表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/21

いのせんっす!3-4

『家族』の突然の変貌。

過酷な選択を受け入れられなかった主人公。

ヒロインはその結果、敗北。激しい『責め』を受ける事になる……。

3-4

 俺は母さんの変わり果てた姿を見て言葉が出なかった。

薄暗がりの中とはいえ、十分に原形が破棄された事を視認できる状態だったので。

 そして「ソレ」は俺の名を呼ぶ。

「としあきィいぃとしあきィいイィ」

「あ……あ、……あ……」

 自分の名前が呼ばれてこれほど反応を返せなかったのは初めてだった。

「どうしたの? ちゃあァんと、返事をしなさい?」

「え、あ、う……」

 指摘されて発声行動を起こそうとするも口がパクパクと動くだけ。

 まあどちらかといえば口よりも身体を動かす努力をするべきだったのかもしれないが、あいにく俺の片腕は相変わらず母さんに常人離れした力でつかまれたままでどちらも動かす事ができなかった。

「お前がこれ以上ないくらいバカで、ありがとおオオォォオォォって、言ったんだよオォオォ?」

 残響する真実。

 残響する言霊。

 そして母さんの腕から、触手が幾本も、肉を突き破って生えてくる。それらが俺を一瞬にして捕縛する。

 俺は母さんの前に磔にされたような状態にされ、センと向かい合う事になる。

 センは怖気づく事も無く、先程はねのけられたマジックステッキを拾っていた。

「あまり調子に乗るなよ、カスが」

 こちらをねめつけたセンの瞳は一際赤く輝いている。

 マジックステッキを振り上げるセン。

「死ね!」

 直接的な生命奪取命令文を口にしたセンは一瞬で間合いを詰める。

 鈍器兼刃物が目前で振り下ろされようとしていた。

 多分あれが直撃すれば母さんに取り憑いた化け物は死滅するだろう。ひょっとしたら母さんも殺されるかもしれないけど、でも今はあまり心配するだけの精神的余裕が無かった。

 え、だって俺も殺されるかも

「おおっと、私を攻撃したらこの子まで死ぬ事になるけど、それでもいい?」

 母さんは触手を使って俺の身体を上方に持ち上げるとセンの攻撃の軌道上に持っていく。

「くっ、卑怯な!」

 センの動きが一瞬止まる。異能戦士の事だから躊躇せずに俺の脳天ごと切断しようとするかと思ったんだけど、止まってくれた。

 それがよかったのかどうかはわからない。

 だってそのせいでセンのステッキは再びはねのけられ、今度はセン自身の身体も触手でがんじがらめに拘束されてしまったのだから。

「み、見るなぁあああぁぁぁ……」

 センが捕まってしまった。

 今回センは『残像』を発動させる事もできなかったようだった。

 リロードが間に合わなかったのかもしれない。何日に一回とか決まっているんだろうか。

 結構あれは魔力使いそうだしなあ。魔力っていう表現でいいのかどうかわからないけど。

 とにかく、魔法の発動も、その後の回避も失敗してしまったのだ。

 ……何かセンが助かる他の方法は無いのだろうか?

 わからないが現状センは触手によって無理やりポージングを取らされあられもない格好をさせられ、俺は興味を失われたのか床に放りだされて放置されていた。

 俺の次の行動は立ち上がっての全力ダッシュもとい敵単体へのタックル攻撃だった。

 ……そうだ。 俺にはこれがあった!

「うおおおおお!」

 玉砕覚悟のバンザイアタック!

 二次元に造詣の深い俺に言わせれば漫画の主人公は事前に友情努力は全力でやってる。

 けどそれが通じないと最後は結構気合いで倒しちゃったりしてるもんなんだ!

 よし、俺もなる! 今日から俺も主人公になるぞオオオォ!

 ドスッ。


「え……」

 俺の足に敵の触手が打ちこまれていた。

 母さんの腕から生えた触手だ。先端が鋭利な刃物上になっていたらしい。

 今さら気付いてもあとの祭りだが、どうもあの触手は硬質化できるようだ。

 しまった。もっとアダルトな感じだと思ってたのに、これじゃ右腕に獣が寄生するシリアスな触手漫画並にホラーな被害者にさせられてしまうじゃないか。

 右膝に激痛が走る。

「うっぐ、ぎゃああああ!」

 DEATHよねー、という自嘲文句さえ紡ぎ出す事ができないほどの激痛が右足に走る。

 そのまま触手が至る所から飛んできて、俺を縛り上げてうつ伏せに押し倒してしまう。

「ぐっは!」

 一瞬で意識を持っていかれそうになるほどの衝撃。

 さらに首にまきついた触手が俺の意識を完璧に狩り取ろうとしてくる。

 その時、俺は何故か自分の事ではなく、センの事を考えていた。

 ……センは、センは大丈夫なのか?!

 目だけを動かしセンの下半身を見つける事に成功する。

 だけど、俺の首は頭は、触手に固定されていたせいで動かなくて。

 だから俺は薄れ行く意識の中で、必死に自分に思いこませようとしていた。

 ……あれだけ理不尽な強さを持っていた奴なんだ、きっと大丈夫だよな。きっと。

 ……あいつなら、大丈夫。

 ……俺の意識はそこで遠くなっていった。

「あじゃんぽろにょっほろおじょんぱにょふえぁぅおっほおぉぉぉぉ!」

 耳障りな声が聞こえて俺は目を開ける。

 ……センが触手から拷問を受けている所だった。

「死ぬ死ぬ■ぬ死ぬじぬうウうゥうゥウウゥゥぅゥうゥ!」

 俺が気を失ってから目覚めるまでずっと責められていたのだろう。

 センの表情は既に常軌を逸していた。

 見開かれた目は焦点が合っておらず、痛みにより強引に意識を覚醒させられていた。

 触手の責め苦が止むとセンは気が抜けたのかだらしない表情をしたまま。

「あへっ」

 解放されたセンは床に崩れ落ちた。特にダブルピースもしていなかったし、既にセンに抵抗する力も残っていなかった。

 母さんが、いや、母さんに寄生した化け物(どうでもいいけど「怪物」より「化け物」の方が相手を嫌悪したニュアンスがある気がする。気がするだけだし、どうでもいいけど、でもこっちをあえて今は使いたい)は、センを既に脅威と認識していなかった。

 センは壊れてしまった。

 人形みたいなセンは人形みたいにもろく、あっさりと壊れてしまった。

 その光景はあっさりではなかったけれど、時間的にはあっさりに感じた。

 ああ、ダメだ。ダメだ、ダメだダメだダメだ。

 このままじゃ。このままじゃ、ダメだ!

 こんな風にセンが傷付いている姿を見るのは嫌だ!

 なんとかしなきゃ! 俺が!

 ……だけど、どうしたらいいんだ?

 バンザイアタックが通用しないんじゃまるっきりお手上げだ。

 俺には他に攻撃の方法が無い。

 自分の力が足りない現状、敵に勝利する手段は無い。

 俺はマンガだとかアニメだとかライトノベルの主人公じゃあないから。

 仮にそういう世界の主人公であったとしても今から友情努力を育むには時間が足りな過ぎて勝利には手が届きそうにない。

 ちっくしょう、こんなところで死ぬのかよ!(家だけど)

 死ぬ覚悟とか、全然できてねーよ。

 ていうか、本当、もうちょっとなんとかならんかったのかな。

 ノベルゲーム的にいうなら俺の選択が何か間違っていたからこうなったんじゃないのか?

 くそ、俺がもうちょっとかなり大分強ければ、守れたのに。母さんも、センも。

 でも俺の身体には相変わらず力が全然入らない。

 ふぐぐぐぐ。

 あー、俺、役立たず。

 気付いたら俺の目から涙が出ていた。

 センはクトゥルー的でない混沌の中俺の方に這い寄り、

「泣かないで。キミが悪いんじゃない。私が、私が弱かったから。だから、泣かないで」

 ささやくような声だった。

 既に声を発する事さえ苦しい状態なのだ。

 俺はセンを、母さんを、守る事ができなかった。

 想像を絶する無力感が俺を襲った。

「だ、だってっ、うっ」

 ボロボロになった魔法少女のコスチュームを身に纏ったままセンは、うつぶせで這いながら俺の方にやって来た。

 魔法少女の姿を保ってはいたが初めてあった時のような力強さはみじんも感じられない。

 普通の女の子が、ひどく痛めつけられているようにしか見えなかった。

 それなのに、俺の事をなぐさめようと必死に身体を引きずってきている。

 ……なんでだよ。

 なんでお前は、そんなボロボロの体になってるってのに!

 どうして!

 どうして俺なんかの事を気にかけるんだよ……!

「泣かないで」

 センが俺の頬をそっと撫でる。

 俺の涙が、センの指先を伝っていく。

 その時だった。

 爆発的な雷光が来光した。

 大事な事なので多重表現しなければならないくらいの明るさだった。

 簡単にいうなら、光が強過ぎて真っ白で何も見えない。

「な、なんだこの強力な力は!」

 触手に取り憑かれた母さんがあわてふためいたような声を上げる。ついで、悲鳴。

「うっ、ぐ、ぐああぁああぁ!」

 手で両目に入る光量を抑える事で母さんの影がわずかに見えた。

 体から生えた触手が引き千切れ、燃えるように消えていく。

 ちなみに燃えているようで本当に燃えているわけではないのはわかっていたし当然萌えもしない。触手が新たに生えてこないようだったって事なんだけど。

 床にうつぶせに倒れた母さんを、片足を立ててぐったりと壁によりかかり座っていた俺は何故かボロボロになったはずの衣服が完璧に元通りになっている魔法少女に対して(ほんと、どうしてなんだろうね?)、

「こ、殺しちまったのか?」

 首肯。おい待て。

「寄生してた邪念体だけ。宿主は無事」

 ……そうか。ほっ、ふっ、はぁ~、良かった。

「母さんは、助かったって事だよな」

 一気に俺は安堵する気持になり、実際ほっと息を吐いた。

「うん」

「もう、助けられないって言ってたのに」

「キミの涙」

「涙?」

「不思議な力が流れ込んできた。その力のおかげでいつもはできないような事が、できた」

 そっと俺の目元にセンが指先を当ててくる。

「乾いてる」無機質な声。

「みっともないと思ってぬぐっちまったんだ」

 と、下腹部に激痛が走った。原因はわからない。

「ふんぐぉ!?」

 左フックがボディーに突き刺さったせいだと気付いた時にはセンは既に右ストレートの準備をしていた。……え、それ、俺に当てる為に握り締めてるんだよね?

 腹、顔、アゴ? え、あ、いや、うええぇえぇ?

「ちょ、タンマ。まじタンマ。死ぬ死ぬ死ぬひぬ死んじゃいますうぼえひでぶぐぁああ」

 流れるようなコンビネーションで上下に打ち分けられ、ボコボコにされる俺。

 あっという間に十五回戦闘い抜いたボクサーみたいになってしまう。

 当然、鼻血は出るし、痛くて涙が出てくる。

 この涙は、反射的に出てしまったものだ。

 つまり肉体が精神に関係なく涙を流すように、そこまで考えて殴られたというわけだ。

 センは俺の目から滝のようにあふれ出ている(マンガだったら床がビショ濡れになるレベル)涙を指先ですくって、自分の口元に運ぶ。そしてその指をしゃぶる。

「あむ、んむ、はむぅ」

 ちゅぽっ、という音がして、センは自分の指先を不思議そうに眺めている。

「……どうしてだろう。何も効果が無い」

 顔面殴打の衝撃で意識を失いそうになりながらも俺はその光景に見惚れてしまう。

 あー、ダメだ。

 俺、完全にこいつに虜にされてる。

 正直な話今の俺にとってみれば、母さんも助かったし、センの耽美な様も見れたし、自分の顔がボコボコに腫れあがってるのなんて些事に思えるよ。

 ははははは。……こりゃ、殴られ過ぎて頭おかしくなったかな。

 さっきの光の中で母さんに付けられた傷は(何故か)治ったのに、また傷だらけ。

 ははははは。

 センは手際良く母さんを自分の寝室まで運んでいく。

「しばらく寄生しないように予防魔法をかけておいたから。魔力消費が激しいからあんまり使いたくなかったけど」

 とりあえずしばらくは母さんに邪念体が寄生する可能性はないみたいだ。

 それにしても、いつの間に母さんに寄生していたんだろう。

 一瞬、あの右手に触手が寄生するマンガの事を思い出してしまった。

 よかった。母さんが死ななくて。

なまっちょろい優しさの主人公。

それに翻弄され本来の力を出せないヒロイン。

だけど奇跡は起こる! それがなんでかわからない!

だが、それがいい! 私も、あまっちょろい理想を抱いて生きていきたくなるぞォ!

次回、恋の三角関係に事件が……!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ