜぃ」

「お前が潤に話しかけられないのは別に俺のせいでもなんでもない気がするんだが」

「う、うるさい! とにかくお前には罰が必要なんだ!」

「あ、おい、ちょっと、やめろよまじで」

 恵輔が強引に俺のバスタオルを剥ぎ取った。

「……」

 いやーん、とでも叫べばいいのか思案していたら結果として無言になった。

 もしくはそこまですんのかよ? という友人の暴挙と起きた現状に対して思考停止し茫然としているところだった。

 と、恵輔はまたもわけのわからない事を言いだす。

「すごいんだな、お前」

「いや、何がだよ!?」

「それなら大丈夫だ」

「いや、何が大丈夫なんだよ!?」

「だが、俺は負けないぞ。必ずお前以上の男になってみせる!」

「何を居丈高に宣言しているんだよお前は!?」

 というか、「それなら」ってなんだよ?!

 だが恵輔はそれらの質問に答えてはくれなかった。

 着替えが終ったので、俺達は外の待合室みたいなところで二人で長イスに座って残りの三人もとい異性達を待つ事にした。

「遅いなあ、あいつら」

 恵輔の言う通りだった。

 待合の場所には運動した後の水分補給用に自動販売機が幾つもあって、普通の自動販売機で販売されていない珍しいものもあってそれを見て俺によくわからないネタを振りながら恵輔は時間を潰していた。

「ちょ、これ、このつめた~いドリンコ、クッパ味って書いてある! ボスキャラかよ?」

「いや、カルビクッパとかのクッパだろ、それ? どっちにしても意味わからんが……」

 特にドリンコとか言ってる事にはツッコまなかったり。

「ちょ、これ、このつめた~いドリンコ、妖しいお持ち帰り味って書いてある! どういう味なんだ!?」

「なんか卑猥だな……」

 特にドリンコとか言ってる事にはツッコまなかったり。

「それはお前の頭だろ!」

「いやいやいや意味わかんねーよ! 頭の中ならわかるけどなんで頭なんだよ! っていうか人の頭ペシペシ叩いてんじゃねーよ!」

「いや、俺もツッコみがやってみたくて」

「ボケてんじゃねーかよ! ボケツッコミかよ! 何やりたいかわかんねーよ! そもそもツッコミやりたい奴はドリンコとか言ったりしねーよ!」

 ああ、とうとうツッコんでしまった。

 そもそもこの安漫才を恵輔に強要されるのが納得いかない。

「今のやり取り、結構イケてんじゃね?」

「いや、イケてねーよ」

 恵輔との不毛なやり取りはその後もしばらく続いた。

 ……だが、それが終わってもそれでもまだ時間が余っていた。

 普段ない物珍しい商品は残念ながら基本的に炭酸を使っているものばかりだっだから俺は何も飲まなかった。自分に厳しく。

 実は俺は炭酸飲料が苦手なので炭酸飲料が体によくないという迷信を本気で信じている振りをいつもしている。そう、これは飲みたいけどあえて飲まないのだ。

 ついでに他人にも厳しくあるべく、自販機に百円を投入した恵輔を止めようと思ったがまず質問、

「女の子は時間がかかるもんなんだよ」

「そ、そうなのか? っていうか、なんでお前知った風に語ってるんだよ」

 なんで、と言われても困る。あ、飲みモノ買いやがった。自販機から出てきたのはクッパ味のドリンコ。ふたを開け、一口。あ、顔しかめやがった。だからやめとけって言おうと思ったのに。思っただけだけど。

「いや、だって俺ほら、女の幼馴染がいるじゃん」

「あ、そうか。……って潤ちゃんの事か」

「ん、あ、ああ」

 水球から与えられた顔面の腫れは既に引いていたにも関わらず何故か答えずらかった。

 何でだろうね?

 まあ、その理由はすぐにわかったんだけど。

「こんの裏切り者~……」

 大粒の涙が恵輔の頬から幾つも落ち、二次元的表現をするなら滝のように涙を流しているというのが適切な様子になっていた。うわー、どうすんべ、これ。

 そして罰ゲームとばかりに渡される自動販売機から生みだされし魔のドリンコ。恵輔、自分の口に合わないからって人に渡すのはどうなんだよ。人としても男としても。

 ……ってこれうまい!

 と、そこである場所から悲鳴が響き渡ってくる。助け船にしてはあまりにもドロ船だった。見たら乗らざるを得ない船だったんだけれども可能なら乗船を拒否したくなるような。

「きゃああっ!」

 尋常ならざる悲鳴だった。断じて朱里にセクハラを受けた程度のものではない。何かが起きたのは間違いなかった。……邪念体か? だとしたらまずい、助けないと!

「お、おい今の声って」

 と恵輔。

「潤の声だ!」

 俺はそれだけ言うと即座に駆け出していた。悲鳴の聞こえた場所へ。そこで初めての女子更衣室に俺達は突入していった。いや、初めてじゃないとおかしいんだけどさ。潤に何かあったのかと思ったら気が動転して、思考が加速し始めていたんだ。ドリンコは置きっぱなしだった。



次回、衝撃展開ッ……!(非物理的に)

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