いのせんっす!3-3
やはり魔法の定番といえばEFB。
というかね、就寝時ヒロインをどこに寝かせるか?
コレって家の構造考えたりしないといけないから結構大変な気が。
ふとんがふっとんだんでなんとかなったけど。
3-3
父さんと母さんの写真が飾ってある棚の近くに付いているスイッチを押す。電気を消し、寝る準備をする。
「私はここでいいから」
センは窓辺にあるスペースにパジャマ姿で体育座りをしていた。
「押入の方がよくないか?」
既にベッドに寝転んでいる俺から提案。しかしセンは、
「敵が窓から来る可能性もあるから。ここがいい」
「そうか」
「なんで押入?」
「いや、なんとなく。髪も青っぽいし」
「?」
あいつは髪の毛ないけどな。
劇場版と通常版の剛田君の違いに心を痛めているに違いない青ダヌキ様に想いを馳せてみた(馳せる必要があったかどうかわからないが)。
ていうかなんでセンと22世紀の猫型ロボットを同列視?
……押しかけ同居人という意味では同じだからか。一緒にいてドキドキする事は多分あの眼鏡はなかったと思うが(ていうかそうなると俺の位置は学年一の劣等生か。中学生になってそれはちときついな)。
うーむ、どっちが大変なんだろうね?
とりあえず日常生活のヘルプは俺の方は無さそうだしなあ。
ていうか、
「お前も大変だよな。毎回命がけで、あんな化け物と戦っているんだろ?」
「私の世界の人達の方が、もっと大変な目にあっているから。これくらい全然平気」
そう言ってセンは月明かりの中で笑う。
その笑みは少し寂しそうだった。
「邪念体も、私に取ってみればゴミみたいなものだし。相手にならないわ」
天空の城から見下ろしている感じという事か。
初めてセンにあった時の事を思い出す。
確かにあれだけ圧倒的な力を持っているセンからしてみれば、自分の任務を遂行するのにあの程度の化け物など、なんの障害にもならないのだろう。
「でも、言ってたボスとかってのは、普通よりずっと強い邪念体なんだろう? 大丈夫なのか?」
「……わからない。ひょっとしたら負けるかもしれない。殺されるかもしれない」
「お、おい! お前が負けたら俺やこの街にいる人間だって……!」
センは俺の保身(リアルな意味で)から来る過度の安全確認に対して、これは言ってもいいのかどうか、というように逡巡しつつも、
「実はね、確実にその邪念体を倒す方法はあるの」
「なんだねそれは?」
俄然興味の出る俺。
「EFB」
「なんだそれは?」
いーえふびー。聞いた事も無いアルファベットの組み合わせだ。
「古代伝説の暗黒魔竜の力を借りて遠隔の情報を手に入れる禁呪、を遥かに超える究極魔法。これを使えば、どんな敵でも確実に殺す事ができる。正確にいえば、相手は死ぬ、っていうか」
……殺すも相手は死ぬもおんなじじゃないか?
まあいいか。
なんにせよ……。
「すごいじゃないか。それを使えば、どんな敵でも倒せるんだろう?」
「ええ。昔は『先制トド』『ぜったいれいど』とも呼ばれ、使用する者は畏怖の対象になった、とさえ言われているわ」
「変わった呼ばれ方されてたんだな……。氷系の魔法なのか? なんかフロンティアな香りがするが……」
「私は、開発の怠慢ではないと信じたい!」
「何の話をしているんだよ?!」
「わからない。こっちの世界の思念で私の肉体は構成されているから。思念にノイズが混じっているのかもしれない」(真顔)
「……そうか」
まあ、いいや。
「とにかく、そんなすごい魔法が使えるなら、安心だな」
「ええ、一つ問題はあるけど」
「なんだよ」
「私は完全にその魔法を修得したわけではないの。EFBは、禁呪。禁呪故に、使うものの精神さえ支配してしまおうとする。力への渇望を、呼び起こす」
「別に強い魔法使おうとしてるんだから、問題ないんじゃないのか?」
「何事にも、程度が必要。魔法は、枕詞として詠唱時間を長くすればするほど力がます傾向にあるの。だから、魔法に術者が飲み込まれてしまうと」
「詠唱終了まで多大な時間がかかってしまい、実戦には向かないってわけか」
「ええ。本当に実戦で使えるかどうかは、試してみないと、わからない」
「なるほど。ぶっつけ本番は危険が伴うな。普通の敵に使って大丈夫かどうか、試してみた方がいいかもしれないな」
センが首肯する。その時だった。
階段を登ってくる足音がする。
しかも、かなりでかい足音で。
うん、今まで聞いた事が無いよ、こんな足音。
なんかへんなのがきてる。それだけはわかった。
危険を感じた俺は急いで俺はセンを抱き入れ、布団に隠れる。
「俊明の心臓の鼓動、速い」
「十割がた化け物が迫ってるかもしれない恐怖のせいって事にしといてくれ」
「他に何かあるの?」
「いや、何も無い」
これ以上は何も言いたくない。
知られたくない。
恥ずかしいから。
……なので別の話題。
「何がここに向かってきてるんだ」
「敵。間違いない」
そう、か。
同じ世界のものどうし、感じ合うものがあるんだろうか。
逆に言うと敵もセンの存在を察知してここに来た可能性がある。
それがセンを俺の家においておきたくない理由の一つだったんだけど、今は既にそんな事を言っている場合じゃあない。
にしても、敵、敵?
特に生物ハザードの最初のシーンみたいにガラスを割って怪物が侵入してくるような音は聞こえなかったんだが。
といっても……。
まあ、母さんは二階までは基本的に来ないしなあ。
こんな夜中なら、なおさら。
「先に変身しておくから」
布団の中で変身するだなんて、魔法少女としてどうなんだろう?!
なんていうか、緊迫感が無さ過ぎる気がする。
そんな俺の思いをよそに密着状態のセンが変身の呪文を詠唱すると、まばゆい光に包まれ、一瞬彼女がまとっている衣服が消える。
ええ、私と密着状態でそのような事があったわけです、ええ。
もちろん私も寝間着を着ていたので、詳しくはわかりませんでしたが、ええ。
「詳しく」というのがどういう事を意味するかどうかもよくわからないくらいわからなかったんです、ええ。
というか、光る布団って、はたから見たらかなりシュールだろうな。
などと余計な事を考えてしまう。
多分今若干動揺しているんだろう。
その為に思考速度が加速されているようだ。
扉の前に人が立つ気配がする。
「さっき言った魔法、試してみるね」
ドアが開く。
ソレは特に迷いも無く歩き来たりて、俺のベッドの前に立つ。見なくても気配でわかった。
大丈夫かよおいぃ?
このまま鈍器でも振り下ろされたら、そのまま腰骨破壊されて半身不随になりそうなんだが。
布団にくるまっている俺達は当然敵の動きを見る事が出来ない。
大丈夫なのか?
センの身のこなしならその動きを察知して回避できるのかもしれない。
だが俺は?
……なんか身代りにされてるような気がする。
と思いつつもベッドに二人いる事を気付かれないよう、うつぶせになって必死にセンの姿を覆い隠そうとしている俺。
自分から盾になりにいっているようなものだ。
なんでこんな真似をしてるんだろう?
……なんでだろうな。
「俊明」
ベッドの前に立っている何かから声が発された。
しかもその声紋は……。
母さん?
そこでセンがふとん(と俺)をはねのけて飛び出す。
「この魔法の属性は氷、あなたの属性は……炎? そう、影羅、あなの思念が宿っているのね……。だけどそれが命取り! 喰らえッ! エターナルフォースブリザ……うぐぅ!?」
(何故か疑問文の入った)魔法の詠唱中に攻撃を受けるというありきたりなパターンでセンの変な形状の、夢がいっぱいつまってそうな杖が触手にはねのけられてしまう。
ステッキは怪物の足元に落ちた。
怪物かどうかは、これから俺が確認するんだけど。
「マジックステッキが!」
そうか、マジカルじゃないんだな、とか俺は冷静に分析していた。
だいたいこれ系って、「マジカル」な気がするんだが。
日本語英語の用法がおかしいと指摘される事が多々ある(誰からかは知らない。日本語の名前も覚えていない我がクラスの英語の教師かもしらない)が、「カル」って、「~の」って意味だよな?
つまり「魔法の」って事で、センのマジックステッキより英語の用法的には正しい事になる。
最新版の日常異世界製製英語をリスニングしてみたところ、若者の言葉の乱れがそこにはあった。
などと思考加速して考えている俺は多分今相当焦ってるな。多分。
っていうかさっきのEFBって何の略だったんだろうな、どうでもいいけど。
「って言っても、あんたごとき殺すのに、魔法なんて必要ないけど」
センの口元が残酷に歪む。
嗤っているのだと理解するのに数瞬を要した。
センの両の手の拳が握り込まれる。
左足を前に出して半身に構えたと思ったら、既に間合いに踏みこもうと突進している。
右の手が振り上げられる。
「くたばれ蛙の小便よりもゲスなクズがあァあアァ!」「やめろセン! 殺すな!」
ボゴッ。
俺の頬に鉄球でも打ちこまれたような衝撃が走る! 俺は後方に吹っ飛び、「ナニカ」にぶつかって、それがクッションになり、止まった。
「君、なんでこんな事」
「母さんなんだ! 子供の時からずっと、俺さえいなきゃ良い男見つけて、もっと幸せな生活できたに違いないのに、俺の、俺なんかの為に自分の人生犠牲にして、俺の事、育ててくれた、大切な母さんなんだよ! まだ、まだ殺さなきゃダメかどうかなんて、わからないだろ!? まだ、この前みたいに寄生してるなかの悪い化け物だけ殺せるかもしれないじゃないか、間に合うかもしれないじゃないか! だから、まだ、殺さないでやってくれ!」
「君、この期に及んでまだそんな甘い事言ってるの」
心底冷え切った眼で見られた。
「やっぱり、君もこっちの世界の人間なのね」
軽蔑しきった、ドブ川の汚水でも見るような表情。
……俺が自分の家族を救おうと願うのは、そんなにも愚かな事なのか?
「ありがとう俊明」
背後から声が聞こえた。
ひどく明瞭で、いつも通りの母さんの声だった。
母さん! そうだ、母さんは無事だったんだ。よかった!
身体を回転させて後ろを確認しようとすると母さんに腕をがっちりと掴まれて回る事ができなかった。
ん?
なんでこんな事をするんだろう? 俺はなんとか上半身を少しとあとは首の回転でもって後方を確認する。俺の後ろには、ネグリジェを着た母さんが立っていた。目と耳の穴から触手を生やした、母さんが立っていた。
「やっぱり、君もこっちの世界の人間なのね」ヒロインは主人公に何を感じて好意を抱いたのか? そこには何もないように見えて実は理由があったのか?
ていうかそんなことより次回……バトル展開……ッ!!




