【短編】小鳥姫と凶悪エルフの大魔法使い
窓から朝日が差し込み、私はご機嫌で伸びをする。
それから羽の手入れをしていたら、侍女が私の鳥籠の前に立ち、ニッコリと微笑む。
「おはようございます。カトレア様」
「おはよー!」
鳥籠から出してもらうと、私は朝食を食べるため、食堂に向かう。もちろん飛ぶのが面倒くさいので、侍女の肩の上に乗って。
食堂に着くと、お父様とお母様がニコニコと顔を綻ばせた。
「おはよう。カトレア」
「今日も真っ白な羽が可愛いわぁ。もふもふね」
褒められて嬉しくなった私は、その場でえへんと威張る。
「ふっふっふ。私のもふもふボディに触れたければ、ひまわりの種をくださいっ」
「うふふ。もちろん用意してるわ。さあ、一緒に朝食をいただきましょう」
私はテーブルにぴょんと飛び降りた。お父様とお母様も椅子に着席する。
それからわたしは両親と一緒に楽しい食事の時間を過ごしたのだった。
ここまで書けば分かると思うけど、私は小鳥だ。
真っ白でモコモコした体。黒くてつぶらな瞳。大きさは手乗りサイズでそれも可愛い。
私は可愛さであふれたこの姿が大好きだった。
でも、両親は普通の人間だ。
なぜ人間の両親から小鳥が生まれてしまったのか——? それには深いわけがあるのだ。
数十年前。
お母様が結婚する前、お母様はアロワナ王国の姫として暮らしていた。
その時アロワナ王国は荒れていて、国を救うために一人の魔法使いを雇っていた
その魔法使いは、ルグフというエルフの男だ。
北の大地の大魔法使いと呼ばれていて、その力で世界さえ滅ぼせると言われていた。
ルグフがアロワナ王国に仕えていたのは、お金のためじゃない。ある、約束のためだ。
その約束とは、アロワナ王国の姫——つまり私のお母様との結婚だった。
お祖父様は、ルグフがアロワナ王国のために力を使ってくれたなら、娘の姫と結婚させると約束したのだ。
だが、その約束は反故にされた。
ルグフがドラゴンと戦い怪我を負ったとき、治すために数年の眠りについたのだが、お祖父様はその隙をついて、姫を隣国の王子様と結婚させてしまったのだ。
なぜそんなことをしてしまったのかと言うと、姫には胡散臭い魔法使いではなく、肩書きのあるしっかりとした王子と結婚させたかったという親心だったらしい。
だが、怪我が治り長き眠りから覚めたルグフはことの顛末を知って激怒した。
なぜ、姫が他の男と結婚している!?
私との結婚はどうなった!?
アロワナ王国の王は、私を騙したのだな!?
怒り狂ったルグフは姫と隣国の王子の間に生まれた私(当時三歳)に呪いをかけた。
それは私の体を小鳥に変えるものだった。
小鳥になった私を見て、ルグフは哄笑したそうだ。
「わはははは! お前たちの大切な子どもを鳥に変えてやった! この子どもは一生鳥のままだ! 苦しめ! 苦しめー!!」
そう言って自分の住処の北の大地に帰っていったそうだ。
残された者たちは大パニックになった。
なんとか姫を元に戻せないか?
なんとかルグフの怒りを鎮める方法はないか?
何日も徹夜で話し合ったらしい。
だけど当人の私はご機嫌だった。
だって城の生活など退屈でつまらないんですもの。
それより小鳥さんになれたら好きな時に好きな場所へ飛んでいける。
もふもふボディも可愛らしいし、この姿になれて良かったーとみんなに主張した。
すると、お父様とお母様が「あぁ……そうなの? カトレアが気に入っているのならそれで良いか……」と落ち着きを取り戻してきた。
二人が落ち着いてきたことにより、周りも落ち着いてきた。
「まあ、小鳥姿のカトレア様も可愛らしいし……」
「本人がそれで良いと言っているなら……」
そんな感じで、みんな徐々に小鳥の私を受け入れていった。
それから私の人生ならぬ——小鳥生が始まったのだった。
人間だった頃はいつもお城から出してもらえなかったけど、小鳥になってからは好きにお外に出られた。
朝から晩まで力一杯飛んだり休んだり、おやつの木ノ実を食べたり——。
最高の生活がそこにはあった。
しばらく城の周りばかり飛んでいたのだけど、少し体が大きくなってきたので、遠出したくなった。
どうせなら知っている人のお家に遊びに行こうと思い、ルグフの家に行くことにした。
北の大地に住むルグフの家は、ここから飛んで二日くらいだ。プチ旅行気分で出発する。
お父様とお母様には行き先を話したけど「ご迷惑かけちゃだめよー」ぐらいしか言われなかった。
基本的に、おっとりした人たちなのだ。
天気が良くて気持ちいい。
飛んでは休み。お水遊びをしたらまた飛び。お腹が空いたら木ノ実を食べる。
そんな感じでのんびりとプチ旅行を楽しんでいたら、ルグフの家に着いた。
窓が開いていたのでそこから入ると、ルグフはなにやら小難しい本を読んでいた。
「ルグフー。遊びにきたよー」
私に気付いたルグフは目を丸くして叫んだ。
「な、なんだお前!? なぜここに来たのだ!?」
「だから遊びに来たのー」
「ば、馬鹿かお前!? 呪いをかけた張本人の家に遊びにくるな!」
「だって私、あんまり友達いないんだもん。それより、遊ぼうー」
そう言って肩に乗ると、ルグフはギョッとしていた。
だが、流石に振り払うのは可哀想に思ったらしく、肩に乗せたままため息を吐かれた。
「お前は変わった子どもだな……」
「そんなことないもん。それより、なんのご本読んでるの?」
「魔導書だ」
文字を目で追ったけど、子どもの私が読めるような簡単な内容ではなかった。
「分からないよー。分かるように噛み砕いて説明して」
「生意気な。噛み砕いたところでお前なんかには理解できん」
「できるもん。読んでー」
ルグフは嫌々ながらも噛み砕いた言葉で私に説明してくれた。
それをふむふむ聞いて一時間。
「意味わかったか?」
「分かんなかったー」
「じゃあ、もっと早く言えよ! 一時間も喋らせおって」
そんな会話をしながらルグフは夕飯を作る。
私にはひまわりの種を用意してくれた。
二人であーだこーだおしゃべりをしながら夕食を楽しんでから、ルグフのベッドに向かった。
「お前……今夜は泊まっていくのか?」
「うん!」
「親が心配するんじゃないのか?」
「大丈夫。ルグフの家に行くって伝えてあるから」
ルグフは頭を抱えた。
「私の家など、余計心配するだろうに……! お前の親はゆるすぎる!」
「あははー。そうかもね」
そんな会話をしつつ、私はベッドのヘッドボードにちょこんと乗り移り、ルグフと一緒に眠りについたのだった。
次の日。
「じゃあ、また来るねーー!」
「もう来るなーー!」
そんな会話をして別れた。
しばらくしたら、またルグフの家に行きたくなったので向かう。
すると、今度はお部屋に鳥籠が用意されていた。
「ルグフ。鳥籠用意してくれるなんて、私のこと泊まらせる気満々じゃん」
「うるさい」
そんな感じで、私とルグフの交流が始まったのだった。
ある日ルグフの家に行くと、沈んだ表情をしていた。
どうしたのか聞くと、ルグフは暗い声で言った。
「なぜ私の家に来る? 私はお前を小鳥にした悪しき魔法使いなのだぞ?」
「ルグフは悪くないよ。私のお祖父様がルグフとの約束を破ったんでしょう?」
私がこうなった理由は、前もってお母様に聞いていた。
ルグフはお母様と結婚する約束をしていたのに、お祖父様が約束を破ってお父様と結婚させてしまったらしい。
「……」
「だけど、お母様とお父様ってラブラブだから、今更横恋慕出来ないと思う」
私の言葉に、ルグフはどこか諦めたような表情をして憎まれ口を叩いた。
「……ふんっ。消えろ、チビ鳥」
「やーだもん。ルグフ、遊ぼうー」
そんな調子で小鳥になった私はルグフにとっても懐いたのだった。
それから十年の月日が過ぎた。
私は相変わらず小鳥のままで、ルグフの家に頻繁に遊びに行く生活を続けていた。
その日も家に行き「遊ぼうー」と声をかけると、ルグフは苦しそうに叫んだ。
「いい加減にしてくれ! 私の家に来るのは、お前のせいで小鳥になってしまったと責めるためか!?」
どうやら私に対して罪悪感を感じているようだ。
私はフルフルと首を横に振る。
「違うよー。ルグフとおしゃべりするのが楽しいから来るの」
「チビ鳥……」
ルグフは泣きそうな表情をしながら、私のちっちゃくてふわふわな頭をそっと撫でた。
「お前には負けたよ……。私の汚れた醜い心が、お前の無垢さに浄化されてしまった……」
「?」
「仕方がない。元の姿に戻してやるよ……」
「え!?」
ルグフがなにやら呪文を唱えると、私の体からもくもく煙が上がった。
そして、ぽんっという音と共に、人間になった私が現れた。
「わっ! わっ! 人間になっちゃった!」
急いで姿見鏡の前に立つと、全裸の少女が映っていた。顔がお母様に似ている。お母様を若くしたらこんな感じなのかしら? と考える。
すると、後ろに立っていたルグフが、私にマントをかけてくれた。
それで体を隠してから、ルグフに質問する。
「なんで人間に戻しちゃうの?」
「お前も年頃になったからな。いつまで小鳥のままでは王子と婚約できないと思ったのだ」
ふーーん。ルグフは私が他国の王子様と結婚すると思ってるんだ。
だけど残念。
私には、小さい頃から好きな人がいるんだから。
「そう。残念だけど、私は王子とは結婚しないよ」
「?」
「だってルグフと結婚するんだもの!」
「ば、馬鹿かこのチビ鳥が!」
と言いつつ、ルグフは真っ赤になっていた。
「ねえルグフ。私、お母様の若いときに似てると思わない? 私をお母様の代わりにしていいよ」
私の言葉に、ルグフはキッパリと否定した。
「全然似てない……」
「え?」
「お前の方が、母親よりずっと優しい……。カトレア、お前は私が一人で寂しかったことを知っていたのだな? だから毎日遊びに来てくれた。お前の優しさに感謝する。だが、もう私の闇はお前の優しさで浄化されたのだ。これからは、好きなところに行き、好きな生活を歩みなさい」
「……はーい」
はーいとか言いつつ、私はルグフの家で暮らし始めた。
さすがのルグフもこれには突っ込まざるを得ない。
「なんでだお前!? 家に帰れと言うに!」
「だってルグフのところにいたいんだもの」
「……」
私はチュウとルグフのほっぺにキスをして、ニコリと微笑んだ。
「お母様とお父様に、私とルグフの結婚のこと言おうね!」
「なっ……!?」
照れつつも嫌がらなかったので、実は満更でもなかったのだろう。そんなルグフを可愛いと思いつつ、二人でお城に帰った。
まず、両親は私が人間に戻ったことを泣きながら喜んでくれた。
次にルグフとの結婚のことを話すと、二人ともニコニコと祝福してくれた。
「ルグフ……。あの時はごめんなさい。カトレアと幸せになってね」
「それで良いのか!? お前らはー!! 反対しろよ!!」
「だってカトレアが選んだ人ですもの。そんなに悪い人じゃないわ」
呑気な両親とその子どもに、頭を抱えるルグフなのだった。
それからルグフは私と結婚し、王族の仲間入りをした。
ルグフを騙したアロワナ王国のお祖父様は存命で、いつルグフに滅ぼされやしないかとビクビクしている。
そんなお祖父様のことを考えながら、ルグフは鼻を鳴らす。
「ふんっジジイ。本来なら八つ裂きにするところだが、今回ばかりは許してやる。なぜなら私は、カトレアに出会えたのだから」
まあ! 嬉しいことを言ってくれるわね!
そんなことを思いながら、私はルグフの肩に乗った。
ルグフは人間に戻してもまた小鳥になりたーいと騒ぐ私に呆れ、好きな時に小鳥になれるよう魔法を施してくれたのだ。
そのため、私はいつも小鳥の姿でルグフの肩にとまっている。
ルグフがお祖父様のことを考えてまた凶悪な顔をし始めたので、私は「めっ」と叱って羽をバタバタさせたのだった。
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